この映画のよいところは一にも二にも椎名桔平! 椎名桔平最高です!
日本のテレビドラマをほとんど見ない私にとって、椎名桔平って長らく「名前だけ知ってる人」だったんですよね、実は。
その名前を覚えたのも、「しいなきっぺい」→「シーナキッペー」というのが発音がしやすくて覚えやすかったからというだけだったので、実際に椎名桔平がどんな顔してる人なのかも分かってませんでした。
ハンサムなのでドラマを見なくてもそのお顔はあちこちで見かけて記憶にも残っていましたが、顔は顔だけ、名前は名前だけで覚えていたので全然結びついてなかったんですよ。
それがようやく結びついたのが今年松山ケンイチ君と共演していた「銭ゲバ」。
これはもちろん松山君目当てで見ていたんだけど、松山君は群を抜いて演技が上手いものだから他のキャストとの演技が噛み合わず勿体ないなー、と思っていたところに登場したのが彼の父親役の椎名桔平ですよ。
も、びっくりしちゃった。
あ、知らなかった、椎名桔平ってこんなに演技の上手い人だったんだ、今まで注目しなくてごめんなさい、って感じ。申し訳なさでその場にひれ伏したくなりましたよ。
松山君以外のキャストが「私は真剣に演技に打ち込んでます、役になろうとしてます!」という「迫真の」演技を見せてくれてる中で、椎名さんだけが自然体で余裕もって松山君に関わってるんですよね。大人の演技、ベテランの風格がありました。
でも決してわざとらしくない。
一歩間違うと変な、あり得ない人になってしまいそうな役なのに、椎名さんが演じる事で「ああ、こういう人ってどこかにいそうだな」と視聴者に思わせる人物造型になってるんですよね。
「銭ゲバ」って、「ちゅらさん」の岡田惠和が脚本を書いてますから、このどこかつかみどころのない自由人の魂を持った父親像というのがドラマの中で非常に重要な存在になってきます。「ちゅらさん」で堺正章が演じた役を「正」とすれば、椎名桔平の演じた父親はまさに「負」。その生き方が子どもにとってマイナスの影響を与える父親です。
視点を変えてみれば、同じような父親であっても、環境によって子どもに与える影響は全然違ってくると言えるかもしれない。
実際に「銭ゲバ」の最終回では、椎名桔平演じる父親が人生につまずいてさえいなければ松山ケンイチ演じる風太郎もごく普通に人生をおくれていたのかもしれない――大金持ちにはならなくても、家族に恵まれた幸せを感じながら――という示唆を含んだエピソードが語られるわけですよ。
この時点でドラマの「銭ゲバ」は「父親によって運命を狂わされた青年の悲劇」に様相を変えるわけです。
ということは、この物語で一番重要な役は、主役に影響を与えた父親の方なんですね。出番が少ないながらも椎名桔平が演じた蒲郡健蔵こそが影の主役であったとも言えるでしょう。
父親の影響から抜け出せずに苦しむ少年/青年像については以前「ジャンパー」(こちらの記事 )の時にも書きましたが、アメリカの作品には結構多いですが、日本ではさほど父子間の関係が強くないのか珍しいんですよね。
日本ではそもそも父親とティーンエイジャーの子ども達とが関わる時間が短いので影響の与えようがないと言う現実があるんですが、そういう現実を乗り越え、風来坊の父親の存在自体をネガティブなものとして風太郎に負わせる「銭ゲバ」の脚本はかなり革新的なものだったと思います。よくある、ただ悪いだけの父親じゃないですから。
父親の蒲郡健蔵は彼自身もつらい経験をしていて、その上で現在の生き方を選択しているという設定なんですよね。父親自身も自分の人生で歩むべき道をどこかで間違ってしまっている。そういう複雑な人間性を秘めながら、表面は悪い人間として抜け目なく他人の上前をはねて稼ぐような生活をして、敢えてそういう人生を生きる事でどこか自分自身を罰してさえいるとでもいうような人物造型です。
その多面性のある人物が椎名桔平という役者を得て、この上なく魅力的な「憎みきれないろくでなし」としてドラマの中で生を得、そして輝いていました。悪い奴のはずなのに、「銭ゲバ」の中では健蔵の方が「光」で風太郎の方は常にその「影」でしたね。
だから「レイン・フォール」で椎名桔平が主演すると知った時から、彼の実力ならハリウッドでも充分通用すると確信していたんです(ああ、長い前置きだった!)。
もう、見た瞬間から彼が役に入っているの分かりました。
レインはアメリカの軍隊にいて特殊部隊に所属していたという設定なんですが、彼の体つきや立ち方からすでにそれが伺えるんですよ。具体的に言えば、「CSI NY」でシールズ出身という設定のマック、ゲイリー・シニーズが演じてる彼に立ち居振る舞いがよく似てるんですね。
アクションは「ボーン」シリーズのボーンばりで、とにかく関節をキメにきます。殴る蹴るより場所をとらずにしかも効果的。
そして椎名桔平の口から淀みなく流れてくるセリフは日本語も英語も全く同じ調子で、ほんとにバイリンガルの人が喋っているようなんです。英語だからと変に構える様子が微塵もない。日本語も英語も同様に自然なので、見た目完全に日本人でありながら、設定の日米ハーフというジョン・レイン像にすっかり納得させられてしまうのです。
役作りの仕方が完全にハリウッドスタイルだったので、他の日本人のキャストの方々が日本映画的なお芝居をしている中で椎名さん一人が浮き上がっているのが気の毒でした。「レイン・フォール」には松山ケンイチ君、出てなかったですからね。
代わりに大御所、ゲイリー・オールドマンが堂々の御出演だったのですが、残念ながら椎名桔平と一緒のシーンが少なくて~~~!! ゲイリーとの共演シーンの多かった清水美砂に「どけ!」と言ってやりたくなりました(←嫉妬)。ちなみに美砂さんもその他彼と共演した日本人キャストの皆さんも、全員大変流暢な英語を喋っておりました。
ゲイリーは「蜘蛛女」や「レオン」、「フィフィス・エレメント」などで披露していたキレまくりのイッちゃったキャラを楽しそうに演じておりましたが、「レイン・フォール」での彼の演技を見ていて一番思い出されたのがアメリカの人気TVドラマ(シットコム)「フレンズ」にゲスト出演した時のものですね。ジョーイ(マット・ルブランク)を相手にツバを飛ばしながら熱演していた姿が目に焼き付いております。
まあ「レイン・フォール」で一番の見どころは椎名桔平で間違いないでしょう。ある意味、ゲイリー・オールドマンをも凌いでおります(いい男だから♪)。
あ、長谷川京子さんもお綺麗でしたよ(おざなり~)。