「幸せになるための27のドレス」公式サイト  

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公式サイトの予告でも見られるが、ヒロインのキャサリン・ハイグルの顔を思い切りよく引っぱたく同僚役の女優さん、どこかで見たけど思い出せないと思いつつ本編を見ていたら、「エリザベスタウン」でオーランド・ブルームの妹役をやっていたジュディ・グリアだった。こうして見ると顔はリサ・クドローに似ていて役どころはジョーン・キューザックに似ているから、ひょっとしたら将来はコメディエンヌとしてのキャリアが花咲くのかもしれない。がんばってね♪


同じ日に見た「幻影師アイゼンハイム」には、やはり「エリザベスタウン」に出演していてオーランドを捨てた彼女役のジェシカ・ビールが出演していたし、これも同じ日に見た「マンデラの名もなき看守」には彼と「トロイ」で共演したダイアン・クルーガーが主人公の妻役で出ていたので、奇しくもオーランドと共演した女優さんの映画ばかりを三本も立て続けに見た日となった。どうせならオーランドの出ている映画を三本続けて見たいよ、って、それは「ロード・オブ・ザ・リング」のイッキミでやったばかりだったか。


閑話休題。

この後から「27のドレス」と「魔法にかけられて」のネタバレになるので未見の方は御注意下さい。

尤も、ロマコメなんて予告で登場人物の顔見た瞬間に誰と誰がくっつくかなんて分かるものだけど。





もちろんこの映画ではヒロインがキャサリン・ハイグルでヒーローがジェイムズ・マースデンだから、最終的にはこの二人がカップルになってめでたしめでたしで終わるのである。それ以外の選択肢はどう見たってないわ。


何故ならキャサリン演じるジェーンが恋い焦がれるジョージ役のエドワード・バーンズって、悪いがどう贔屓目に見ても彼女が恋い焦がれる程の男に見えないからである。実をいえば、予告を見る限りではこの設定がどうにも不思議だった。ジョージに恋するジェーンも不自然なら、あれだけの美人がラブラブ光線を全身から放っているのに全く気づかないジョージという男の鈍感さも異常だからである。


しかし映画全体を通してみると、漠然とその理由は伝わって来る。きちんとした説明があるわけではないが、キャスティングとキャラの性格設定によって、何となくその状況が理解できるのだ。


ジェーンという女性は「世話好き」で、他人を幸せにするために自分の幸せを犠牲にするタイプとして描かれている。彼女は実は幼い頃から妹の母親代わりという役を自分で自分に割り振ってしまった女性なのだ。だからジェーンが自分のパートナーにと望むのは母親の夫である自分の父親の代わりを務めてくれる男なのである。実際、ジョージにはジェーンの父親と共通する雰囲気がある。


ジェーンが美人なのにジョージが振り向かなかったのは、ジェーンが母親同然に自分の世話をしてくれる存在だからで、ジョージにとっては便利ではあるがセクシーなイメージを抱き得ない女性になってしまっていたからだろう。恋人になる前にすでに家族のような気安さを彼女に感じてしまっていた故に、それ以上の関係になる等頭をよぎりもしなかったという感じである。


これが日本ならば、ジョージにとっての理想の妻はジェーンでめでたしめでたしになるのだが、アメリカではそうはいかない。この映画の主人公はジェーンだから、疑似的にとはいえ父親に恋しているような彼女が精神的に独立を果たし、新しい恋を見つけるまでを描かねばならないのである。



このジョージは、「魔法にかけられて」(goo特集 )でパトリック・デンプシーが演じたロバートにあたる。ジェーンは差し詰め彼が妥協で結婚しようとしていた相手のナンシーに当たるだろう、性格設定は全然違うが。


さてそのロバートが突然現れたジゼル姫に恋したように、ジョージもふらっと現れたジェーンの妹のテスに一目で夢中になってしまう。現実(=ナンシー、ジェーン)に不満はないがちょっぴり飽き飽きしていた所に降って湧いた新たな刺激というわけだ。


