冒頭から流れる音楽が「ボーン・アイデンティティー」シリーズのテーマによく似ているので、つい失笑してしまう。


続いてめまぐるしく立ち現れる登場人物の一人に「ボーン・アルティメイタム」に出演していたエドガー・ラミレスを発見し、焼き直しかいと失笑が苦笑に変わる。


くたびれた姿で現れ、同僚に目一杯気を使って貰っているデニス・クエイドを見て、また人生に疲れたこんな役なのね、と少々飽きた気にさえなってしまう。同僚はあからさまに胡散臭いし。


ところがこのデニス・クエイド、現場に出た途端に豹変する。

シークレット・サービスである彼が目を配るもの、神経を尖らせるものが次々にスクリーンに映し出されるが、それが揺れるカーテンだったり、通常とは僅かに異なる人の動き方だったり、我々一般人なら目に入ったとしても気にも留めずにやり過ごす、そんな些細な変化なのだ。


プロ中のプロ。

それが「バンテージ・ポイント」におけるデニス・クエイドだった

いきなり魅力全開になった彼の役名はトーマス・バーンズ。


この映画のおもしろさは、バーンズが保護すべき対象=大統領ではなく、遠くを観察している点にある。彼は間近に迫ってピストルを突きつける暗殺者ではなく、ライフルで遠距離から狙いをつける狙撃者を警戒しているのだ。そしてそのせいでかなり周りから浮いている。シークレット・サービスが第一にするのは、そういった狙撃が可能な場所から前もって人払いをすることらしいので、この期に及んでそれを心配するバーンズは慎重すぎる、或いは余計なお荷物といった雰囲気だ。


しかし「シューター」や「ボーン」シリーズに出てくるような一流の狙撃者は、そんな普通の警戒網を熟知していてその網の目をやすやすかいくぐった所から標的を狙い撃ちするのが常である。

バーンズが気にしているのはそういった類の、通常レベルを軽く凌駕する暗殺者なのである。



「シューター」では大統領を狙撃する側の視点が克明に語られていてそれがおもしろかったのだが、「バンテージポイント」ではそれを守る側の視点が浮き彫りにされる。この二作品が相補関係にあたるので、狙う者と狙われる者が互いに手の内を読みながら、常に相手を一歩リードしようと懸命になっていることが判る。勝負は発砲する前から決まっているのだ。



ここまでが「バンテージ・ポイント」の導入部分。

この後起こるできごとを何度も時間を巻き戻しては視点を変えて見せるが、謎解きの軸はトーマス・バーンズにあるので彼に注目していれば混乱することはない。



「バベル」を見た時に感じた、もうちょっと何とかならなかったのかというもやもやとした不満がこの映画のおかげで解消された。時間軸を遡るのなら、理路整然としてなければダメである。

全てが綺麗に収まるべき所に収まる「バンテージポイント」。

知的興奮を是非味わって欲しい。