どうして離婚ってするのだろうか? ブログネタ:どうして離婚ってするのだろうか? 参加中
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先日WOWOW「15時間まるごと! 三谷幸喜の日」で放送した舞台劇の「グッドナイト スリイプタイト」を見たのですが、これは相手のことがまだ好きなのに離婚を決めた夫婦の話でした(以下、お芝居に関するネタバレが含まれているので下げます)。














このお芝居、戸田恵子さんと中井貴一さんのお二人の会話だけで4半世紀に及ぶ夫婦の生活ぶりが綴られているわけですが、重要なエピソードが語られている場面場面が時間軸どおりにはおかれていないんです。若い時分の幸せな新婚生活の頃から、離婚が決まり別離を控えたその晩まで、順番がバラバラに出てきます。

見る方はそのバラバラになっている順番を頭の中で「あの時のセリフはこの場面に起因するのか」なんて推理力を駆使して並べ直しつつ、一種の謎解きの快感とスリルを味わうのが楽しいのですが――これ演じる方は大変でしょうね! 舞台なのに感情の流れをぶつ切りにして、しかも年代さえも演じ分けて見せなければいけないんだから!! 瞬時に自分の今いるポジションを切り替えて次のポジションに移行する――演じたお二人が名優じゃなければできることではありません。


この「グッドナイト スリイプタイト」は「夫婦の心のすれ違い」というものを的確に表現した作品でした。

ここで描かれる夫婦は双方相手を深く思いやり、傷つけたくないと強く思っています。本当に相性ピッタリに見えるのですが、でもそれが実現されているのは相手に合わせて自分のエゴを強く抑えてもいるからなんですよね。

私は女なので、妻の方がより強く自分をおさえているように感じましたが、男性の目から見ると夫も充分我慢を重ねているように見えるのかもしれません。

でもこの夫婦、二人とも「相手の本当の気持ち」というのが見えてないんですよね。それが見えるのは第三者である観客だけなんです。何故なら、芝居上、妻も夫も本当の気持ちを顔に出している時は、その顔が相手に見えてない状況にあるという設定が貫かれているからです。彼らは自分の本心を言葉ではいくらでもさらけだしますが、実際にその時心に受けている衝撃というものは相手に決して見せないんです。その衝撃を相手に伝えては相手を傷つける事になり、それによってこれまで築いてきた関係を壊す事になるのを恐れているからです。

よくできたお芝居、素晴らしい俳優の完璧な演技により、観客には妻が夫を気づかって自分の本当の望みを押し殺し、それでも構わない、幸せだと強がっていることが痛い程伝わってきます。そして第三者である観客にこれだけ彼女の気持ちが分かるのに、彼女を抱いている夫の方にはそれが何にも分かっていないことも如実に伝わって来るため、夫に対して「このボンクラ! お前なんか離婚されて当然だ!!」と素直に思えるわけですよ。

この夫は、年上なのにどこか頼りない妻が愛しくて自分の手元において可愛がりたいという気持ちで愛していたようです。彼の方が彼女を守っているつもりだったんですね、男性としては当然のことながら。

妻の方は妻の方で、才能豊かな夫を尊敬し、その才能を開花させる手助けをしたいと思う、尽くすタイプの女性でした――最初の内は。でも長い結婚生活の内、仕事に没頭する夫とは別の時間を生きている間に自分自身の才能に気づき、持ち前のバイタリティーでそれをどんどん有効活用して社会的な成功さえもおさめるようになるんです。

でも彼女が本当に欲しかったのは社会的な成功なんかじゃなかった。
彼女の真の望み、それは愛する夫との間にもうける赤ちゃんでした。
その望みを、彼女は夫のために捨てたんです。
社会的な成功はその代償ですが、しかしそれも大きくなると簡単に捨てることはできません。

夫の方は自分が愛したはずの頼りなく可愛い妻がいつの間にか姿を消していた事にある日突然気づき、慌てふためきます。彼は今まで自分が妻を支えてきたと思っていたのですが、妻の方はとっくに自分とは違う人生を歩み始めどんどん先にすすんでいたのです。彼女が彼のものであるという象徴であったホクロがなくなっていることに気づいた彼が大声でそれを糾弾すると、妻の方は冷たく言い放ちます。

「とったのはもう半年も前よ。あなた今初めて気づいたの?」

そう、彼が愛していたのは自分の中にある理想化された彼女であって、現実の妻の姿ではなかったんですね。

それは彼女にとっても同じ事で、才能豊かな作曲家を自分の手で世に出すという夢が一番大事だと彼女は思い込んでいたために、本当は一番欲しかった自分の赤ちゃんをあきらめるという選択を自分でしてしまったわけです。
彼女の夢は複雑で、本当は自分自身が芸術的才能で世に出たかったのに、それが叶わなかったから代わりに自分より芸術的才能に恵まれている人を愛し、その人を世に出したかったというのがまずあるんです。彼女は賢いので、それが自分のエゴであることにもどこかで気づいてるんですよね。

