前の記事で「ラッシュアワー3」について触れたので、公開当時に別の所に書いたレビューを引っ張って来ました。ブレット・ラトナー監督としてはこれは随分気を抜いて作った作品だなーというのが印象でした。



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(2007年 8月)


まあ、ほら、ジャッキーですから。長いつきあいですから。ハリウッドでも大ヒットでしたから。これは一応見ておかないとね、「ラッシュアワー3」、クリス・タッカーがうるさくても。公式サイトはこちら


これはジャッキーの映画だけじゃなく、ジェット・リーがハリウッドで撮ってる作品見ても思うことですが、彼ら(欧米の脚本家その他)の頭の中にある中国或いは中国人(香港を含む)って、異文化通り越してほとんど魔の国ですよね……。魔法の魔というより悪魔の魔に近いものがあるのかも……。

それにしても今回の脚本はお粗末でした。アクションの見せ場を作るためにでっち上げられただけの筋立てで、ストーリーも何もあったもんじゃないというか。深く考える必要を感じさせないから、突っ込みも受けずに済むだろうという狙いか? はっきり言って、突っ込み入れる気力も湧きませんぜ。

いいのよ、ジャッキーのアクションが見られればそれで! 暑くて何も考えたくない時にはサイコーよ!

そこまで割り切れれば、コメディにひたって93分かなりゲラゲラ笑えます。クリス・タッカーが嫌いじゃなければですが。彼も「分別がわかってもいい年」に見えるようになってしまった分、おふざけを見ててもこちら側が「いいかげんにしたら……」と水をさしたい気分になってしまい、それでうまくはじけてノることができない部分がありました。ジャッキーと一緒ならいいんですが、彼一人のシーンだと特に。

オーウェン・ウィルソンと共演の「シャンハイ・ヌーン」同様、ジャッキーとアメリカ人との国境を越えた友情がこのシリーズの売りなわけですが、オーウェンとクリスの人種の違いが壁の越え方の違いに微妙に反映されているのが興味深いっちゃ興味深いです。

さらに興味深いのがアジア民族の皆兄弟ぶりで、ケンジという日本人のキャラクターが登場するのですが、彼は7歳の時に両親をヤクザに殺され、それでジャッキー(彼が演じるリー捜査官のことね♪ ここではジャッキーで通します)のいる孤児院に連れて来られたのだとか。

日本から中国まで、親戚がいるならともかく、なんで7歳の子が孤児院に入りに行くよ?
どれだけ手間と金かかると思っとんじゃい! 
ってーか、大陸の一部じゃありませんから、日本。四方海に囲まれてますから。わかってる、脚本家?

ちなみにケンジを演じた真田さんの生まれた年は1960年、それがそのまま7歳だったら1967年、日本と中国まだ国交回復してないってば。パンダが来たのが1972年だよ。そのあと「残留孤児」の皆様が大勢日本に帰国なさいましたが、その逆があったとは知りませんでしたわ。ヴィザどーやってとったのさ?

いやまあ、家族をヤクザに殺されるぐらいだからケンジ少年も命を狙われてて、それでわざわざ中国の孤児院に預けられたのかもしれないですけどね。年齢を劇中で10歳サバよんだとして、1977年頃の日本から中国に行ったら、そりゃ黙ってても世を拗ねますわ。自分を中国に送り込んだ人間をまず恨むだろうな(高度経済成長のまっただ中から、その文化的設備や電化製品がな~んにもない所に放り込まれるようなものです。あ、中国にも勿論そういったものはあったのよ。ただ、それは孤児院みたいな所にまでは行き渡ってなかったはず)。


という細かい所はおいといて、ケンジ少年とジャッキー少年はその孤児院で仲良くなって兄弟分の契りを結んだらしい。血の誓いでしょうか? これが「桃園の誓い」がベースにあるのか義兄弟としての拘束力(?)が非常に強いらしく、今でもジャッキーを縛っているというのが今回のドラマ部分。ええ、とってつけてます。

真田さんはさすがにかっこよくて、アクションも存在感も満点。彼が日本語を喋ってそれにジャッキーが日本語で返すシーンや、ジャッキーが中国語を喋ってそれに真田さんが中国語で返答するシーンなどサービスカットも満載。この場面は、お互いがお互いに言葉を教え合ったんじゃないのかしら? ジャッキーの日本語、大変聞き取りやすかったです。

でもねー、二人で対峙するシーンを見た時に思ったのは、20年前に実現させて欲しかったなーということ。
彼らのキャリアをずっと見てきているだけに、ハリウッドで開花するのがこの時期だったのが本当に残念です。どんなにがんばっても、もう二人とも若くは見えませんからね。アクションに磨きがかかっていても、やっぱり溌剌さに欠けてしまう。工藤夕貴ちゃんもあわせてだけど、20年前に見たかったな。

