「ミラーズ」公式サイト


がんばってるってのはよく分かるんだけど、どーしたもんか別に恐くないんだよね、この映画。


結局、新しいものがない、と申しましょうかね。ショッキングな映像というか残酷描写はCGI駆使してめいっぱい見せてくれるんだけど、それだけだとね、人間、飽きます。例えば「CSI」なんかで見てるだけで、もう慣れてしまうわけですよ、「ムゴイ死に様」そのものには。最初は目を覆うけれども、繰り返し見させられる内、すぐに「またかよ」になってしまう。


「SAW」シリーズの2,3,4あたりがすぐれているのは、「ムゴイ死に様」を見せるだけじゃなくて死に至るまでの状況設定の異常さとかそこでの人間心理の葛藤とか駆け引きが描かれているからですよ。殺人の実行犯になる人も被害者の一人であるという、そのシチュエーションを最大限利用して恐怖を煽ってくれるんだな。


「テキサス・チェーンソー」や「ハロウィン」の恐さは、元々はコミュニケーション断絶の恐怖でした。「13日の金曜日」でもそうだけど、「やめて!」といってもその言葉の意味が相手に通じない恐怖ですよね。相手は自分達と同じ人間の形をしているのに、コミュニケーションがとれないというだけで一種超自然的な恐怖の対象になってしまう。


リメイクの方はただの物言わぬ殺人鬼が趣味で惨殺を繰り返すというだけの作品に成り下がってますが、それでも追われる方が何から逃げなきゃいけないかが分かっている分、恐怖の対象が絞りやすいというメリットがある。


しかし「ミラーズ」だと恐怖の対象が「鏡」なのよね。

日常生活で至る所に転がっている鏡。それが人間に牙を剥く恐怖――といえばすご~く恐い状況になって然るべきなんだけど、何故かあまり恐くない。「燃えよ! ドラゴン」でリーが鏡の間に招じ入れられた直後の方がよっぽど恐かった。結局CGIの恐怖映像に頼るあまり、映画の展開の中でサスペンスを盛り上げ恐怖を高めるという工夫がなされていないということですね。


「鏡」が恐いといっても、別に鏡自身が妖怪化して人間を食うとかそういうのではなく、「鏡」に潜む何かが悪さを仕掛けてくるわけで、その何かの正体も最終的には明かされるわけなんだけど……何故かそのいわゆる「謎解き」に当たる場面を見ていてもドキドキワクワクする箇所が全くないのだわ、なんで? その上最終的に全ての謎が明らかになった瞬間、恐怖の正体に震え上がるという事もできなかった。「へー」ってだけ。


例えばカーペンターならば、その得体の知れないものの正体が暴かれるまでのストーリー展開だけで死ぬほど恐がらせてくれると思うのよね。テレビシリーズの「マスターズ・オブ・ホラー」の「グッバイ・ベイビー」なんかその白眉ですわ。内容的には「へー」で終わってもいいようなストーリーなのに、語り口が上手いもんだから恐怖のどん底に叩き落として貰えたもん♪(←喜んでどうする!)


ま、端的に言えば監督の腕の差という事なんだろうけれど、「ミラーズ」はストーリーのもって行き方が全面的に下手なんだと思う。起承転結の起承の部分で鏡を使って脅かすことばかりに時間を使いすぎ、肝心の転結で謎解きをして事件を解決に導く部分がお粗末だったってことでしょう。クライマックスの見せ場はあるにしても、それはもうホラー的な恐さとは縁のないくシーンになってしまっていたし。

実のところ売りであるはずの残酷描写にしても人体の切断面とか焼け焦げていく様子とかはCGI全盛の現在では別に目新しいものではない。はっきり言えば「あら、これは呪怨だわ、これはサインレント・ヒルだわ、これはホーンティングにあったわ、ホラーじゃないけどこういうのはトム・ヤム・クンで見たわ」てな具合にどこかで見たような映像ばっかりだったりするのである。


そもそも鏡を使ったシーンで観客の度肝を抜いて心胆寒からしめた作品といえば、ホラーファンならずとも映画ファンならまず第一に思い浮かぶタイトルは「ポルターガイスト」なんだけど、「ミラーズ」ってその有名な鏡のシーンだけを抜き出してグレードアップさせたらどうなるかというのが企画の初めだったんじゃないかね? さすがにそれだけで映画一本分作るのは無理だったみたいで、後から超有名ホラー映画(タイトルを書くと内容が分かってしまうのでパス。「REC」もこれが元ネタ)のエッセンスを救いがない形でくっつけました、って感じなんだけど。


このでっちあげ感漂うストーリー展開のいい加減さ、下手さもさることながら、この作品の最大の欠点は登場人物に全く魅力が感じられないこと。これはやはり致命的でしょう。


トラウマ背負っている主役はキーファー・サザーランドが演じているけれど、このトラウマは直接的にはストーリーに何の関わりもなくて、単にキーファーを壊れかけた身勝手なオッサンに設定するためだけの道具だし、そのせいで結婚生活が破綻して別居している奥さんは、旦那に立ち直って欲しいんだか別れて欲しいんだかよくわからない。医者という職業柄常に感情の起伏を押さえているのかもしれないけれど、それにしたって彼女の言動はあまりに冷たく自分本位にしか思えない。この二人があまりに自己中心的すぎるので、見ていて感情移入はおろか同情一つできないんだよね。


この自己中奥さん、外見はラテン系のハリー・ベリーと言う感じで本当に美しいのだけど、最初はキーファーの言うことなど何一つ信じてなかったくせに、自分に危機が迫るところっと態度を一変させて旦那に助けを求めてそれをごく当然と思ってる。キーファーはキーファーで、そうなると自分の家族の事しか目に入らなくなって他人の事など一切顧みなくなるし。まあ、似た者夫婦ではある。


だから、この自己中な二人が映画の中で恐い目にあったところで、どこまでも他人事として見てしまうため恐怖を自分の身に引き付けて感じる事ができないわけ。なんかこう、あんた達、自業自得なんじゃないの? みたいな。


この映画の主役は自分と自分の家族の事しか考えない男で、だから救うのも自分と自分の家族だけ。そういう男の行為は英雄的とか崇高とかは思えない。同じホラーであっても「1408号室」のジョン・キューザックとはそこが決定的に違うわけで、それが見た後に「よかった」と思えるかそうじゃないかの分岐点だろう。「ミラーズ」にはオチがあるから、そのためにはキーファー演じる男がヒーローではちょっとまずいのかもしれないが、それにしても後味が悪い。


オチがあって後味が悪くても最高に恐いホラーなら、ホラーとして上等ということで許せるのだけれど(例えば「ダークネス」)、申し訳ないが「ミラーズ」のオチは見る前から薄々見当がつくものだし、登場人物に感情移入していない限り「そうですか」で終わっちゃう程度ものなんである。


「ミラーズ」に比べたら「サイレント・ヒル」の方が登場人物に感情移入出来る分、よっぽど後味よいわ! 


なんで今頃こんなホラー作ったんだろって、そりゃCGIの技術が発達して満足のいく精度で映像を作れるようになったからなんだろうけれど、映画は映像だけが全てじゃない、的確なストーリーテリング(実は話の出来は二の次、大事なのはコレ)と魅力的な登場人物(顔じゃなくて性格が)なくしては成り立たないものなんだという、失敗作の見本のような映画でした。