「ミスト」公式サイト


キングファンとしてはこれは見逃せない!

なにしろあの傑作「霧」の映画化で、しかも監督がフランク・ダラボンだもの!


この期待は裏切られませんでした。

それどころか、期待を遥かに上回る大傑作。

歴代キング原作のホラーの中でも最高峰と言えるんじゃないでしょうか。


キング原作って映像化すると何故かチープに見えるものなんですが、今回はタイトル通り霧(ミスト)に包まれた世界であることが幸いし、各種クリーチャー類が紗をかけたような状態から見え始めるのでいきなり失笑するということはありません。


いや~、このクリーチャー類が「キングコング」以来の楽しさで、ホラー好き、特撮好きにはたまらないというか。根っからこういうものが好きな私はそれだけでも満足できましたよ。


巨大な触手の動きなんかは「パイレーツ・オブ・カリビアン デッドマンズ・チェスト」で見たものだし、その襲いかかってくる様子は同じキング原作の「ドリーム・キャッチャー」、クリーチャー類との戦いは「ジュラシックパーク」シリーズ、とらわれた人々の有様は「エイリアン2」等と、シチュエーションやアクションは割とどこかで見たようなシーンが多いんですが、そういうそこはかとなく漂うB級っぽさが実はキングのテイストだったりもするわけで……これはどこまでが計算づくなのかは分かりませんけど。


ま、とにかくその手のクリーチャーが出てくる映画のスリルをてんこ盛りにして味わえるお得な一品に仕上がっているのは確かです。シャマランの「ヴィレッジ」ネタもちょっと使ってたかな?


ただ、これだけ「何か別の映画ですでに見たようなシーン」を多用していても「クローバー・フィールド」と違うのはクリーチャーとアクションは映画の中では脇役に過ぎなくて、主眼は飽くまでも「密室に閉じ込められた人間達の心理描写」にあるからなんですね。彼らの心理が次々に襲いかかる恐怖と危機感によってどのように変化していくかがこの映画の見どころなんです。クリーチャー類は彼らの心理を追い詰める役を担っているのに過ぎないので、独創性に欠けていてもあまり気にならないんですよ。


この「密室に閉じ込められ、危機感によって追い詰められていく人間の心理の変化」を二人の男で映画化した傑作が「SAW」の1作目ですが、「ミスト」はそれが集団になっている。その集団の中にもいろいろな人間関係があって、普段はかろうじて均衡を保っているその関係が危機に直面して呆気なく崩れ去って行くのを見るのが本当におもしろい。ここはホント、監督の真骨頂ですよ。


人間関係の緊張感でじっとり掌に冷たい汗を握っていると、そこにクリーチャーが現れてキャー! となるのが逆に開放感で気持ちよかったりするんですよね。もやもやしていた気持ちをクリーチャーを退治することで晴らしてたりして(登場人物も観客も)。


その緊張感と開放感のバランスが非常に巧みで、私は2時間たっぷり楽しめました。


この先ちょっとネタバレになるかも。

念のために下げておきます。









ただ、この映画、興行成績はふるわないと思います。

理由は観客の望むカタルシスをこの作品が与えてくれないから。


ひたすら観客の要望を満たすために作られたような「最高の人生の過ごし方」とは正反対の映画といえましょうか。


しかしそれさえも、「読者の望むような結末は与えない」というある時期からのキングの一種のポリシーの反映の様にさえ思えます。


人を一旦地獄に突き落としたんなら徹底的に落としとけ。見せかけの救いなんか与えるな。


そんなポリシーの映画は、例え語られていることが人間の真実だとしても、後味が悪すぎて一般の観客に受けるわけありませんから。


例えそれが人間性の本質を示唆するものであり、そこまで描かなければ作品として成立しないとしてもね。



(テレビ放映につき5月16日付け記事を再録)