「おくりびと」(公式サイト )
これ、最初劇場で予告を見た時、最初の内は「ありきたりの泣かせ映画か……」なんてナナメに見てたんですが、次第に内容にひきこまれ「これは見ておこう」と思わされてしまいました。
それは夫が打ち明けずにいた仕事が納棺師である事を知った妻がその事に激しい忌避感を露わにするシーンで、そのインパクトの強さに逆に「それなら私が見てやるわい!」といきりたっちゃったんですよね。日本には死に対する忌み・汚れの思想が未だに根強く残っているんだなとちょっと驚いたりして。
本編を見ると、主な舞台となるのが山形だったことでその感覚がより色濃く出ていたのではないかと思います。その分、死者に対するおそれ・敬いの念も強く出ていたとも。
この作品はストーリーも良くできていて本当におもしろいのですが、でも一番の見どころは本木雅弘の美しさでしょう。この方は年と共にますます美しくなる不思議な方です。内面がどんどん研ぎ澄まされ、磨かれていくことで外見に透明な美しさが浸透していく……そんな感じでしょうか。
死者を弔う職業に、これ以上うってつけの人材はいない……そう思わされます。
葬儀を担当するお坊様や神職以上に本木雅弘の演じた納棺師は死者に近い位置にいる……そんな感じでした。この世に残された遺族とあの世に旅立った死者との中継ぎにふさわしいひと、それが本木雅弘です。静かに静かにそこにいるだけで、彼を通して遺族は死者への最後の思いを伝えて貰い、死者は弔ってくれる遺族への感謝を残す。そこに言葉はいらない。仲立ちである納棺師の美しい動きを見るのを通じ、生者の様々な思いは昇華され、残された透明な悲しみは死者を無事にあの世へと送り届ける事の満足感へと少しずつ取って代わってゆく……。
形骸化された既存の「お葬式」では満たされない遺族のやるせなさが、納棺師が亡き人を畏敬を込め恭しく扱うのを見る過程で徐々に解放されていく――「おくりびと」が描いているのはその様子でした。
納棺師が遺骸を着替えさせる丹念な有様がエンドクレジットのバックで延々と映し出されているのですが、それを見て思い出したのが「陰陽師」でした。そうか、この監督「陰陽師」の人だったんだって、滝田洋二郎という名前見ても思い出さなかったことをエンディング見て思い出したりして。