毎日jp  より


木村拓哉、イ・ビョンホン、ジョシュ・ハートネット……日米韓のスター共演が話題の「アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン」が6日、公開された。監督は「青いパパイヤの香り」や「シクロ」などのベトナム出身フランス人、トラン・アン・ユンさん。「過去の3作品を見て、非常にユニークな“声”を持つ監督だと思っていた」とトラン監督との仕事を熱望し、わずか5分のミーティングで探偵役を射止めたハートネットさん。映画の魅力を聞いた。【文・写真:りんたいこ/フリーライター】


 映画は、他人の痛みを自分の肉体で引き受けるという特殊能力を持つシタオ(木村さん)の行方を、ハートネットさん演じる元刑事の探偵クラインが捜すエピソードが軸になっている。クラインは、刑事時代の殺人に関与したトラウマに苦しんでいる。


 「最初に脚本を読んだときは45歳の設定。そのとき僕は27歳。絶対選ばれないと思っていた」。しかも、「トラン監督は、ただニコニコしているだけでほとんど何もしゃべらなかったんだ」と振り返った。ところが、ミーティングが終わって車に戻るまでの間にエージェントから電話が入り、起用が決まった。


 ハートネットさんは、クラインを「狂気の人」と表現しつつ、「それだけでなく、自分が捜す人間に共感し過ぎて、その人物に同化してしまうタイプ。それが欠点でもあるし、自分を傷つける要因にもなる」と分析する。トラン監督による脚本には、クラインが同化する過程の詳しい記述はなく、「現場で毎回、監督と話をしながら」役を作り上げていった。


元々、リサーチを重ねて役作りをするという。今回ばかりは「リサーチするにも、これほど狂気に満ちた人物はそうそういるものじゃない。だから想像力を駆使して、なるべくその人物になりきることを心掛けた」という。


 作品には宗教観が色濃く表れている。「トラン監督は、この世にある地獄を描こうとした」とハートネットさんは考える。そして、シタオを「救世主の象徴」、クラインを「他人を助けようとしながらも迷いがある、ある意味、堕天使」と表現する。


 クラインに絡むもう1人の男が、マフィアのボス、ス・ドンポだ。ドンポは人を殺すことをなんとも思わない冷酷非情な男。半面、一人の女に執着するという弱点を持つ。ハートネットさんの言葉を借りるなら、「人間が持つ欲の象徴」だ。


 ドンポ役のイ・ビョンホンさんとは、「しょっちゅう一緒に出かけ、友情を築くことができた」と思い返していた。残念ながら、東京での仕事が忙しかった木村さんとは「一緒に過ごせる時間が少なかった」というが、2人に対する印象を「すごく一生懸命で、優しくて、ノーマルな人」と語り、この作品に出演したことで、「2人との友情を手に入れた」と喜んでいた。


 デビュー以来、ハリウッドを中心に仕事を続けてきた。「ハリウッドで、もっとヒーローっぽい役をやることもできる。でも僕自身は、俳優としてもアーティストとしても実験的な作品に挑戦するのが好き」という。


 そのハートネットさんが「ジャンル分けをすることができない、観客の解釈に委ねられているところがある、ユニークな作品。(そういう作品に出演できて)とても満足している」と話す。印象深いシーンは「ドンポがハンマーで男を執拗(しつよう)に殴るシーン」と話す。自分が出演したシーンについては「撮った時に、だいたいどんなふうになるかは予想がつくし、客観的に見ることは難しい。俳優というのは、自分の髪形とか、そうした(外見的な)ものに目がいってしまうから」と謙そん。「この作品での僕は本当にヨレヨレ(な役)なので、そんな心配はなかったけどね」とジョークを飛ばしていた。