「潜水服は蝶の夢を見る」公式サイト


このタイトルを予告編で初めて見た時、意味が全然分からず新手のホラーか何かと思ってしまった(何しろその日映画館で見ていたのが「ヒッチャー」だったので)。


だから最初は座席にだら~っとしながら眺めていたのだが、話の内容が分かるにつれ、自分の居ずまいがどんどんただされていくのがわかった。だって何だか申し訳ないじゃない。


「ロックト・イン症候群」……意識ははっきりしているのに体が麻痺していうことをきかない状態。患者はいわば自分の肉体という牢獄に閉じ込められたまま何一つできない状態。それが主人公。「潜水服」というのは、だから身動きできない自分の体のことだった。


少しばかり「ミリオンダラー・ベイビー」に似て聞こえるかもしれない。


でもそれは「体の状態」に関してだけ。その後の展開はまるで違う。

こちらの主人公はバリバリのフランス男なので彼の語る人生もまた見事なまでにフランス的なのである。人生と食事と女をこよなく愛しているのよね。


彼が想像でディナーデートをするシーンがある。食事をしながら彼女との間にある気持ちが盛り上がっていくのだが、それにしてもいつまでも食べるのをやめないのである。しかも際限なく食べてるのに決して満腹になった様子に見えない。それがこのデートが想像の産物である証拠なのだった。


点滴でしか栄養を補給できない彼は、「食べる」という行為にどれだけ飢えていたのだろう?


重く暗いテーマのはずなのに、しかしスクリーンから伝わってくるのは不思議な程の明るさと楽しさなのである。主人公の彼はそんな境遇になってさえ、自分の人生を楽しむ術を見つけたのだ。幸いなことに瞬きできる左目だけを使い、彼を支えてくれる人達に恵まれて。


人生を楽しむコツは、自分を憐れむのをやめること。


そして実は日本人にはこれが難しいと思うのだが、自分ができることをするために他人の手を借りるのを厭わぬ事である。


一番難しいのは、辛抱強くそれにつきあってくれる人を探し出すことだと思うが。


現実に日本で介護をしている人にとっては絵空事に見える程恵まれた入院生活が描写されるが、これは実話に基づいた話なのである。国民性というより、国家の違いを見せつけられる映画かもしれない。


日本中で潜水服に閉じ込められている人々のどれだけが、美しい蝶の夢を見られるのだろうか?