6月14日にWOWOWで放映されるんですね、「スキヤキ・ウェスタン ジャンゴ」(WOWOW online )
この映画は賛否両論ありましたが、少なくとも私の知っている女性でこれを見た人で好意的に語っていた人はおりません。といっても精々2~3人で、そもそも女性が見るような映画じゃなかったというのが正しいのかもしれません。
丁度同じ頃にタランティーノとロドリゲスの「グラインド・ハウス」も上映されてて、この両方の作品ともタランティーノが出演してるし「ジャンゴ」にも出演してるしで、私としてはもう映画でタランティーノ見るの飽きた、という気分でしたが。
「ジャンゴ」そのものについてはおもしろい企画だったと思います。日本人キャストに全編英語で台詞喋らせて字幕つけた効果は確かにありました。ウェスタンの乾いた世界に日本語の母音の多いベタついたセリフは確かに音としてそぐわないと思いました。内容はもうなんつーか、映画なんだから何でもありでしょ、と腹をくくればそれなりに楽しめましたよ、頭の中で伊藤英明をクリント・イーストウッドに置き換えたりしてね。
ま、しかし、それはそれ。
「ジャンゴ」で一番おもしろかったのは、タランティーノの好みというか本質が全部出てる部分です。
「グラインド・ハウス」の「プラネット・テラー」では単なるサディストの変態野郎として出演していたし、彼が監督した「デス・プルーフ」も単なるサディストの変態野郎がイジメてた女の子の逆襲にあって最後にぼっこぼこにされるというだけの作品で、タランティーノが本当に撮りたいのはこういう作品かいと思うと少々ゲンナリして引いてしまっていたのですよ。
こういう作品って、監督の趣味嗜好がモロに反映されているものです。
そりゃどうしてもタランティーノって相当サディスティックな嗜好を持ち合わせているんだろうなーと思ってしまうでしょ。そんなんばっかり見せられたら。
でも女性に対してサディスティックに振る舞うだけじゃ物足りないんですよね、たぶん、彼は。罪の意識なのか何か知らないけど、イジメた女性にはイジメ返されたい。サディスティックな表側の裏には充分マゾヒスティックな一面も隠れているわけで。最終的に強い女性が好きなんでしょうね、きっと。「キル・ビル」のブライドみたいな。
「キル・ビル」のVOL.2にはブライドが中国だったかどこだかでカンフーだか何だかの修行をするシーンが出てきます。この師匠がまたサドとしか思えなくて、ほとんど無意味としか思えない修行をブライドに偉そうに伝授するわけですよ。またそのアホな修行をブライドが従順にやり遂げるワケ。まあ、映画の内容がマンガレベルですからいいんですけど。ちなみにその師匠はやっぱり最後に女に殺されるワケで。まあ普通の女だったらあんな修行我慢しないって。
で、その図式がそっくりそのまま「ジャンゴ」にも出てくるんですな。
そして今回師匠に扮しているのは誰あろうクェンティン・タランティーノその人。
ああ、そうかと納得しましたよ。
タランティーノは若い頃香港映画や日本映画を随分たくさん見たそうですが、彼がそれらを好んだその理由。これらの映画に多い「師匠と弟子(特に女)」の図式が殊の外彼の嗜好にマッチしたんでしょう。
昔の日本や香港の映画には、無理難題をふっかける師匠の言うことを従順に聞いた弟子が最後に勝つというパターン、多くないですか?
ジャッキー・チェンの人気が出始めた頃のカンフー映画がそうですよ。師匠が教える内容に理があると納得できるかどうかの判断は観客次第かもしれませんが、とにかく儒教の精神が残ってますから、年少者は年長者の言うことに唯々諾々と従うんですね。反抗するなんてもっての他。
これって、年長者がサディストだったら堪えられない好条件ですよね?
イギリスの男子寮なんかもそんな世界だったらしいですが、しかし先輩の無意味なシゴキは嫌われるだけですが、これが武道の師匠の場合だと修行に成果があればその分しっかりと感謝されるんですよ。
わかります?
好きなだけイジメておいて、それを感謝される。
弟子が女性なら感謝が愛情に変わることもあり得るわけで。
これぞ心優しいサディストの夢の世界じゃありません?
性的に異常な嗜好を満足させつつ、豊かな愛情生活も甘受できる。
タランティーノ、憧れたでしょうね、その東洋的な夢の世界に。
その後自分で映画を製作するようになって、サディスティックな部分とマゾヒスティックな部分を別々に表現することはできるようになったんですが、しかし東洋的なその融合にまではなかなか至りませんでした。
監督・脚本の「キル・ビル」でも完全には果たせなかったその夢を、タランティーノ、「ジャンゴ」に俳優として出演することで見事果たしたのでしょう。イジメた相手に愛されれば、愛の裏返しとしての復讐で相手に殺される必要もないですもんね。
もっちろんこんなに歪んだ愛情生活なんて普通の女性は決して望みませんから、「ジャンゴ」を見た女性の感想は吐き捨てるようなものばかりなのです。
ま、あたしゃ「デス・プルーフ」よりは「ジャンゴ」の方がマシだと思いましたよ。タランティーノ、素直に自分出してたもん。