「20代の自分を刻んでおきたい」今年3月に29歳となった佐藤健はこう語る。
 死ぬことがない新人類を演じた『亜人』、意識不明となった婚約者を待ち続ける献身的な男性を演じた『8年越しの花嫁 奇跡の実話』、クールで理性的なヒロインの幼馴染役を演じるNHK連続テレビ小説『半分、青い。』など話題作への出演が続き、今後も出演作が控えスクリーンに出ずっぱりの佐藤だが、今は「仕事」をする時期だという。

 4月20日(金)より全国公開される奥浩哉原作による実写映画『いぬやしき』では墜落事故に巻き込まれ驚異の力を手に入れた結果、大量殺人鬼となる高校生・獅子神皓役を熱演。今までのイメージにはなかった悪役に、佐藤はどのような思いでのぞみ、どんな姿を刻んだのか。そして30代を前に役者として何を思うのか、話を聞いてきた。



 

■高校生役に「僕でいいの?」

――オファーが来た時の率直な感想をお願いします。

佐藤:僕でいいの?って思いました。高校生でしたし、そこが大きいですね。ただ、原作を読んでものすごく漫画自体にもキャラクターにも魅力を感じたので、やりたいなという思いはあって。嬉しかったと同時にびっくりして、本当に僕でいいんですか?と思いました。


――高校生役はいつぶりでしょうか?

佐藤:はっきりは覚えていないんですけど、『バクマン。』ぶりですかね。前回高校生役をやったときも「これが最後」って思ってやっていました(笑)。

(c)2018「いぬやしき」製作委員会 (c)奥浩哉/講談社


――さらに今回は今まであまり佐藤さんにイメージのなかった悪役ですよね。難しかったところ、意識したところはありますか?

佐藤:あまり悪役っていうことは意識しなかったです。「獅子神皓」という人物を掘り下げていっただけで、いい人とか悪い人っていうのは意識しなかったですね。獅子神は若さゆえに過ちを犯してしまうようなところがあるキャラクターなので、「高校生である」ということはマストで、映画用に年齢を改変して大学生とかにしたらやっぱり違うんですよね。すごく純粋であるがゆえに、若さゆえに間違った方向にいってしまうので、そういうところを表現できたらいいなと思って演じていました。

■圧巻のフルCGシーン

「『いぬやしき』は日本映画の可能性を広げる作品」


――獅子神役への抜擢、周りから反響はありましたか?

佐藤:『いぬやしき』が好きだっていう人が周りに多くて、僕が獅子神をやるということよりも、映画化するっていうことにびっくりしていました。みんな予告編を見て、すごく楽しみにしてくれています。

――特にここを見て欲しい!というシーンはありますか?

佐藤:やっぱり新宿上空バトルのシーンですね。日本映画のVFXはここまで来たのか、と思ってもらえるようなシーンになっているので、そこがこの映画の最大の魅力なんじゃないかと思います。

(c)2018「いぬやしき」製作委員会 (c)奥浩哉/講談社


――バトルシーンなどは、グリーンバックで撮影されたんですか?

佐藤:グリーンバックでもやったし、実際に僕たちの全身のデータを写真で撮って、それで僕たちが何もやらないでフルCGで作られたシーンもあるんですよ。時間でいうと、全体で10分くらいかな。僕自身も初めての経験だったし、日本映画でいってもほぼ初の試みなんじゃないかと思います。
自分の芝居なんだけど、自分は何もしないっていうことだから、不安じゃないですか。だからずっと現場で「そこさえ面白ければ、この映画は面白いんですよ」ってプレッシャーをかけていました(笑)。でも、そんな不安を吹き飛ばすくらいの、想像をはるかに超えたクオリティのものを提供されたので、本当にびっくりしましたし、「あの時はすみません、本当最高でした」っていう(笑)。
表情が鮮明に見えるところもフルCGだったりしますよ。僕自身も木梨さん自身も、本物なのかフルCGなのかわからないシーンがあります。ずっとリアルに撮っていたものから突然フルCGになると違和感があるんですけど、そのシーン全部をフルCGにしちゃっているので違和感がないんですね。だから、結構意外なところがフルCGだったりします。
上空のシーンは僕ら何もやってないですよ。寄りの顔とかはワイヤーでつられて撮ったりしていますが、引きのやつは何もしていない。

――では、佐藤さんが主演のゲームも作ろうと思えば作れるということですね。

佐藤:まさにそうです!

――顔のデータもいろんな種類のものを?

佐藤:はい。スタジオにそういう部屋がありました。その部屋に入ると100台くらいカメラがあって、一回カシャって押すとあらゆる角度から全部撮られました。顔のよりも撮影して、「ちょっと笑って」みたいな感じで顔の筋肉がいろんな動きをした写真をいっぱい撮って。そのデータがあると全部CGで作れちゃうので、かつての名俳優と共演できる可能性でも出てくる。そういう意味でも、今回の『いぬやしき』は日本映画の可能性を広げるきっかけとなる作品だと思います。




■フラストレーションを役にぶつけて「バン!」


(c)2018「いぬやしき」製作委員会 (c)奥浩哉/講談社


――1人のシーンも多かったと思うのですが、気持ちを作る難しさはありましたか?

