これの舞台挨拶についてはこちら でも触れましたが、プロレスラーのジャガー横田さんと医師の木下博勝御夫妻が登場して、息の合ったコンビぶりで楽しいトークを披露してくれました。
でも、なんでジャガーが?! と思うでしょ。
実はメインで話を聞くべきはお医者様であらせられる木下さんだったようなんです。と言っても舞台に出た瞬間からその場を牛耳ってたのはジャガーさんの方なんで、肝心の木下さんの医師としての発言なんざどっか遠くの方に吹っ飛ばされていましたけどね。
この「アンドロメダ・ストレイン」、かのマイクル・クライトンによる原作小説の邦題は「アンドロメダ病原体」、その映画化作品である「アンドロメダ…」のリメイクにあたります。「病原体」の話なので、トークにはお医者様がふさわしいということだったのでしょう。
今でこそ新型インフルエンザによる感染爆発は時間の問題と言われ様々な対処法があちこちで語られるようになりましたが、その「感染」という危機に対してどう対処するか、どう予防しどう治療しどう隔離するか、といった問題に関して恐らく最初に書かれたSFが「アンドロメダ病原体」です。
細菌やウイルスによって人類が滅亡するかもしれないという話はその前から書かれてましたけど(それこそ「アイ・アム・レジェンド」の原作ですな)、その病気の「感染」に対してどう立ち向かうかという「危機管理」の視点で書かれたのが新しかったのです。孤高のヒーロー一人が世界を救うのではなく、あちらこちらから呼び集められた即席のチームがトラブルを抱えながらも一丸となり、それぞれの才能を生かしつつ全員で危機に立ち向かうというのも当時は斬新でした。
この原作を名匠ロバート・ワイズ監督が映画化したのが「アンドロメダ…」。
これは私が子どもの頃テレビの洋画劇場で見て、あまりのおもしろさに衝撃を受けた作品です。こ、こんなにおもしろい映画がこの世にあったのかと真剣に思いましたよ。とにかく何もかもが新しかった。
病原菌による人類滅亡を事前に防ぐために考えられた防疫施設で、生物汚染を徹底的に防ぐための隔離システムがどうなっているかというのをまず見せてくれたんですが、これが新鮮で! 当時は核の放射能汚染には神経質になっている時代でしたが、その他については大体が大まかでいいかげんでしたからねー。「バイオハザード」等も遡ればこの映画に行き着くはずですよ。
俳優さん達は特に有名な人が起用されていたわけではありませんが、全体としてよくまとまり、キャラクター的にも適材適所な感じでした。
何よりすごいのがスピーディーな演出で、てんこもりな内容の原作のテイストを失わないように、次から次に危機と危険がこれでもかとふりかかってくるのを超優秀なメンバーが何するものぞとばったばったと薙ぎ倒していく感じで、小気味よくストーリーが進んで飽きることもダレることもないんです。イメージ的には現在のTVドラマなら「CSI」チームの辣腕ぶりです。
1971年の作品ですから、今見れば恐らくゆったりしたテンポで技術も古くて「なんじゃ?」って程度にしか思えないのかもしれませんが、私が最初に見た時の手に汗握る興奮は今でも体の中に残っています。それ以来SF映画のとりこですからね。私にとっては「スターウォーズ」よりもおもしろい最高のSF映画、それが「アンドロメダ…」でした。
この傑作、スターチャンネルで放映されるそうなので、視聴可能な方はどうぞ御覧下さい(こちら )。
さてその「アンドロメダ…」が「アンドロメダ・ストレイン」としてテレビドラマ前後編にリメイクされた、制作総指揮はリドリー&トニースコット兄弟だと聞けばいやが応にも期待が高まるのが人情というもの。
プレミア試写会のお知らせを見つけた時にはソッコーで応募し、当選ハガキを手にした時は喜びに打ち震えたものです。会場が何故かいつも迷って辿り着けないスペースFS汐留でもがんばって行こうと思いましたよ。当日やっぱり迷ったけれど(地図上 でこんなに分かりづらい試写会場って、他にないと思う。せめて「ヤクルトホールのすぐそば、階段昇ル」ぐらいの注釈つけてくれ!!)。
何とか時間前に辿り着き、無事入場。椅子がフカフカなこの会場の良い所ではあるものの、試写会場としてはかなり小規模なホールのさらに半分ぐらいしか人で埋まってないのを見て、彼我の温度差にかなり痛烈なショックを受けた私。SF映画ファンは少ない上に、「アンドロメダ…」には怪獣も宇宙船も出てこないから仕方ないんだけど。でも制作総指揮は「エイリアン」のリドリー・スコットに「トップ・ガン」のトニー・スコットなのに~。
と思ったけれど、SF映画ファンの皆様は見識が高いということを始まってすぐに思い知りました。
ってゆーのは、この「アンドロメダ・ストレイン」はテレビドラマ用に撮影されたものなので、それを試写会のスクリーンで見ちゃった日には光量が全然足りなくて満足できる映像にならないんですよ。それも知らずにのこのこ出かけてったあたしって、ばか。
