今回のトム・クルーズは野心的な政治家役。
ってことで、画面に出てきた直後からメリル・ストリープ&観客にむかって営業(集票?)スマイルを大盤振る舞いしてくれるのだが、これが胡散臭いのなんの! あまりにその効果を意識しすぎた笑顔はイカサマめいて見えるという好例。そしてその笑顔の中に常に浮かび上がる(文字通り、浮いて見えます)白い歯は、人間の歯の尋常な白さを超えてクリーンと言うより家電の白物の売らんかなの清潔ぶりを見せつけるその白さ。
開いた口がふさがらないと言いたいところだけど、そんなトムさんの白い歯の前に開ける口なんかないので、ただただその異様さに目を見開くばかり。
それはトムが来日した際ファンサービスの時に見せる笑顔とは明らかに別物だったので演技だということがわかるのだが、しかし政治家としてもそこまで欺瞞見え見えの笑顔じゃマイナスなんじゃないかと思ってしまった。まあ、それに引っ掛かるのが一般大衆であるのは、洋の東西を問わないのだけど。
冒頭のそのショックを乗り越えれば、物語そのものはアメリカの抱える問題を浮き彫りにし、そこでアメリカ国民が何をなすべきかを問いかける非常に良心的な作品であることが分かる。
ただ、ストーリーの大半が誰かが誰かに議論をふっかけているシチュエーションなので、その議論の内容そのものに興味を持てない人には眠いだけの作品かもしれない。映画として見ている上での華がないのだ。
私にはとても興味深かった。
ただ、映画の中で提起された問題のことごとくがアメリカ人である観客に自ら答えを探させようというものなので、日本人である自分の心にそこで他人事という意識が芽生えるのが残念ではあった。肝心のアメリカ人である観客達はそんな難しい問題提起そのものを嫌ったらしく、この映画が全米ではコケたというのも納得がいく。
アメリカの良心(=ロバート・レッドフォード)も悩んでいる。
問題を投げかけても反応してこないアメリカの若い世代に。確固とした解答を提示することに臆している自分自身に。そしてひょっとしたら、建国以来のアメリカを牛耳ってきた白人にもはや良心など存在しないかもしれないと恐れている。
悩まなくなった者、それはすなわち良心を捨てた者である。
そして悩むのをお預けにしている者は、良心を捨てたも同然なのだとこの映画は語っているようだった。