ジゼルを追いかけて現れるエドワード王子はジェームズ・マースデン、そう、「27のドレス」ではヒーローのケビンを演じている彼その人である。


「魔法にかけられて」ではエドワード王子は結局ジゼル姫に別れを告げられる。

でもふられんぼ同士で心の痛みが共有できるのか、王子はロバートと別れたナンシーにプロポーズして彼女を伴い自分の国のアンダレーシアへ帰り、そしてそこで結婚式を執り行う。この二人はこれで結構お似合いで、しっかりもののナンシーが今後国政を取り仕切って幸せに暮らしていけそうなムードである。


「幸せになるための27のドレス」は、いわばこの二人を主人公に据えて語り直した物語なのだ。

ケビンは過去に婚約者が他の男と駆け落ちしたという心の傷を抱えた男という設定だし、ジェーンは長く狙いを付けていた男を鳶にあぶらげをさらわれるようにして他の女に奪われた女。エドワードとナンシーの深く語られなかった恋物語(まあ、一瞬で結婚決めてたから深いも何もないんだけど)を切り口を変えて見るとケビンとジェーンの顛末になるわけである。



ケビンもジェーンも過去に捕らわれていた人間だ。

それはエドワードが王子としてのあり方に、ナンシーがキャリアウーマンとしての生き方に捕らわれていたのと変わらない。

彼らは何かに執着することで、自分の心の自由を見失っていた人間なのである。


それを他者によって無理矢理断ち切られることで、激しい痛みはあったものの、執着から解き放たれ自由な心を取り戻す。

そうやって初めて自分自身が心から望む相手との真実の恋に踏み切れる……これはそういう物語なのである。

「魔法にかけられて」よりはずっと大人の恋である。



「27のドレス」の終わりの方でジェーンはもうジョージの母親代わりはやめようと決意する。

その時初めてジェーンはジョージとキスをするのだが、二人とも何も感じない。二人の間にあった感情は家族とくつろぐような気安さではあったけれども、恋ではなかったということだ。


その前にきちんとジェーンが実の父親に対して失望するシーンもある。母親代わりのような長女よりも娘そのものの次女を父親が可愛がっていた事を思い知らされるシーンである。自分の愛し方では報われないということをジェーンが身をもって知る、かなり痛々しい場面で、キャサリン・ハイグルの演技力が生きていた。


全体を通してジェーンの感情の動きが緻密に表現されているので、一見唐突な彼女の決断にも無理は感じない。誰かの面倒を見ることで自分と亡き母親を同一視して生きることに、本当はジェーン自身も疲れていたのである。心の底では本来の自分に戻り、ただの娘として生きたいと願っていたのだ。その後押しをしてくれたのがケビンなのである。真実の自分の姿を見つけてくれた人……カエルにキスをして王子様に戻すのはお姫様の役だが、この映画では王子様がキスをしてお姫様の姿に戻してくれる。ジェームズ・マースデンはやっぱり王子様の役なのだ。



それにしてもジェームズ・マースデンは「Xメン」でも「スーパーマン」でも「魔法にかけられて」でも恋人を他の男に奪われる役だったが、「27のドレス」でも言及だけとはいえそうだったとは! 彼の一体何がそういうキャラを呼び込むのだろう? とっても一途な感じがするんだけど、女性にとってはそれが束縛に感じられて息苦しいとか?

 かなりな美男だけど、最上級じゃないから? 顔で勝負すると負ける美男ってか(何だそりゃ)。


今回は単に彼よりハンサムが出演していなかったから、新しい彼女を奪われなくてすんだだけなのかも……。


でも、たぶん、彼とジャック・ブラックが共演したら、ジャックの方が恋の成功者になるわね……。



「27のドレス」は悪い奴が一人も出てこない、とっても安心して見られる楽しい作品でした。

その分毒気がなくて物足りないと思うフシもありましたが。まあ、たまにはこんなロマコメもいいです。