「人のセックスを笑うな」 公式サイト

もーアタシこの映画見て自分の人生道誤ったと思いましたね。
歌なんてすっぱりやめて画業を志せばよかったわよ!
そうしたら……、ああ、そうしたら!!

以下ネタバレになるので続きはこの動画の下から。




「モデルにならない?」
と言って若い男の子を誘って逆酒池肉林できたのに~~~!!!

逆酒池肉林は無理にしても、松山ケンイチ君みたいな可愛い青年誘ってモノにできるんだったら、絶対美術系の先生の方がよかった。今からでも遅くない、絵は無理だから写真でも習ってその道(どの道?)を目指そうかしら。

ま、この作品、原作は読んでないから判りませんが、映画はおよそあり得ない話だと私は思いました。
そのあり得そうもない話にかろうじてリアリティーを与え、映画全体にファンタジックなテイストを与えて作品を支えているのはひとえに松山ケンイチ君の演技力。彼一人だけが自然な姿の人間として映画に登場するだけで、周囲のあり得そうもない薄っぺらな人間像のキャラクター達が地に足がついた人間として見えてくるのです。

映画の中にほとんど無意味に風船が登場するんですが(一応、役割は持っている)、松山ケンイチ演じるみるめ君以外の登場人物って、みなこの風船みたいなものなんですよ。イメージでふくらませただけで肉付けがなされてないから、誰かが風船の糸を束ねて持ってないと皆風に吹かれてどこかへ飛んで行ってしまう。その糸を持っているのが、この映画では監督ではなくて松山君の演技力というわけ。

彼以外は皆どこかエキセントリックな演技をしているこの映画、蒼井優ちゃんにしても微妙に無理している部分が感じられます。ヒロインの永作博美さんになると松山君と話してると完全に浮いてました。彼女が夫役のあがた森魚さんと話してる時はその演技のレベルは合ってるんですけどね。

だからそれは他の俳優さんが下手という事ではないんですよ。
松山ケンイチ君だけが一人違うといった方が正しい。
彼だけが、まるでカメラを意識しない自然体な演技をいつでもどのシーンでも続けているんです。

この監督はカメラの長回しというか、カットの声をかけない事で有名なんだそうですが、どうりでと思ったのが劇中にアドリブとしか思えないセリフが随所に出てくること。これは俳優さん達が素で喋ってるな、逆に言えばこれは脚本には書けないだろというセリフがポンポン出てくる。そういう時、普通の俳優さんは書かれたセリフとアドリブの間でテンションが変わるんですよね。こっから先は自分で考えなきゃいけないぞ、という緊張が走るんですよ。表情も硬くなるし声も変わる。

ところが松山君は変わらないの!
脚本に書かれていたセリフが終わっても、ごく自然に彼が演じている「みるめ」の中から言葉が流れ出してくるんですよね。彼のセリフ聞いてる限りは
「えっ? これアドリブじゃなくて台本なんだ!」
と思えてしまいます。永作さんの声を聞いた瞬間に
「あら、やっぱりアドリブだ」
ってわかっちゃうんですけど。大体女の人はアドリブのセリフ考えられない時はケラケラ笑って誤魔化しますからね。

二人で抱き合ってる時のしょーもないピロートークなんぞ、あれ大体アドリブでやってると思うんですが、松山君の言葉っていかにもそういう状況下でみるめ君が口にするであろう、作為のない本心からの言葉に聞こえます。恋人とリラックスしている時の会話そのもの。会話の内容はないに等しいんですが、現実の恋愛してる時ってそんなんでも楽しいじゃないですか。その楽しさが松山君の演技からあふれてるんですよね。

だからこの映画を見ているだけで楽しい恋愛の追体験ができてしまう。言葉としての「好きです」も「愛してます」も何にもないのにね。そのぐらい松山君の演技力は群を抜いているんです。

彼にリアリティーがあるので、相手役であるユリさんがかろうじて生きているんですよね。このキャラクターは最初から「何を考えているのか分からない人」という設定の元に生まれたせいで、その人を動かす原動力となる動機が存在しないまま映画の中で動いてます。ただ、その日その日の衝動に任せて生きていて、結果的にみるめを翻弄する年上の人というだけ。ユリが何故そんな行動をとるのか分からないので、演じている永作さんも大変だったろうなと思います。

その年上であるユリにみるめが惹かれる理由、常に側に若くて可愛いえんちゃん(蒼井優)がいるのにそっちは友達どまりな理由、言葉での説明はありませんが、それは恐らく彼が母親と離別(生別か死別かは問わない)したせいなんでしょうね。みるめ君の家族として出てくるのはお爺ちゃんだけですから。ひょっとしたら両親揃ってどこか違う所で生活しているのかもしれないけれど、みるめ君ってどこかマザーコンプレックスをひきずってるんでしょう。そういう描写は上手いなと思いました。


たださー、この監督、人物の顔のアップが異様に少ないのよね。
家のテレビで見たせいもあるけれど、私見ている間中登場人物達がどんな表情してるのか全然わからなかった。公式サイトでスチール見て、初めて
「へー、こんな顔してたんだ」
って思ったくらいで……。監督、人の顔に興味ないですね。


この映画は予告編も見たし、近所でもやってたし、500円にまでなってたけれど、それでもずーっと見る気がしなかったのは、絶対退屈すると思ったから。

松山君が出てなかったら一生見なかったわよ。愛の力は偉大だ。

テレビというか、DVDで録画したのを見たんだけど、途中居眠りしても早戻し出来るのでよかったです。映画館で見てたら爆睡で取り返しがつかなかっただろうから。

この映画、人は風景の一部として出てきて、そして通り過ぎてゆくんですよね。
監督が本当に撮りたかったのは、冬枯れの日本の田園風景そのものだったんじゃないんでしょうか。日本には珍しい山の見えない平野で、地平線まで見渡せて、空が青い。これが監督の撮りたいものですね。

ほんっとにどのシーンでも人物が小さくって、服装がそれぞれはっきりしてるからそれで誰が誰か分かるようになっているものの(衣装さん、グッジョブ!)、もし夏で全員Tシャツとかだったら絶対見分けがつきませんでしたよ。

私にとって映画は人の顔とその表情を見るものですから、見続けるのが本当に大変でした。

松山君が喋ってる間は何とか持ちこたえられるんだけど、そうじゃない時もあって、しかもそれが長いですからね。映画館で見てたらキレてたかも。カットの長さはテレビで見て丁度いい(かそれでも長い)ぐらいでしたから。

それでも「デスノート」や「L」、「デトロイト・メタル・シティ」といったコミック的な演技ではない、松山君演技の神髄を見られただけでも(聞いただけかな?)良かったです。

もう、すっかり彼のファンになってしまいました♪
「銭ゲバ」見なくちゃ……。