映画は映画館で見るのが一番なら、テレビドラマはテレビで見るのが一番。
というわけで、間違った方法で見てしまった私にはこのドラマを正当に評価することはできないと思います。
と一言お断りを入れたので、あとは遠慮なく。
テレビドラマですから、映画に比べてカットの一つ一つが長くてテンポがのろく感じられるのは仕方ないとしても、緊迫感が全然ないのは演出に問題があるんじゃないでしょうか。いくら制作総指揮がスコット兄弟でも最終的には監督の力量が大事ってことですよね。とにかくサスペンスが全く感じられませんでした。
そりゃー、原作読んでてオリジナルの映画を見てるんだから、次の展開がどうなるかドキドキするって事はないかもしれませんよ。 登場人物のほとんどが科学者だからアクションをさせられないのは分かりますが、軍のものものしい装備ばかりを大々的に見せて「これは大事件なんだ」と観客を威圧するばかりでは飽きてしまいます。
科学者はアクションじゃなくて、知的作業に従事する段階でいくらでもサスペンス性を醸し出せるはずなんです。オリジナルの映画がそうだし、テレビシリーズだったら「リ・ジェネシス」がその好例でした。先に名前をあげた「CSI」だってやってますよ。
ところがこの「アンドロメダ・ストレイン」の科学者達は、ドラマの中でちゃんと研究し成果をあげているにも関わらず、その部分に全くおもしろさを感じられないんですよね。要するに「アンドロメダ病原体」の中での最もおもしろい部分が空白状態なんですわ。実験という部分が全てコンピューターによって機械化されているので、科学者達は考えているだけなんですが、このドラマのキャスト達が「考えている」演技に魅力がないんです。たぶん、考えてるフリしてるだけだからなんだろうな。
「リ・ジェネシス」の主役、サンドストローム博士は考えている姿が迫力あって魅力的なんですよ。彼を支える研究チームも実験を自分の手で行い、顕微鏡を通して自分の目で確認し、その結果を自分の頭で判断しては一喜一憂する。このテレビシリーズはこういう部分をとても丁寧に描いていて、だからおもしろいんです。
「アンドロメダ・ストレイン」は前後編という時間の制約があったせいかもしれませんが、こういう描写がほとんどなかった。結局科学者の考えている事は二の次で、重要なのはその上に暗雲を垂れ込めさせる陰謀とその黒幕っていう描き方になってしまっているのです。
それは最近の流行かもしれませんが、私が期待したものとは違う。
確かに陰謀があった方が、いろんな面でアクションが派手になるし、見せ場も多く作れるしで、テレビドラマとしては上出来になるのかもしれませんが、でも一体この作品で何を描きたかったのかは全く分からなくなります。原作のテーマを無理矢理セリフにして言わせたところで、作品全体が何を言いたいのかわからないのでは、見た後で心に残るものがない。いろんなものを盛り込みすぎて、焦点がぼけてしまっているのですわ。
でもそれはスクリーンで見たからそう感じたのであって。
きっと、休みの日に家族でお茶を飲んだりお菓子を食べたりしながら見る分には丁度いい番組になっているのでしょう。前半はともかく後半は原作にもないストーリーが展開されるのでオリジナルを見た人にとっても楽しめるようになっているし、とにかくサービス満点ですから。
私にとってもう一つの不満は、主役でベンジャミン・ブラットどまりで、それ以上の美男がメインキャストにいなかったことですが。この俳優さんは「デンジャラス・ビューティー」ではサンドラ・ブロックの相手役でしたが中途半端な二枚目でねー、彼以上のハンサムが周りにいないという環境でのみかろうじて二枚目たり得るという立場でした。今回も同様。
この方、マイケル・キートンから毒気を抜いた様な感じなんですが、マイケル・キートンはあのエキセントリックさがあるからこそバットマンでもビートルジュースでもできるのに、ベンジャミン・ブラットにはそれがない。それが今回の配役の致命的な欠点で、ベンジャミン普通すぎて天才科学者に見えないんですわ。ただの科学者にも見えなかったな、悪いけど。
共演に「ロスト」の韓国人の旦那様役でおなじみのダニエル・デイ・キム。彼は良い味出してました、今回は中国人役でしたけど。
科学者チームのキャスティングが全体的に平凡すぎてつまらなかったのが残念ですよ。映画ならね、「ジュラシック・パーク」みたいにサム・ニールとかジェフ・ゴールドブラムとか揃えられるのにね。テレビだとここまでって事なんでしょうか。
いろいろ書きましたが、オリジナルを知らない人にとっては楽しめるテレビドラマだと思います。
スターチャンネル で1月24と25の二日に分けて放映されますので、チャンスのあるかたは是非御覧下さい。