ブログネタ:プライスレスな海外旅行の思い出
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海外旅行をして困っちゃうのが小銭の扱い。
日頃使い慣れていない上、大きさもまちまちでしかも貨幣価値に全く比例してないので、お財布をあけても咄嗟に要求されてる金額に必要な種類と枚数が分からず、結局お札を使ってはまたお釣りにコインの山を貰ってタメイキをつくということの繰り返し。
金額が大きければ勿論カードで支払うけれど、スタバでコーヒーとサンドイッチを買うのにカードはどうかなと思って結局キャッシュで払い、財布を小銭でずっしり重くしたのがハリウッド・ハイランド。
私と身内の二人はその朝LAXに到着し、ダウンタウンのホテルに一旦チェックインした後、地下鉄でハリウッド・ハイランドまで来ていた。アカデミー賞授賞式が開催されるコダックシアターのまさに隣である。
何しろその日はオスカー前日の土曜、すでに周辺の道路は封鎖されていて乗用車や観光バスでは乗り込むことができない。でも、何を隠そう、地下鉄なら楽々OKなのさっ♪
とはいえ次の日に備えてその日はハリウッド・ハイランドも早じまいである。
「地下鉄には日が落ちてからは乗らない方がいい」
と言われていたが、まだ充分日のある内に帰ることになってしまった。
ハリウッド・ハイランドからダウンタウンまでは地下鉄で20分程。
駅で降り、歩いて10分弱のホテルへと歩く間に、私は猛烈にトイレに行きたくなってしまった。
LAについてから食事をする間もなく飛び回り、ようやく口にしたのが先刻のスタバでのコーヒーとサンドイッチだったのだが、そのせいで胃の運動が活発になり、ついでに腸まで活発に働き出したとみえる。
しかしこれは活発すぎる。
この状態は普通の便意ではない。はっきり言って下痢である。機内食をしこたま食べワインをガブ飲みしたツケが今頃回ってきたのだろうか?
大丈夫。
ホテルまで10分のはず。
10分我慢すれば楽になれる。
今は耐えろ、耐えるのだ!
ところが乗った駅とはホテルを挟んで反対側にあたる駅で降りたため、近いはずのホテルの位置がまるで分からないのである。
今回のナビゲーター役を買って出ている身内がまた恐ろしい程の方向音痴で、しかも自分が方向音痴であることをツユ程も悪いと思っていないヤツだから、平気で道を間違え、平気で方向転換し、平気で再び間違って、平気で再び方向転換する。
私といえばその身内に輪をかけた方向音痴だから何も口出しできない。
そぼ降る雨の中、ホテルを探して右往左往する身内と私。
10分はとっくに過ぎた。
10分なら我慢できると思って別のホテルの近くを通った時にもそこでトイレを借りることなくやりすごしたのだが、今10分を過ぎて自分達のホテルの場所も分からず、さっき通り過ぎた場所も分からないとなると気が遠くなりそうである。
どうしよう……我慢できるのか、私。
……いや、これはかなりヤバイ、ヤバすぎる。
そ、その辺の道ばたに物陰でもあれば……しかしここはLA,見渡す限り遮蔽物などないのである。
ようやく身内がホテルへと続く道を見いだした。
おお、ホテルが見える! ――遥か彼方に。
いや、実際はそんなに遠くはないのだが、どう考えてもそこまで歩く間、もちそうにないのだ。我慢の限界はあと数分後に来る。それだけは断言できる。間に合わない。
その時道の傍らに「FAMIMA」の文字が見えた。
そう、日本の「ファミリーマート」が「ファミマ」としてアメリカで展開しているコンビニである。
異邦で巡り会った日本発のコンビニ……そうだ、ここでトイレを借りよう、もはや背に腹は代えられぬ。
身内をうながし、FAMIMAのドアをくぐり、一路、人のいるレジへとむかう。
客の気配に気づいてこちらを向いたレジ係の青年は少し東洋の血が入っているようで……
しかもとんでもない美青年だった!
ジョン・ローンの若かりし頃を彷彿とさせつつ、しかし白人の面影を骨格に宿す美青年が物問いたげなまなざしで私を見つめる。
どうしよう、トイレ借りるのよそうかしら……。
一瞬、本気で躊躇する私。
だって、こんなハンサムな人に買い物もしないで「トイレどこ?」なんて聞けない……このまま何ごともなかったフリをして店を出ようか……。
しかし切羽詰まった腹の痛みが即座に私の気を変えさせた。
店を出た所で粗相などしたら、それこそこのハンサムな青年に会わす顔がないではないか!
