「劇場版 さらば仮面ライダー電王 ファイナル・カウントダウン」公式サイト
「ゲゲゲの鬼太郎」の新作映画を見た時にも感じたことですが、既成の枠を跳び越えた作品は強いなと思いました。
「鬼太郎」にしろ「ライダー」にしろ、日本の各世代をまたいで様々なメディアで作品が生産されてきた物語であり、そのキャラクターです。当然根強いファンも存在し、そのファンそれぞれが胸の底に「鬼太郎やライダーはかくあるべし」といった信念めいたものを持っている。そしてそのことをあちらこちらで発言もする。
これがどうしても物語の「枠」をせばめてしまうんですよね。
ライダーは改造人間でバイクに乗って登場しなければならないとか、鬼太郎達妖怪は昔ながらの暮らしをしてなければいけないとか、どうしても最初に世に出た物語にその起源を求めてしまうわけです。
枠に囚われるとどうしても物語の自由が利かなくなる部分というのが出てきて、その上で尚かつおもしろい作品を作るのは非常に難しく時間のかかる作業となります。時代も変わっていますので、当然そこもなんとかしなければならない。
ここで二進も三進もいかなくなって失敗したのが「ゴジラ」なんだと思いますね。「ゴジラは絶対こうでなければいけない」という思い込みが観客の中に強くありすぎるものだから、何をどう作っても満足させることができない。なにしろゴジラ映画は大人の男性も見に行くものでしたから。
その点、「ライダー」も「鬼太郎」も、「ゴジラ」のように少年が大の男になっても尚かつ見に行くような映画ではないわけです。特に「ライダー」の対象年齢層は子ども達&その母親ですから、観客は常に交替し次々に新しい観客層に入れ替わる。そこには「こうじゃなきゃいけない」という強い思い込みが生まれるだけの長い時間はまだ存在していない。
というわけで、現代の「ライダー」って実は日本のTV界の中ではかなり大胆に実験的な試みをやっているドラマ枠だったりします。もちろんそれはテレビ局をうつってからが顕著なわけで。昔のライダーファンには結構ボロクソに言われてましたけれど、時代は変わってるんだから常に新しいものを求めて最先端を突っ走らないと今の子ども達はついてこない。「ゴジラ」が飽きられたのがいい例ですよね。「ライダー」が昔のファンのノスタルジーでしかない意見に振り回されて迷走してたら、こんなに続いてなかったでしょうよ。大体うるさいファンに限って口は出すけど金は出しませんからねー。ドラマや映画の対象としても見限られて当然かも。
全然関係ないですが、私は「仮面ライダー響鬼」がすごく好きだったんですね。ほんと新しいドラマで。あまりに新しすぎて一般視聴者の受けが悪かったというのがとても残念です。あれはNHK教育でやるべきドラマだったかも(私は日本のテレビ界の最先端はNHK教育だと信じて疑いません)。
さて話を戻して、というかここからがようやく本題なんですが、その実験的な「ライダー」でもまさかここまではやるまいと思っていたこと、「電王」軽々とやっちゃいましたね! タイムトラベルものだからOKっちゃOKなんですが、まさかライダー達を江戸時代に出しちゃうとは……!
何か他の時代劇映画orドラマを撮影中だったんで、セットとか流用できたんでしょーかねー?
象が江戸に来たのは1729(享保14)年で八代将軍吉宗の時代ですから、「暴れん坊将軍」とか?
まあとにかく、ライダーの原点に立ち戻って馬まで乗りまわしてくれちゃって、勇ましかったですわ。
イマジン達が長屋住まいで周りの人々に問題なく和やかに溶け込んでいる姿というのがとても新鮮でよかったです。これがね、「ライダー」の、ひいては石の森章太郎作品の理想をちゃんと「電王」が受け継いでいる証拠なんですよね。見かけの異なるイマジン達をご近所さんが温かく気兼ねなく受け入れている場面というのが本当に嬉しかったです。
また話は脱線しますが、「デネブ」という名前のイマジンが「おデブちゃん、おデブちゃん」と親しみを込めて呼ばれてるんですよね~。太っている人に対して使う「デブ」という言葉が差別語ということで禁止になって長いんですが、ここでの「デブ」は「デネブ」を縮めた略称或いはニックネームということで口に出しちゃってOKなんですね。この辺脚本家さんの反骨精神がイタズラ心にくるまれて現れていて痛快でした。
脚本そのものは練り上げる時間に欠けてたようですが、デンライナーを使った見せ場やオチなどはさすがというか。ラストには未来の東京の姿もちゃんと出してくれて、かなり凝った作りにはなっています。ひょっとすると説明部分なども脚本上ではあったのかもしれませんが、編集段階で子ども向けに短くするために切られちゃったのかも。
ところで「さらば電王」では主演は桜田通君ってことになってるのですが、実質的な主役は特別出演扱いであってもやはり佐藤健君。
悪いけれど、まだセリフに舌足らず感が残っている桜田君よりタケル君の方が演技力でも存在感でも上でした。「特別出演」の割には登場している時間も長かったので満足満足。
タケル君に対峙する悪の親玉役は、最初に見た時一瞬若返った寺田農かと思いましたがそうではなくて松村雄基。これもちょっと意外というか……最近見ないと思ったらこんな所でお仕事してたとは――的驚きというか。
しかし案外似合ってましたねー。劇中江戸時代の武士らしい姿で月代剃ったカツラ姿も見せてくれるのですが、長い髪のカツラ(よね?)の方がずっとお似合いでしたわよ。今後はこっちの路線でばんばん出たらよいのでは? 役柄的には寺田農よりも峰岸徹の方が近そうだけど。
いろいろな意味で既成の枠を軽く乗り越えてしまえる作品、だから「電王」は楽しいのです。