キアヌが主演だから当然といえば当然ながら、アメリカでは公開第一週でトップをとったこの作品だが、この時期に封切られたのがヒットの大きな要因であるのは間違いないと思う。
と言っても「地球が静止する日」がクリスマスシーズンに最適の映画というわけではない。
だが例えばこの映画と「アイアンマン」の公開日を入れ替えたなら、どっちもヒットはしなかっただろうと思うのだ。
「アイアンマン」と「地球が静止する日」の間にあったもの、それはリーマン・ブラザーズの破綻であり、そして今も続く世界同時不況である。この違いは大きい。
思えば「アイアンマン」はいい時期に公開できたものである。
まだまだアメリカの気分がイケイケどんどんだったから、あのとんでもない金食い虫のアイアンマンスーツが広く受け入れられたのだ(日本ではそうでもなかった)。あの映画が今この時期の景気が悪化して不況感漂う中公開されたら反感を買うばっかりだったのではないだろうか? もうちょっとどん底まで冷え込んだら逆にヤケッパチな気分が蔓延して「全部テロリストが悪いんだから余さずぶっ殺したれ~!」と一種の八つ当たり気分でまたヒットにつながったかもしれないけれど。
そしてまた「地球が静止する日」が半年前に公開されていたら、こういった雰囲気の作品は鼻で笑われていたのではないかと思うのだ。
この映画は人々に「一歩立ち止まって自分達を、人類のあり方を見直そう」と呼びかけているような作品だ。
景気の波にのっかって利潤追求に余念のない人々に向かってそんな事を言っても、99%の人は耳を貸すまい。
しかし現在、多くの人々は、自分の意志に反して一歩立ち止まらざるを得ない状況に直面しているのである。
理由は違うけれども、映画が呼びかけている事を観客は現に実行しているわけだ。親近感も湧くというものである。
残念ながら不況で観客の懐も厳しいから、「アイアンマン」程のバカげたヒットはしないだろうけれど。
「地球が静止する日」は、アイアンマンとは正反対の作品で、非常に静かな映画である。
事態はもの凄いスピードで展開し推移していくのに、何故か映画そのものイメージは静かなままなのだ。沈静が沈滞にしずむ一歩手前といった感じで、まさに時代のムードそのまんま。
「現在の状況がこのまま続いたら未来はどうなるのだろう」という焦慮と不安がこの作品の根底にはあるのだが、「この景気の悪さがこのまま続いたら将来はどうなるのだろう」という焦慮と不安が観客の根底にあるため、つい必要以上に感情移入できてしまうのがこの時期に封切りした一番の利点と言えるだろうか。
もちろんそういう不安は「アイアンマン」の時期にだってなかったわけではない。ただ大多数の人が敢えて目を向けようとしていなかっただけだ。その結果が現在の状況なわけだけど。しかしその時期に「地球が静止する日」を公開したところで、警鐘と受けとめられるにしろ結局はうるさがられるだけで終わったことだろう。
まさか世界情勢がこうなると予知していたわけではないだろうが、まことに時宜を得た公開日だったことは間違いない。運のいい作品である。