「次郎長三国志」公式サイト


今月、シネコンのフリーパスを貰ったおかげで普段だったら絶対見ないような邦画を山のように見ております。この「次郎長三国志」もそのひとつで、そもそも先週ぐらいまで全く興味もなかったのでタダでもスルーするつもりだったのですが、予告で見た北村一輝がかなりかっこよかったので、つい……。


結論から先に言うと、とてもおもしろかったです。自分でも意外な程楽しんでしまいました。私もトシなんでしょーかねー。というのはその前に見ていた「パコと魔法の絵本」にはすっかり辟易したもので。

「パコ」って、私のイメージ上にある「映画」とはかけ離れた存在でしたから。あれは舞台でやるもので、映画にするならもう少し整理して然るべきではないかと。でも周囲のお客さん達には「パコ」は大受けだったから、今日本で望まれているスタイルの「邦画」はこんなもんなんかいな、と思った次第で。


「パコ」に比べれば「映画」のセオリー通りに作ってある「次郎長三国志」は頭を悩ませる事なく最初から最後まで安心して見ることのできる私にとっての良作だったと言えましょうか。――「安心」で映画を評価するなんて、ホラーファンにはあるまじき失態(?)かもしれないけれど、「パコ」のように「ここ笑う所だから!」的に粗雑なギャグを繰り出して無理矢理笑いを取ろうとしている(のはわかっても、私には笑えない)映画よりも、義理と人情の合間に自然に笑いがこみあげるような「次郎長」の方が気楽に見られるのは確かです。


まあこの2作は観客の年齢層が完全に1世代違っていたので、それぞれマーケティングを重ねターゲットを絞って制作されたのでしょうから違ってていいのですが、当然年齢が上の方対象が「次郎長」なわけで……心中複雑だったりします。


さて映画「次郎長」の印象はと申しますと、一言、「手堅い」。


あまりに手堅くこなれた作りに、あたしゃマキノ監督は名前だけで事実上は相当手練れのお方が現場を仕切ってたに違いないとまで思ってしまいましたわ(あくまで推測です)。


で、見所は、これは二言、「いい男といい女」。


中井貴一や北村一輝が男前ぶりを存分に発揮しているのは言うまでもなく、普段は脇役で「渋い」だの「存在感」だの言われている(それも中年から老年にかかった)俳優さん達が、あり得ないくらいにいい男! 特に次郎長一家の面々は脚本上で「男を上げた」人物として描かれているため、彼ら本来の男っぷりに演技によって醸し出される内面の磨き込まれた美しさが反映されてるんですな。


(かつての)日本の男性がごく自然に理想と思えるような生き方をこの映画の中の主役側の男性陣は担わされたワケで、そりゃーかっこいいもん、監督が黙ってたって役者の演技には熱が入るわ~、みたいな感じでした。


現代あたりを舞台にしたんじゃ、あんなかっこいい生き方(&死に様)はできませんもの。当時だって凶状持ちなんだから、今なら単なる犯罪者ですからね。時代も法も違うから許せる世界で、存分に「男」のかっこよさを満喫する、それが「次郎長三国志」の醍醐味でしょう、恐らく見る側よりも制作する側にとって、より強く。


女性陣はその男性陣を支える役なんですが、これがまた多種多様というか、「支え方」の多彩ぶりにびっくり。


一番スゴかったのが荻野目恵子。相変わらずの笑い声だけで宇宙まで飛んで行けそうな程のキレっぷり。出番ちょっとしかないのに、あの声で一瞬にして場をさらうのがスゴかった。


それに比べたら木村佳乃なんかまだまだ! 特に今回は地獄を見てないのでイっちゃってもいないため、存在感が激減しておりました。


今一人の往年の(?)かわい子ちゃん女優、高岡早紀、古株的なハクはついてるものの、仇っぽくも何もないのがちょっと残念。


次郎長の恋女房、お蝶役は鈴木京香で、中井貴一とはいかにも似合いのめおとぶり。


このお二人は顔もさることながら共に口跡が美しい。言葉使いからおのずと品格の高さが伺えるので、さすが一家を構えるだけの貫禄のある親分と采配をふるうその女房だと納得できてしまいます。


セリフを聞いていると、日本語のリズミカルな流れが途絶えることなく話者から話者へと橋渡しされ、下手な喋り方や滑舌の悪さ等で途切れたりつまづいたりすることがありません。何故なら、対象とする観客の年齢層に合わせたのかこの作品、若い人が出ていないのです。俳優は中堅からベテランの芸達者ばかりで、彼らの台詞回しの上手さに聞き惚れてしまいました。案外これがこの映画を見ながら感じる安心感の正体だったかもしれません。



そんなセリフの中で一つだけ気になっていたのが人の名前で

「さんままさ」

というもの。

「まさ」は次郎長の子分に大政がいるように、親から貰った名前の一字でしょうが、では「さんま」は?


あたしゃてっきり魚の「秋刀魚(サンマ)」だとばかり思っていて、

「サンマ政とは妙な通り名だのー」

なんて漠然と考えていたのですが、エンドクレジットを見たら


三馬(さんま)政」だそうで……。


魚じゃなくて馬でしたかー。ううむ、時代を感じるわ。

いやしかし、最初から「三馬」と知っていれば「サンマ政」と聞くたびに秋刀魚連想して「ぷっ!」とならずにすんだのに。これって、次郎長の話を知っている人には常識なんでしょうか? 無知ですいません。


さてこの三馬政、竹内力が演じているんですが、見た目ほとんど和製ミッキー・ローク。「三馬」の意味は馬三頭分の精力かしらと思う程次々女をたらしこんでは利用して捨てるというロクデナシ。親分を見習って子分一同女性を尊重する次郎長一家にとってはまさに不倶戴天の敵。


三間政は女にだけじゃなく腕っ節も強いので、出入りになると仁王立ちになって敵の前に立ちはだかるのですが、その際割れた裾の間から越中褌の下がりが見事なまでにべろ~んと前に垂れていて、それが黄色だったりだったりするのですよね(重ね締めしているわけではない)。彼が着ている着物もあれこれカラフルなので、カラーコーディネイトしてるのかもしれませんが、ワタクシそのはしたない光景に目が釘付けでしたわ。ミッキー・ロークが来日したら、是非カラー褌をプレゼントしたいものです(←話が違うでしょ!)