「オーロラ」公式サイト
予告を見た時にバレエシーンが美しいのでちょっと見たいと思っていたのだが、その後バレエファンの友人が酷評していたので劇場に行くのはやめておいた映画。
このたびWOWOWで放映してくれたのを見たのだが、まあ、劇場に行かなくてよかったかなあ、と。
バレエのシーンはそれぞれに美しいし、ダンサー達の体や動きも鍛え抜かれて素晴らしい。
だが、それぞれのバレエシーンをつなぐために用意されたストーリーがあまりに陳腐なのである。おとぎ話というには妙に現実臭いのだが、それでいて設定は超現実。寓話と言うには無内容。何より登場人物の頭の中がほとんど空っぽというのがあらゆる感情移入を妨げる。人間性を見いだせないのだ。
舞台で見るのならこのストーリーでも何とかなると思う。
このストーリーを元に上演されたバレエ作品を撮影したフィルムだったなら、それでもいいと思う。
でも、映画を期待して劇場に行って見せられたのがこれだったら……酷評もやむなし。
有名バレエダンサーの踊りを堪能したいと思っていた人にとっては、多分物足りないだろう。
もしもこの映画にテーマがあるとしたら、それは恐らくバレエを始めとするダンサー達にしか分かるまい。
ダンサーの心は同じダンサーにしか分からないと言ってるも同然の内容だったから。
バレエの才能は天から授けられたギフトで、それを持つ者はどんな妨害があろうと踊り続けずにはいられない。踊れなければ、その才能と共に自分の身も天に返すしか道はない。それ以外にダンサーの幸せはあり得ない。
そういうストーリーを見て共感できる人は、同じギフトを授けられた人しかいないでしょ?
一般人の理解の領域を遥かに超えるテーマを伝えるには、ストーリがあまりに直接的すぎる。それでは子どもの語りと一緒で、たとえどんなに真実がそこに含まれていたとしても、大人は耳を貸さない。
単純なテーマなら単純な程、大人の心に伝えるためには持って回ったストーリー展開が必要とされるのだ、少なくとも映画では。
美しいだけではテーマは伝わらない。映画を製作する上で一番大事なものがこの制作者には欠けていたのではないだろうか?
バレエを見る観客と、映画を見る観客は違う。
それぞれを見に行く時に求めるものが違っているから、心の準備がすでにして違っているのである。
その事を理解されないまま作られた映画は、やはり映画としては失敗作なのだと思う。