試写会で見た作品についてはネタバレなしの印象だけを語るべきところなのですが、この作品については何を書いてもネタバレになりそうなので困ってしまいます。


ネタバレなしで言える事といったら、「この作品は面白い!」ぐらいしかありませんので。


何がどう面白いかを書き出したら、確実に内容に触れてしまいますな。


というのもこの監督、シャイア君を使って撮った前作が「ディスタービア」で、これは当初からヒッチコックの「裏窓」との相似を指摘されてた作品なんですよ。実際に見比べると「ディスタービア」と「裏窓」では細部が全然違っているのですが、でも一番大事なプロットといえる「怪しい隣人の様子を、家から出ることのできない主人公が双眼鏡で観察する内に事件に巻き込まれる」という部分では確かに同じなんです。


これをどう捉えるのかは映画を見る人によって違うと思います。

プロットが似通っていれば盗作や剽窃にあたると思う人もいるでしょうし、細部が違っていれば別の作品と考える人もいるでしょう。

何をもってその監督のオリジナリティーとするか……その見方によって受けとめ方の方向も違ってくるのだと思います。


要するに、この新作である「イーグル・アイ」も前作の「ディスタービア」同様、ルーツを過去の様々な作品に辿れるんですよ。で、そのタイトルを挙げれば、映画ファンで察しのいい人ならストーリーがどう展開するかそれだけで読めてしまうの。


ただ、「イーグル・アイ」のおもしろさというのはストーリーの意外さよりも、たたみ掛けていくサスペンス性と最新テクノロジーの駆使にあるんですよね。それは「ディスタービア」でも行われていたことで、カルーソ監督の才能というのは実際そこにこそあるんだと思うんです。


この監督の作品で他に見た映画は「テイキング・ライブス」ぐらいですが、これはまだ監督のオリジナリティーが全面的に出ていない分物足りなかったんですよね。たぶんストーリー的にはこっちの方がオリジナル性はあると思うんですが。


今回「イーグル・アイ」を見たことで、カルーソ監督が本領を発揮するのは現代では古くなってしまった名画のプロットを最新テクノロジーの元で新しく甦らせる時なのではないかと思ってしまいました。それでこれだけおもしろい映画を作れるのなら、それでもいいじゃないかという気になりましたね。


基本のプロットは似通っていても、細部が違いテーマも違うなら、それは新しい作品として見てもいいのではないかということです。


実のところ「イーグル・アイ」の原案を考えたのはスピルバーグで、しかも思いついたのは10年前だったと舞台挨拶で語られていたんですが、私が見たところスピルバーグがこの映画のヒントを貰ったのはもっと前のはずです。SFファンなら誰でも知っている古典を見た時からアイディアを暖めていたんだと思いますね。


それを監督させるのにカルーソを選んだということは、スピルバーグがカルーソの才能がどこにあるのかを正確に見抜いていたことに他なりません。「イーグル・アイ」のサスペンス性はスピルバーグのものとはやはりどこか違う。スピルバーグの映画では襲ってくるものの正体は大抵分かっていて分からないのはいつどこから襲われるかなのですが、カルーソ監督作品で描かれるのは得体の知れないものに自分の行動を左右される恐さなんですよね。


「イーグル・アイ」は今見るからこそおもしろい映画といえるかもしれません。

おもしろさを最新のテクノロジーに頼っている作品ですから、そのテクノロジーが一般化されれば映画で描かれている事は当たり前になって、目新しさによる意外性は失われてしまいます。

だからこそ時を置かず、公開中に見るのが一番とも言えるのです。


アメリカの現政権への批判もさりげなく含まれている辺り、アメリカ嫌いの人にもいいかもしれません。