自分では試写状を当てられませんでしたが、お友達が誘って下さったので行くことができました(感謝です)。


これでもヴィゴのファンは長くやってますから、彼がこの作品にキャストインした時からずっと情報は追っていたのですよね。本国ではとうに公開され、その時の興行成績はイマイチぱっとしなかったものの、ヴィゴが各映画賞の主演男優賞にポツポツとノミネートされ始め、遂にはアカデミー賞に出席という快挙まで成し遂げた事でマスコミへの露出も多くなったおかげで、この半年程ヴィゴファンにとってかなりエキサイティングな日々を送って参りました。


その仕上げが、この試写会。

ようやく日本で「イースタン・プロミス」を見ることができる! しかも字幕付き!!(字幕は石田泰子さん)

この感動は深いです。


ヴィゴファン、彼の出演作品が日本で公開されない事には慣れてますから(悲しい)、海を渡って鑑賞してきたり、海を越えてDVDを取り寄せたりで見ちゃった人は何人もいるのですよ。


でもね、やはり日本でロードショー公開されるというのは格別なんですわ。

しかも「ヒストリー・オブ・ヴァイオレンス」で組んで高い評価を受けたデイヴィッド・クローネンバーグ監督との再タッグ、私にとっては最高の組み合わせです。音楽はもちろんハワード・ショア。たまりませんねっ!


この日のために、可能な限りネタバレの要素を含む記事は避けてきた私。実は日本語版の予告編さえヤバそうな所は視線を外して見なかったぐらいです。スチール写真はたくさん見たけど。


そのスチールでたくさん見た、ヴィゴ=ニコライの体に施されたタトゥーのアップからオープニングが始まります。ああ、まさにクローネンバーグの世界! ファンならここでいきなり作品にどっぷりはまりこむでしょう。


内容は……ネタバレ厳禁で見ていて正解だったな、とだけ書いておきます。


非常に淡々とした静かな描写が続く映画で、ま、そのせいで興行的にもひとつ伸びなかったんだろうとは思いますが、そのトーンが緊張感をはらんだままずっと持続するので非常に細心な注意の元で作られた映画であることが分かります。


何かと話題の全裸ファイトシーンは、あまりにもリアルで壮絶で、裸だの何だのを気にする心の余裕なんかありません。激しいアクションの描写に、自分が斬りつけられてるような恐怖を覚えはっと目をそらしたりすることもたびたび。


全裸というのは「服を掠める」というシチュエーションがあり得ないことなんですよ。服と体の間に生じる空間という最低限の障壁もないので、パンチもナイフも当たればすなわち直接ニコライの体に入るということ。


例えば普通のアクションだったら、「空振り」→「服を掠めるパンチ」→「体に当たるパンチ」という具合に段階を踏んで観客の危機感を次第に盛り上げつつ格闘に持ち込むところを、この全裸ファイトはタオル一枚の余裕もないまま一瞬の内に死闘が始まっているのですよ。危機感なんか覚える間もなく危険のど真ん中に立たされる、そんな感じを観客は受けてしまうのです。


ショーアップされた格闘技とはまるで違います。

そこで行われているのは殺すか殺されるかの瀬戸際での攻防なんです。綺麗も汚いも卑怯もクソもない、相手を殺さなければ自分が死ぬという生存本能上での戦いです。


映像は素晴らしく美しいんですけどね。

その美しさと行われている暴虐の凄まじさとのギャップに観客は惑乱さえ覚えます。



で、また、何がリアルかというと、ニコライ=ヴィゴがダメージを受けたあとの様子ね。

ヴィゴは実生活でもケンカであのぐらいボコボコにされたことが何度もあったんだろうなあとしみじみ思ってしまいました。何ていうか、頭で考えたんじゃあの動きはできないだろう、みたいな感じで……この部分が一番迫真的だったかも(ファンとしては目を覆いたくなるようなシーンですがね)。

こんなシーン、普通のアクションヒーロだったら絶対撮りませんから、この部分まで含めてのオスカーノミネーションだったと思います。


しかしこの映画、こんな熾烈なアクションを含んでいてもどこまでも静かなままなんですよ。

音楽さえも控えめで、アクションの時なんて入ってませんでしたね。必要ないというより、あったら邪魔だったからでしょう。

「イースタン・プロミス」はサントラを事前に買って何度か聞いていたんですが、それだけだと盛り上がりに欠けて物足りないものだったのですが、映画を見るとそれで内容に完璧にマッチしていたんだということがよ~くわかりました。美しい場面にだけ甘く美しい調べをひっそりのせるだけで、クライマックスにあたるシーンには音楽入ってないんだから、そりゃサントラだけ聞いたって盛り上がるわけないのです。


映画やドラマで有名なのはイタリア系のマフィアで、「ソプラノズ」なんか吹き替えで聞いてるとうるさいばっかりで、あんたら喋りすぎなんだよ! と言ってチャンネル変える程騒々しいのですが、ロシアン・マフィアは物静かでしたねー。ヴァンサン・カッセルなんか結構喋りまくってるんですが、それでもあまり耳につかない。母語が違うせいで訛りのある英語でも響きが全く異なるせいでしょうか、それともそもそものお国柄が違うせいなんでしょうか。


とにかくそのぼしょぼしょぼしょっという感じのロシア訛りの英語がヴィゴの声と喋り方にぴったりマッチしていて、最後の方になると彼が喋るのを聞いてるだけでうっとりしてしまいましたよ。まるで「ロード・オブ・ザ・リング」でエルフ語を聞いている時のようでした。この映画でもヴィゴはやっぱり「王様」でしたしね♪ 「ロード」のファンにとってはアラゴルンが生まれ変わって人間になったようなもので、手を血に染めても彼の崇高さは変わらないままだったのが嬉しかったです。


クローネンバーグのファンにとってはこれはかなり一般向けに作った作品になりますが、それでも彼の暴力的なテイストは変わらず出ているし、ラストはいかにもだし、満足できる一本なのではないでしょうか。


少なくともあの全裸バスファイトをスクリーンで見るためにだけ劇場に足を運んでも損ではありません。


公開は6月14日を皮切りに、順次全国ロードショーの予定です。

乞うご期待!