*内容に少々ネタバレを含みますので、映画未見の方は御注意願います。


「ノーカントリー」で一番目立っていたのがハビエル・バルデムであることは間違いない。

あの薄気味悪さを醸し出す髪型をデザインしたヘア・メイクさんは何か賞を貰ったのだろうか?

あの髪なくしてハビエルの助演男優賞総なめはあり得なかったと思う。せめて金一封ぐらい貰ってね。


しかしハビエルが助演でよかった。

彼が主演扱いだったら、これも主演男優賞を総なめにしたダニエル・デイ・ルイスとどう数を分けただろうか? 「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」をまだ見ていないので、その判断ができないのが残念だ。


それにしても作品の中で一番目立つのがハビエルの演じたアントンなのに、何故彼が助演なのかと不思議だったのだが、映画を見てその疑問は氷解した。映画の語り手が主役じゃなければ、最後が決まらないからである。


語り手であり、最後を決めてくれるのはトミー・リー・ジョーンズ

あの、トミー・リー・ジョーンズ(私にとっては「沈黙の戦艦」、一般的には缶コーヒーのCMの宇宙人ジョーンズかもしれない)が主役でありながら全然格好良くないのには正直泣ける。役作りとはいえ、腹までぽこんと突き出しちゃって……保安官なのに。

「逃亡者」や「メン・イン・ブラック」等、目星をつけた犯人をとことん追い詰める役の彼を見慣れている者にとっては、この映画の彼は衝撃的だ。その衝撃を狙ってキャスティングしたものかもしれないが、テンションの低いトミー・リー・ジョーンズって何? って感じがつきまとう。


もちろん、それも演技なのだ。

だが、情けないのが名演すぎると、賞として推薦する気はたぶん起きない。

代わりに別の映画で主演男優賞にノミネートすることでバランスをとったのではあるまいか。

その映画、「告発の時」も日本公開はまだ先なので結論は出ないのだが。


ハビエルとトミー・リーがアレなもんで役としてはイマイチなのに妙に格好良く見えて得をしたのがジョシュ・ブローリン。実質上の主役は彼だったような気がする。


「グラインド・ハウス」や「アメリカン・ギャングスター」では唾棄すべき男を実に嫌みったらしく好演していたもので今まで全然好きになれなかったのだが、「ノーカントリー」では口数の少ない男を演じて決まっていた。全ての感情を押し殺して黙りこくっているのか、それとも単に語彙が少ないのかは不明だが、黙ったまま様々なことをどんどん押し進めていく姿が男らしくていい感じだった。たまに喋ると、笑える場面だったりするし。



その他にウディ・ハレルソンとか、「4400」のマシューことギャレット・ディラハントなども出演していたが、上記の濃い男三人衆の前に色を失ったのか、ほとんど印象に残っていない。


しかし誰が出てきても緊張感が一瞬も途切れることはなかった。もちろん女優さん達もである。


この映画は、一歩間違ったらとても退屈なものになるか、或いは失笑を買う危険性をたくさんはらんでいた。

それが失笑ではなく滑稽さへと昇華しているのは、ひとえに俳優達の演技力の賜なのだ。


彼ら全員を称える賞をSAGが授けてくれたことを、本当に嬉しく思う。