「すみません、こちらにお手洗いはございます?(in 英語)」
と余裕がありそうなフリをして見せつつ、その実顔をひきつらせての私の質問に美青年も差し迫ったものを感じたのだろうか、寸暇をおかず
「トイレですね、はい、こちらですよ(in 英語)」
と案内してくれた。
ああっ、いいのは顔だけじゃないのねっ、性格もマルなのねっ! と苦しい息の下で感動する私。
「サンキュー(in 英語)」
と言って、案内して貰ったトイレを見ると部屋の中が暗い。
スイッチを探して明かりを灯しつつドアを開けると
広い!
ウチのリビングぐらいあるんじゃないかという広い空間の、奥の方に便器があるのだが、それが何とも
立派!!
そこにはウォシュレットタイプの暖房便座プラスハイテク洗浄機能付きトイレがどーんと鎮座ましましていたのであった。
しかしその時の私に感激に浸っている暇はない。
鍵をかけるのもそこそこに、広ささえも恨めしいと思うぐらいギリギリの状態でそこに駆け寄り、ボタンを引きちぎったりしないように「落ち着いて落ち着いて」と自分に声をかけながら用意を整え便座に腰をおろす。
間に合った……。
暖房便座が心地よい。
タメイキをつき、肩の力を抜き、トイレに身を任せるこの幸せ。
しかし落ち着いた所で改めて見ると、このトイレのなんと贅沢なこと。
アメリカで私が入った中で、一番ゴージャスなトイレがここだった。
FAMIMAのトイレ、
プライスレス♪
人心地ついてトイレを出ると、身内が心配そうな顔をしてトイレの前で待っていた。
「見、見た? ここの店員さん、超ハンサム!」
「見た見た見た~!!」
人間、喉元を過ぎると熱さを忘れる、出す物を出してしまえば腹痛なんて遠い過去の話である。
しかし美青年の顔は忘れない。
私の彼への第一声が「トイレどこ?」だったことも、忘れたくても忘れられない。
しかしあの美青年から「トイレを借りた客」という印象を払拭することはできるかもしれない。
それには何か買い物をしなくては!
このファミマには軽食をとれるように丸テーブルと椅子が設置されていたので、まずとりあえずコーヒーでも飲んでいこうという事になった。万が一再び腹痛が起きても、ここには最高のトイレ設備があるわけだし♪
コーヒーを注文して、代金を払おうとしたら(スタバの約半額)、レジでクレジットカードが使えるらしいことに気がついた。
「これでも大丈夫? (in 英語)」
とマスターカードを見せると美青年はにっこり微笑んでOKだと言う。
レジの前には見慣れない装置が置いてあって、これにカードを通して自分で操作するらしい。コーヒー二つの少額でも全然問題なく受け付けてくれる。
美青年の指示に従って難なく支払い完了。
清算が済んでレシートを渡す時、サンキューの言葉と共に彼が微笑んでくれた。
それは日本でレジにいる人からは未だかつて貰ったことのない、とっておきの微笑みだった。
見る者を悩殺させずにはおかない、自分の魅力を最大限に発揮する微笑。
その美しさと迫力に、一瞬目が眩んだ。
美青年のスマイル
プライスレス!!
そう、ここはハリウッドのあるロスアンジェルス。
世界中から自分の魅力一つを頼りにスター志望の若者が集まる都市。
この美青年もファミマでバイトしながら明日のスターを夢見る一人なのかもしれない。
こうやってコーヒーとトイレの客にも親切にしてとっておきの微笑を振る舞い、チャンスが訪れるのを待っているのだろう。
ま、ひょっとしたら日本の商習慣と違うだけなのかもしれないが。
でも美男美女の店員さん程、とっておきの魅力的な笑顔で応対してくれるのがこの町だった。
マスターカードなら金額にかかわらず。
ちなみにその日はさらにカリフォルニアロール等を買って美青年のスマイルを余分にゲットしてから帰った。
次の日からそのファミマに通い詰めたのは言うまでもない。毎回少額な買い物でもマスターカードで払えば小銭が出ないのでゴキゲンである。だが残念ながらプライスレスなスマイルの美青年にはその後二度と会えなかった。
いつの日か、映画の中に彼の姿を見つける日が来るかもしれない。
その時、このLA旅行は計り知れない価値を持つことになるのだ。