実は先週マイコミジャーナル特別企画の試写会で見てしまってはいるのだけど、それでも今日の初日にはしっかり行くのである。ネームタグ付きで前売りも買っちゃってるんだもんね~♪ ファンというのは忠実なものなのよ。
こう書くと、映画館はスタートレック(ST)の熱狂的なファン(トレッキー)がいっぱいで、STについて何も知らない人は敷居が高いように思われるかもしれない。
でも心配ご無用、そんな事は全然ない!
今回、J・J・エイブラムス監督がやったのは、古いファンをしっかり喜ばせつつ、しかし「スタートレック」をまた新しい世界へと出発させることだった。旧トレッキーの化石のような知識やトリビアは別次元へと転送されてしまった。観客がスクリーンで見るのは、全く新しい「スタートレック」なのである。
「スタートレック」は、日本のテレビ番組に例えるならば、「仮面ライダー」にあたるだろう。一度は終了したテレビシリーズが時をおいて復活し、過去のファンの支持を受けつつ新たなファンも獲得していくという点において、この両シリーズはよく似ているのだ。
「ST」や「ライダー」が他のテレビ番組と一線を画しているのは、名前は受け継ぎつつも各シリーズで他のシリーズとは全く違う独自の路線を進める点にある。それは「水戸黄門」のような演じる役者が変わっても登場人物と基本設定はそのままという規定の型にはまった普通のテレビシリーズとは全然違うものなのだ。
最初に、アメリカのテレビで「ST」の続編が作られるがキャストは一新され旧キャラはゲストとしてしか登場しない、と聞いた時は旧作のファンはかなり激しく反発し、新シリーズである「ザ・ネクスト・ジェネレーション」(TNG)への接し方もかなり冷たいものだったが(それでも見るのがファン)、回を重ねるにつれ内容のおもしろさに夢中になり、初めはクソミソにけなしていたTNGのクルー達も掌を返したように丁寧に扱われるようになっていった。
シリーズが3シーズン程続き、素晴らしいエピソードが何本も放映され、TNGのおもしろさが誰の目にも明らかになった時、旧作のファンは悟ったのである。
いつまでも古い偶像にしがみついていてはいけない、と。
そう、確かにオリジナルの「スタートレック」は素晴らしい。しかしどんなにそれが素晴らしくとも、同じものの再生産ばかりしていたのでは、やがては作品の輝きは褪せ、摩耗し、質は低下する。
それよりは、「ST」の精神を受け継ぎつぐ新しい作品を次々に生み出していく方が、シリーズ全体としての「スタートレック」の命を永らえさせ、次代に引き継いでいく可能性がずっと高いのではないかと。
要するに、面白い作品が見たいのならば、いつまでも過去の作品にとらわれていちゃいけないって事である。
ファンというのはえてして「一つの型」に囚われてしまいがちで、「これはこうじゃなきゃいけない!」という考えにがんじがらめになってしまうものだ。
それはファン層がふくらめばふくらむほど強固になり、作品を作るクリエイターをも縛る枷となる。それが作品本来の基本設定をはるかにこえて、ファンの思い込みによる枷の方が重くなれば、それは作品自体を押しつぶしかねない危険性をはらんでもいるのだ。
しかし「スタートレック」は、クリエイターの側からその枷を打ち破ったのである。
そして、ファンも最終的にはそれを受け入れた。
一度改革を受け入れれば、その「改革」さえもシリーズの特徴となる。
かくして「スタートレック」は「TNG」の他にも次々に新シリーズを打ち出し、それぞれ旧ファンと新ファンの心をつかんでいった。或いは旧ファンは離れたのかもしれないが、それに勝る数の新ファンがつけばシリーズとしては安泰だろう。
「仮面ライダー」がキー局を変えて放映されるようになり、毎回斬新なコンセプトを打ち出すことで昔のファンだったオッサン連中からは不評を買ったものの、実際の対象である子ども達と、その若いお母さん方をもファンにとりこんで今も続いているのを見れば、その手法が効果的なのは明らかだ。ファン達のコダワリが強すぎて、そこから脱却できない「ゴジラ」が凋落したのとは対照的である。
「スタートレック」のファンは、今や何でも受け入れる。
この懐の深さは他ではちょっとないと思う。
それでも実は「LOST」の監督が新しい「スタートレック」の監督だと聞いた時は少々、いやかなり心配したものだったのだが……
杞憂でした!
J・J・エイブラムスはずっとこの作品を撮りたくて、それで監督になったんじゃないだろうかと、そんな事を考えてしまうぐらい見事な「スタートレック」!
ああ、私達が見たかったのはこれなんだ、ファンにそう思わせてくれる幸せな作品。
一度見ても、何度でもまた見たくなってしまう……繰り返し見続けても飽きないテレビシリーズ独特の味わいを持つ映画。
今まで「スタートレック」を愛して続けてきたファンにとっては最高のプレゼントのような作品。
それが新しい「スタートレック」。
普通に見ても笑いあり冒険ありの上質なエンターテインメントに仕上がっていると思うので、ファンじゃなくても、「ST」について何も知らない人でも絶対楽しめるはず。
どうぞ、劇場に足を運んでください。