だから、彼女が彼を甘やかすのは自分のエゴを甘やかしている事にもなるわけで、それで彼のダメな部分の大抵な事も許してしまう。

彼の方は単純に彼女が自分の才能に惚れ込んでいると信じていて、そこに彼女自身の夢が重ねられているとは微塵も思っていないから、平気で彼女の優しさに甘えてしまう。それでいて、彼女のしっかりしているようでしっかりしていない未完成な子どもっぽさに対しては自分が保護を与えているつもりになっているので、夫としての優位な面目もたてていられるわけです。


しかしある時妻が夫の芸術的才能云々に見切りをつける時がやってきます。

ここの描写がすごくって。

鳥肌が立ちました。

夫が仕事上で行き詰まり、自分の作曲家としての才能に限界を感じたと妻にこぼしているんです。
「俺の曲には心がないと言われた。自分でもそれは分かっているんだ」と。

妻の方はそれでも夫の才能を信じていますから、それを聞いて夫を一生懸命慰めています。
この時点では妻はまだ夫を愛しています。
たとえ夫の才能がここまででも、妻は構わなかったでしょう。
今まで同様に二人で人生を歩んでいけばいいと、そう思っていたはずです。

ところがこの夫、ここにきていきなり「子ども作ろう」とか言い出すんです。
妻はもう子どもを産むのにかなりリスクを伴う年齢です。
簡単には放り出せない重要な仕事もたくさん抱えています。
妻だって社会的な責任もあるし自分の体の事もあるしで、若い頃のように即座に「うん、作ろう♪」みたいな返事はできないわけです。

でも彼女、心の底でその可能性を考慮に入れ始めました。
もしかしたら、その時初めて自分がどれだけ赤ちゃんを欲しいと願っていたのか気づいたのかもしれません。
今からでも遅くない、赤ちゃんを産み、夫と共に育てる生活――彼女の心にバラ色の未来が浮かびかけた次の瞬間、夫が彼女の決心をうながそうと何気なく言った言葉がその全てを打ち砕きました。

「子どもが産まれて育てていけば、心がないと言われる俺の曲にも心が生まれるかもしれないだろ」

この人は、子どもが欲しいわけではない。
子どもが産まれる事により、自分の曲に「心がある」という変化が生まれることを望んでいるだけだ。
私がこれから自分が築いてきた全てのものと引き替えに赤ちゃんを産んだとしても、この男はいつもどおり私の払ってきた犠牲には何一つ気づかず自分の作品だけに没頭するだろう。子どもでさえ、自分の曲想を得るために利用するつもりでしかないではないか。

こんな徹底したエゴイストのために、私は自分の人生を捧げてきたのか?!

上記の中井貴一さんのセリフを、彼の胸の中で(ただし顔は観客に向けて)聞いていた戸田恵子さんの一瞬の表情の移り変わりを言葉にするとこんな感じでしょうか。


この中井さんの台詞が本当に何気なく口から出た言葉に聞こえるからこそ、そこに夫の優しい顔の下に潜む芸術家の徹底したエゴイズムが本音として透けてみえるのであり、その言葉に夫の本性を見た妻が一瞬にして心を凍り付かせてしまう様子を戸田さんが表情だけで表現しているのです。


この時、妻の心は完全に夫から離れました。


こうなったら離婚は時間の問題だなと思います。
二人にはこれまでの日常がありますから、それが平穏な限りは結婚生活も波風立たず続くでしょうが、一旦何か非日常な事が起こればそれがキッカケとなって二人の生活は崩れ去ります。夫の方は気づいてないですが、妻の心はもう夫の元にないので、夫婦としての土台はすでにないも同然なのですから。



夫の側は何故妻の心が自分から離れたのか一生理解できないままでしょうが。

具体的なキッカケが何であるのかは妻が口を酸っぱくして説明しているのでそれで納得するしかないでしょうが、心の奥ではそれだけが理由ではないことを夫も感じているのです。でも彼にはその理由が何であるのか、どうしてなのか、絶対に理解できない。他人の心が分からないのが彼の本質だからです。彼の作る曲に「心がない」と言われるのはそのためです。



夫はいつまでも自分が勝手に思い描いた「可愛い妻」像に執着を続け、妻の側は自分の理想そのものが自分の真の望みとは違っていたという心の痛手を一生背負って生きていく。

愛って一体何だったんだろう――

でも若い二人の新婚生活は幸せいっぱいで、少なくともその天上の美酒のような歓喜を二人で分かち合うことができたなら、結婚生活が全て無駄だったと言わずにはすむのだろう――


そんな思いを抱かせてくれる舞台でした。


一生、お互いにお互いを誤解しあえたままだったら、きっとこの二人は幸せな結婚生活をおくれたでしょうに。

気づかなくてもいいことに気づいてしまうから、それで離婚という現象が起こるのだろうか、などと見終わった後も切ない気持ちがあとをひくのでした。







追記:これ、ブログネタの評価でもの言いでした。


2009/04/11 03:39
「どうして離婚ってするのだろうか?」クチコミ記事の判定は・・・?
クチコミ番付運営局ダニーですあし
ダニーはなぜ、一生一緒にいようと思って結婚した二人が別れるのかよくわかりません・・・

「どうして離婚ってするのだろうか? 」のクチコミ判定が出ました!

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メモ判定:★★☆☆☆(もの言い流れ星
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おしいっすDASH!もうちょっとで白星なのに・・・


長く書けばいいってものでもありませんね。