「紀元前1万年」 公式サイト


トレイラーから漂ってくるのはどうにも打ち消しようのない程のキワモノ感、トンデモ映画にまた一本金字塔が増えたか……なんて思っていたのだが、実際に見るとどうしてどうして、最後まで楽しみながら見ることができた。

そりゃあ突っ込み所は際限なくありますよ。いろんな点で、ええ。

でもこれは映画だから

エンターテインメントなんだから


と、細かい所には目をつぶるよう自分に言い聞かせ、壮大な部分にのみ意識を集中させたのがよかったみたい。


ってゆーか、エメリッヒに細かいことを期待するのがそもそも間違いなんだとよく分かったりして。


私は今までローランド・エメリッヒ作品をいろいろ見てきて、この監督はとにかく生物でも無生物でも「大きいもの」が好きで、そういった大きいものが人類に対する危機として現れた時に人間がどう立ち向かうのかを描きたい人なんだ思っていたのですが、それは間違いでした。


エメリッヒが本当に描きたい大きなもの、それは物質ではなく人が暮らしている環境の変化そのものだったんですね(変化の中にはゴジラによる激しい破壊も含まれます)。それもなるべく大規模な方がよくて、巨大な建築物の倒壊に留まらず、地球環境そのものが激変を遂げるぐらいじゃなければ最近は我慢できないみたい。


だから映像で描きたいのは勢い壮大な世界になる。

そんなマクロな視点で現象を見ている時に、一人の人間個人に焦点をあててその人の人生観やらトラウマやら葛藤やらをごちゃごちゃ細かく描写したってしようがないわけで。

事態を地球規模で見守っている時には、そこに出てくる登場人物は個人というより人類の代表という形になりますよ。

それをストレートに出したのがこの「紀元前1万年」という作品なのだと思います。


だから、ま、登場人物達が大味というか、ステレオタイプというか、どこかで見た感じになってしまうのもやむを得ないのでしょう。エメリッヒは個人を描写することにあまり興味はないようです。「デイ・アフター・トゥモロー」や「インディペンデンス・デイ」に出てきたような父親と息子の良い関係というのが唯一と言っていい監督の思い入れでしょうか。


男女間の愛は、エメリッヒにとっては男側の行動の原動力として物語を進めるのに便利だから利用してるフシもないじゃないですね。机上の恋愛というか、生身の男女のドロドロ感がないので。


当然「紀元前1万年」にもストーリーを引っ張る一組の若いカップルが登場するんですが、この二人の行動たるやまるで「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズのウィルとエリザベスそっくり!


ただし男のデレーの方がエリザベス、女のエバレットの方がウィルと男女が逆転しているのがミソ。ウィルってやっぱりお姫様キャラだったのか(←違う!)。


ま、途中途中で微妙に立場が入れ替わりはするのですが(デレーがまぶたの父を語るあたりはウィルと同じ)、紀元前1万年から紀元後1800年近くに至るまで、恋する男女のやることは変わらないのだなあと人類の進歩の無さに笑ってしまいました。


そういえばこの前見た「モンゴル」を彷彿とさせるシーンもありました。人間の考えることは1万年以上前から変わってないようです。


全然関係ないんですが、デレー達が旅をするシーンの背景を見て「ロード・オブ・ザ・リング」みたいだと思っていたら(決して「じゅう」が出てきたからではない)、やはりニュージーランドロケでした。美しい国です。


何はおいても映像は素晴らしいので一見の価値はあります。

作品中の人間関係は深く考えなくていいので、気楽に楽しめるのではないかと。


一点集中で見るような「ボーン」シリーズ等とはまた違った味わいのある映画でした♪