「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」公式サイト
まーさかこんな所に出てくるとは思わなかったわ、ベニー、と映画を見ながら呟いてしまった。
ベニー……「ハムナプトラ」に出てきて、主役のブレンダン・フレイザーをここぞという時に裏切る悪い奴。
悪人というよりは卑怯者のキャラで、ソマーズ作品には欠かせない(?)いい味を出しているケヴィン・J・オコナーが、なんと「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」に出演していたとは……!
この映画がアカデミー賞関連でこれだけ取りあげられていたにも関わらず、出演していることなどちーとも知らなかったよ、ごめんよ、ベニー。
主演のダニエル・デイ・ルイスはありとあらゆる映画賞で主演男優賞を受賞しまくったのに、脇役にはベニーを始めとして全く脚光があたらなかった理由は、映画を見ればわかる。
この映画は見終わると、ダニエル・デイ・ルイス以外のキャラのことなんて、頭から全部脱けてしまうのだ。
これはまるでドキュメンタリーである。
「風の中のす~ばる~」という歌声とともに田口トモロヲの声で「男は……」というナレーションが聞こえてきたとしても全く違和感なかっただろう……表面的には。
NHKでなかったのが幸いで、この映画は主人公の努力と成功の陰にある「負」とか「悪」の部分まで稠密に描いているが、スタンスはどことなく「プロジェクトX」を感じさせるのである。
つかずはなれず、客観視を貫く立場であることを誇示しつつ、しかし主人公となる男の内面深く立ち入り、心情を暴きたてる。違うのはナレーションが入らないから主人公の胸の裡は推し量ることしかできない点だけだ。
しかしこれは映画なので、テレビ番組のような綺麗事では終わらない。
地上の星は輝くために他人の犠牲を糧とする。
それがあまりに見事に描かれているので、見終わった後観客は言葉を失うのである。