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いろいろ思い出しましたが、私のはずかしかった体験は集約すると「人前で思いっきり転んだ」に尽きますね。



「転ぶ」というのは直立二足歩行を覚えた人類にとってその特異性及び優位性を捨てるに等しい行為(?)ですから、成長してから転ぶことは人間を捨てるも同然の恥ずかしさを覚えるものなのかもしれません。



投稿動画とかで頑是無いお子さんが何かの拍子にまるっとひっくり返るのなら見てても微笑ましいものですが、いい年した大の大人が凄い勢いですっころぶシーンというのは痛々しくて目撃したことを申し訳なくさえ思います。あとで転んだ当人が見えなくなった所で思いっきり笑うんだけどさ(←鬼)。



そういう私自身が陰でさんざん笑いものにされてるに違いない転倒事件は数あれど、中でもとっておきのは、あれは中学校のスキー遠足の時のことでした。



中3のスキー遠足は高校受験を終えての、その年最初の学校あげてのスキーです。「滑る」のが縁起悪いからではなく、スキーの転倒事故で腕や脚を骨折したら受験ができなくなるのでそれまで控えているのです。



このスキーは1・2年時の体育の授業とは違い、もっぱら滑って楽しむのが目的ですから生徒は皆リフトに乗り放題、ゲレンデを滑り放題でございます。



無論、スキー遠足とはいえゲレンデを貸し切りというわけにはいきませんので、よその学校の児童生徒さん達や一般のスキー客の皆様が入り交じっております。リフト等も混んでいてかなりの順番待ちが必要でした。



その日はいいお天気で、お弁当も食べ終わった私は滑り疲れも心地よく、うららかな日よりも影響して大変気がおおらかになっておりました。ゆるみきっていたとも申せましょう。



だからリフトの自分の番が回ってきた時に、ちょっぴり気取ってほんの少し浅く腰掛けてみたのです。



ほんの少し。



ほんの少しだけ浅くリフトに腰掛ける。



そのつもりだったのです。



が。



実際には座った瞬間、重心がリフトの座席におさまっていないことがわかっていました。



しかしその時の私は15歳の世間知らず。おしりのすみっこが座席に引っかかっていれば何とか座っていられるものとタカをくくっておりました。



椅子ならば、おしりをちょこっとだけ座面に引っ掛けるような座り方でもしばらくそのままでいられます。

それは自分の足が地面についていて、自分の体を支えているからです。



でも。



でもでも。



その時私が座っていたのはリフトだったのですよ。



リフトにのって数メートルはスキー板が雪面についていますから、体を支えていられます。



ですがその数メートルを過ぎると足は宙に浮き、長いスキー板は大層バランスの悪いおもりとなって重力のとりことなります。



元々ちょこんとしかリフトに乗っていなかった私のおしりはズリズリと前に滑って行き、必死にポールにしがみついて体勢を立て直そうにも、スキーとスキー靴の重量のせいで思うに任せません。



このままだと落ちる。



落ちる!



と思った時にはすでに落ちてました。



頭の上を友達が乗ったリフトが通り過ぎてゆくのが見えます。



見回せば私のまわりはスキーヤーの来ない綺麗なバージンスノー。私の落ちた部分だけが動かぬ証拠と言わんばかりに私の形に跡になっています。



しかし何故かリフトに乗っている人達は目的の頂上だけに目を向けていて私には気づいていない様子。

ってゆーか、誰も助けに来てくれないんですけど。

私、リフトから落ちて半分雪に埋まってるんですけど。




なごやかでおおらかな時代でした。




仕方ないんで、ごそごそ動き出して綺麗なバージンスノーをめちゃくちゃにかき乱しながらリフトの列に戻りましたよ。

あからさまにリフトの真下でスキー禁止の所から私がやってきてるのに、誰も何も反応しないんですよね。

私なんぞに誰も関心がないのか、それとも心優しい見て見ぬフリだったのか……私の方も何ごともなかったような顔してそのまま再びリフトの順番待ちの列に加わってスキーを続けました。リフトに乗るたび眼下に見える自分が乱したバージンスノーに心が痛みましたが、誰も何も言わなかったのでこれは上手くいったらこのまま何もなかった事になるんじゃないかと思ってました。





甘かったです。




学校の行事ですから、スキーが終われば全員バスに乗って学校に戻り、一旦クラスに入って帰りの会とかするわけですよ。



そこでクラスメートに手を挙げて発表されましたね。




「クリスさんがリフトから落ちてました」




……見てたんならそん時助けに来いよ、ここで暴露するんじゃなく……。




もちろんクラスは爆笑の渦。




今でもクラス会に行くたびに言われますよ。

「あの時落ちたのが高校じゃなくて良かったよね」

って。




どうして誰も忘れてくれないんだ!!