「NEXTーネクスト」――公式サイト


冒頭は確か空撮で様々な意匠を凝らした建築群がライトアップされている夜景なんだけど、めちゃ見覚えがあるなーと思っていたらやっぱりラスベガスでした。「CSI」でおなじみだったのよねー。


沈んだ声のナレーションとは裏腹に派手な服のニコラス・ケイジが現れ、ステージへ向かってちゃちなショーを行うのだが、これもやたらに見覚えのある光景だったので笑ってしまった。

「燃えよ! ピンポン」で主役のランディがメタボに成長してから暮らしをたてるためにやっていたのが同じようなカジノ芸人だったので。

ランディはクリス(ニコラス・ケイジ)よりもさらに一段格下らしい「マチネー芸人」で、その上カジノのある土地はベガスじゃなくてリノだったけれど。


この何とも言えない強いうらぶれ感が
ランディとクリスに共通しているのよ。


カジノの芸人って、そんなにうらぶれた職業なのか!(←違いますって)



同じような仕事をしていても、ベガスの有名ホテルで大がかりなショーをかけるのなら、恐らくそれは芸人ではなくアーティストと呼ばれるのだと思います。それに比べるとランディやクリスのステージはいかにも小規模で、「これがメインのショーかよ」と毒づく客もいそうな雰囲気。


そういうショーをたつきとするランディやクリスが自らを「芸人」と称するのはどこか自嘲的な含みが感じられ、それがより一層うらぶれたムードを醸し出しているのよね(字幕上の話ですが)。

「燃えよ! ピンポン」でランディがくらっていたお小言によると、カジノのマチネー芸人というのは賭博客をホテル(カジノ付き)から逃がさないよう、食事中も退屈させないための存在なんだそうで。


ま、何となく分かりますね。

賭博に打ち込んでいてもお腹は空きますからどうしても食事はする。カジノを出て同じホテル内のレストランに入ったとして、そこでふと我に返って自分が賭けに負けた損失額等を計算しだしたら、もうやめて帰ろうかという気になるかもしれない。或いはここは雰囲気が悪いから場所を変えようとか。


カジノにとっては客が持ち金を全部そこで使い果たすまで逃がしたくはないわけで、そこで食事中も他のことは何も考えられないようにひたすら何か芸を見せて気持ちをステージにひきつけておこうという寸法なんでしょう。


つまり、ランディやクリスの芸というのは見ている人達にとってはカジノという刺身に付いてくるツマに過ぎないということ。そこで演じられているからたまたま見ているだけで、芸そのものには何の興味も持ってないんですね。


これは芸をしている方にとってはキツイです。

どんなに立派な芸を披露したところでおざなりな拍手しか返って来ないわけですから。

特にランディやクリスの「芸」というのは余人には真似のできない特殊技能を見せているのに、見ている側はその神髄が全く理解できないものですからね。

理解できなくてもいいから、せめてそのスキルの高さに対して賞賛ぐらい欲しいと思うのが芸をする側の人情だと思うのですが、それすらも得られない。



ランディの場合は自分のピンポンの技に対してまだプライドを持っているのでステージでも真剣なんですよね。だからその真剣勝負のショーに観客が何の反応も示さなかった時は、ついキレてしまう。


クリスにとっては2分先を読める能力は生まれついてのもので、使うのがごく当然のもの。彼にとっては目や耳を使うのと変わりのない感覚なのに、他の人には決して理解できないという認識が骨の髄までしみ込んでいる。だからショーでその能力を使う時も、その場凌ぎ程度であまり真剣ではない。


どっちがよりうらぶれてるかというと、間違いなくクリスの方。

人間、何かに対して真剣になる機会がないと、どんどん落ちていきますから。



この後どん底に落ちた二人がその特殊能力を理由に某機関にスカウトされるというのも同じ、その誘いを一度は断るのも同じ、でも最終的には引き受けて危機を乗り越える内に彼らの心の中で何かが芽生え、変わっていくというのも同じなんです、「燃えよ! ピンポン」と「ネクスト」。全然違う映画のように見えますがねー。


「人生は挽回できる」というテーマで映画を見に行くのなら、「燃えよ! ピンポン」の方が楽しいかも。