佐藤:そこまで苦労しませんでした。獅子神の持つフラストレーション、世の中に対する嫌悪感、不信感、それが爆発してしまうというのは、全てではないですけど理解はできるので。自分の中にも常日頃からあるフラストレーションだとか、負のエネルギーというのを役としてぶつけられたので、大変だったというより気持ちよかったです。普段はなかなかそういう役がないんですけど、今回はそれができる役だったので。普段の怒りを込めて「バン!」(笑)。

――『8年越しの花嫁』の尚志役とはギャップが大きかったですね。

佐藤:実は『8年越しの花嫁』を撮った後すぐにクランクインしているんですけど、全く違う役でしたね。

――役に合わせて現場でのテンションも変わったりしますか?

佐藤:オンオフは意識していないです。基本的に自然体でやっているつもりなんですけど、どこか役に引っ張られているところはあるらしく。自分では分からないんですが、普段から一緒にいる友達から聞くと、作品によって雰囲気が違うとか言われたりします。

――今回だとどんな感じだったのでしょうか?

佐藤:「悪い顔してる」とかだったのかもですね(笑)。

――(笑)体もかなり仕上がっていましたね。

佐藤:体は『亜人』の流れですね。『亜人』が12月の末とかにクランクアップして、1月2月で『8年越しの花嫁』を撮って、3月から『いぬやしき』。体を絞るために、『8年越しの花嫁』が終わってからすぐに食事制限に入りました。1ヶ月くらいしていました。

――撮影期間中に木梨さんとは仲良くはなりましたか?

佐藤:撮影期間は2ヶ月弱くらいだったんですが、僕が食事制限していたというのもあって、木梨さんとは現場中にご飯行ったりはできなかったんです。でも、クランクアップの日に初めて一緒に食事をさせて頂いて、お酒も飲んで、そこで打ち解けられた気はしています。
あと、空き時間に木梨さんが焼き鳥を焼いてくれたのが印象に残っています。差し入れとして、スタジオの外で焼き鳥を焼いてくれて。そういうのが大好きな人だから、他にも餅とかも持ち込んでずっと焼いてくださっていました。そっちがメインになっているみたいでした(笑)。焼き鳥を焼いている間に撮る、みたいな(笑)。

■高校時代は女子と話さず「怖い人と思われていた」

 


――獅子神は「身内」と見なした者には仲間意識が強く優しい一面を見せますが、そういう意味では共感する部分はありますか?

佐藤:共感はしませんが、獅子神の言っていることの意味はわかります。あそこまで極端じゃないですけど、どこまでいっても他人は他人というか、自分と関係ない人に不幸があっても、本当の意味で悲しめているのか?と言われたら「?」ですね。
(獅子神には)かなりサイコパス的なところがあるんですけれど、何考えているか分からないようなところも彼の魅力だと思うので、あまり突き詰めて「獅子神はこう育ったからああなったんだ」と考えすぎないようにしていました。謎な感じがあった方がいいと。

――佐藤さんも「何を考えているか分からない」、ミステリアスな雰囲気がありますね。

佐藤:よく言われるんですけど、何も考えていないだけです(笑)。
 

――高校時代の佐藤さんはどんな方だったんですか?

佐藤:高校時代はずっと寝ていました。まだ仕事はしていなかったんですけど、ダンスをしていて。学校が終わってからダンス行って、仲間と練習して夜遅くまでやるから、次の日眠いじゃないですか。
よく電車でも寝ていましたね。それで二往復くらいしちゃったり。どちらかというと、休み時間も席から立たないような奴だったんです。ダンスも学校と関係ないところでやっていたので、ダンスをやっていること自体も誰にも知られていなかったんじゃないかな。
でも鮮明に覚えていることがあって。高1の最後の方に話した時に、「佐藤君ってずっと怖い人かと思ってた~」って言われたのが僕の心には残っています。なるほど…怖い人と思われていたんだ、と。そこで初めて知りました(笑)。ひょっとしたら獅子神と同じように「あいつやばいんじゃね?」って思われていたのかもです(笑)。

■「できなくなる役」を今のうちに。29歳の目標


――3月21日で29歳になられますが、残りの20代はどのように過ごしたいですか?目標などあれば教えてください。(※インタビューは3月21日以前に実施)

佐藤:「働く」という目標を立てています。20代後半になって思うようになったのですが、やっぱり役者として“できなくなっていく役”があるじゃないですか。逆に30代になって“できるようになる役”もあって。よく周りは「30代になって役が増えて楽しくなる」っていうんですけど、僕はどちらかというと“できなくなる役”に関心があって。だってこの役をできなくなったら、これからの人生で一生できないわけじゃないですか?永遠の別れですよ。それってやっぱりすごく寂しい。ちょっと待て、俺はまだやり残したことがあるかもしれない、と。逆に今できない役はまだこの先できるから。そう意味では、自分のエゴかもしれないけど、20代の自分を刻んでおきたい。映画や作品に残しておきたいという思いがすごく沸いてきて、今までに比べて圧倒的に作品数を増やしています。20代後半はいろいろやろうと思います。
朝ドラも高校生ですし、結局『いぬやしき』の後にも高校生やってるじゃんっていう(笑)。高校生役はこれでおそらく見納めです。

 

Photography=Makoto Okada

Interview=Ameba

 

映画『いぬやしき』4月20日(金)より全国東宝系にて公開