「ラッシュアワー2」ではジョン・ローンが起用されてますから、今や真田さんは彼に匹敵するハリウッドでアジアを代表する俳優ってことですね。いや、もはや凌駕してると言ってもいいかも。このジョン・ローンの代表作「ラスト・エンペラー」が1987年で今から丁度20年前なんです。あれから少しはアジア人俳優の地位もハリウッドで向上したのでしょうか。


ところでケンジというキャラクターが日本人である必然性って全くないんですよね。
最初に真田さんをキャスティングしたから、無理矢理日本から来た孤児ってことにしただけでしょう。

今回の脚本は一事が万事そんな調子で、フランスが舞台になったのもそこに行く必然性があったというよりは、監督もしくはジャッキーの「おー、オレ、ここ(フランスの歴史的建造物)を舞台にアクション撮りたいわ~!」という意向が先にあったとしか思えません。フランスまで捜査に行く理由といえば、捕まえた相手がフランス語喋ってること以外になかったような……。

さておフランスといえば、名物は「TAXi」(「タクシー」)と「クルーゾー警部」! 

いきなり小柄なクルーゾー警部そっくりさんが現れたと思ったら、やってることは「TAXi」のジベール署長と同じでやんの……。フランス警察の捜査法って、基本が拷問なんだな……(「エンパイア・オブ・ウルフ」のジャン・レノもそうだったよ)。このクルーゾー警部もどきさん、あとでキャスティングみたらロマン・ポランスキーだってさ……そんなことしてる暇あったら、オーリ主演で「ポンペイ」撮ってくださいよ、監督!

ところで「TAXi」といえば現在「4」が絶賛公開中なんですが(こちら )、見ようと思ったら最寄りのシネコンでは何故か日本語吹き替え版しか上映がなくて、しかもその声あててるのがオーリファンの怨敵オリ・ラジなんですな。誰が見るもんかい! テレビで吹き替えてる関さん大塚さんコンビだったら喜んで見に行ったのに。

そのせいでちょっとばかり感じていた欲求不満ですが「ラッシュアワー3」で見事に解消されました。エミリアンよりはロバート・デ・ニーロに似ているタクシーの運ちゃんがまあ八面六臂の活躍で、ダニエル並のテクニックを見せてくれます(車が違うのであのスピードは出ないけど)。

このタクシー運転手のジョージ(ジョージに限らず、フランス人の名前は全部英語読みで字幕ついてました)、最初は主役の二人を乗車拒否してその理由にアメリカとアメリカ人の悪口をめーいっぱい並べ立てるんですけど、その中にハリー・ベリーに関することも含まれているんですねー。あんなガリガリ女優全然魅力ない、とかだったかな?


「ラッシュ・アワー」シリーズの監督はブレット・ラトナー。彼の前作はブライアン・シンガー監督から引き継いだ「Xメン3」で、これも大ヒットが記憶に新しいですが、監督とストームを演じたオスカー女優ハリー・ベリーとの確執も実はゴシップ欄をにぎわしてたものなのです。

その辺をしっかり受けてのギャグになっているのでしょうが、しかしラトナー監督、「X3」でストーリー構成緻密にやりすぎちゃって疲れたのでしょうね。「ラッシュアワー3」では思う存分手抜きして楽してたような。

アクションの見せ方はさすがに一流です。「X3」でゴールデン・ゲート・ブリッジを効果的に使っていた様に、この監督は建築や建造物を生かしたアクションを撮るのが好きと見ました。「レッド・ドラゴン」で見せてくれた心理的駆け引きを際だたせる演出は、ケンジとジャッキーの間に流れる複雑な感情の対立に生かされていましたが、役者の演技と存在感だけに頼って脚本上の裏付けが十分じゃなかったのが惜しまれます。


さて、ここからネタバレ。ちょっと下げます。





古来密書を届ける方法として頭に入れ墨するというのは確かにあったのです。
でもでもでも、何しろ昔なんでスピードは二の次、秘密厳守が第一。
頭を剃って情報を入れ墨したら、髪の毛が生えそろって入れ墨が全部見えなくなるのを待ってから情報を届けに出発したもんなんですわー。無事届け先に着いたらまた髪を剃って情報を見せるのね。
坊主のままだったら頭に入れ墨する意味ないんだっつーのに。

なんかこー、文化をトータルに捉えないでいびつな形で脚本に取り入れてるのが鼻につきましたね。

ま、深く考えないで楽しむ映画ですので、野暮はここまでにしておきます。

暑い夏のもやもやした気分を晴らすのにはもってこいの作品かもしれませんよ!