「スター・トレック」公式サイト

この夏、一番笑わせて貰った映画が実はこれ。

同じ映画なのに何度見ても同じ所で笑ってしまうんですよ、これ。

「来るぞ、来るぞ」と来るのを期待しながら待っていて、遂にそのシーンが来たら「キター!!」と喜ぶあの感覚。決して裏切られる事のない期待を信じて待つ時の安息感と思い通りの結果が得られた事への満足感と充実感。

それはたとえば日本だと「水戸黄門」がテレビで長寿番組たり得ている理由にも通じるわけで、さすがにアメリカのTVドラマでヒットを飛ばした職人監督の芸は細かいと実に感心しましたね。さりげなく、でも実に的確に笑いのツボをついてくる演出にまんまと乗せられ、心は遙か未来へとワープし――そして未来の地球の姿を見てはクスクス笑っておりました。

だって今の地球と全然変わってないんだもん、未来の、少なくともアメリカ合衆国のアイオワは。

「アイオワ」――この地名を表す字幕が「スター・トレック」シーンに登場するたび、くすくす笑いがこみあげるようになり、今ではただ「アイオワ」と聞いただけでさえぷっと吹き出してしまう始末。

アイオワはカークの故郷としてつとに知られていましたが、実際に、現実に、どんな所か、というのは実は全く分かっていなかった私。だから最初にその「アイオワ」を「スター・トレック」の中で見た時は心底感動したんです。

「そうか、ここか、ここがカークの育った場所か……」と感慨にふけったのも僅かな時間、スクリーンの中の「アイオワ」のだだっ広さに驚き呆れて「そりゃ宇宙に出たくもなるわ~、ってゆーかこんだけ何もないんだったら宇宙もアイオワもあんま変わんなくね?」等と思ったりして。

ええ、「アイオワ」、道と畑以外、な~んにもないんです。

広大な平地にただ淡々と真っ直ぐに茶色い道が通っていて、その両側は緑色なの。風景画描くのにこれだけ楽な所もないんじゃないかってぐらい。広いという点で海に似てるかもしれないけれど、少なくとも海には波がある分起伏がありますよ。「アイオワ」、起伏がありませんから。

そ、「アイオワ」にはでこぼこが何にもないの。ただただ平(たいら)。木さえ生えてないんだから。私こんなに平坦で何もない土地、初めて見ましたよ!

もちろん撮影が上手くてそう見せているのでしょうが、それにしても日本人にとって見渡す限りどこにも山がないというのは不思議な光景ですね。ロンドンに行った時、確かにそこにも山は見あたらなかったですが、でも丘ぐらいはありましたよ(グリニッジの天文台あたり)。「アイオワ」それすらないんだから。


「アイオワ」とカタカナで書いて4文字ですが、これアルファベットで書いても「IOWA」で4文字。カタカナだと全部左に流れて長方形に近い平行四辺形のような印象を与えるし、アルファベットでは "|○ ▽▽ ⊿ " というベーシックな形の組み合わせで最終的に"□" を表現しているかのようで、双方起伏のない平坦な大地にこれ以上にふさわしい綴りはないようにさえ見えてきます。

さらに
「IOWA」、発音すると分かりますがほとんど全部母音で構成されているようなものなんですよ。
言ってみれば、まず一度驚き呆れて顎がはずれたようにあ~んぐり「ア~」と口があき、口を大きくあけていると疲れるのでそれが自然にすぼまって「ィオ」という形になり、その後もう一度呆れ直してため息をつくように「フワ~」と大口をあけたら「アィオゥヮア~」という発音になったような感じ。
子音を挟まないので舌や口蓋の複雑な動きを伴わないとても平易な発音で、まっことこの土地に合った名称だなや、この大地に初めて足を踏み入れた人は
「アィオゥヮア~」とあいた口がふさがらなかったんだろうなあと、「アィオゥヮア~」とあいた口がふさがらないまま映画を見ながら漠然と感心していたのでした。
グレートプレーンズ(WIKI )って確かに地理の授業では習ったけれど、聞くと見るとじゃ大違い。ってか、人間の想像力って絶対限界あるわ、体験しなきゃ分からない世界って確かにあるわとしみじみ思った次第。

この「アイオワ」、冒頭部ではしょっちゅう出てくるもんで、もうそのたびにおかしくって! 
「アイオワ」はだだっ広いけれど、宇宙はもっともっと果てしなだだっ広い……はずなんだけど、映画のスクリーン上では宇宙の方がまだ遠くに見える星とか宇宙船とかで画面密度は濃かったりして。

「アイオワ」より物の無いところは宇宙にもないのか?!

イエス。
宇宙広しといえど、「アイオワ」程なにもないところは他にない。
てな感じ。

「アイオワ」ひとつでこれだけ笑いをとれるんだから、J.J,エイブラムス監督ただものじゃないわ、と大変感心したのでした。

前作の「ミッション・インポッシブル3」ではまだ上手く噛み合っていなかったものが、「スター・トレック」では綺麗にパチンとはまった感じですね~。テレビ的なおもしろさを巧みに映画の中にはめこむことができた作品なのだと思います。

テレビ放映前なのでこれ以上は書きませんが、しかしテレビ画面であの「アイオワ」のばかばかしい程のおかしさが味わえるものかどうかちょっと心配。あれはほんと、映画館の広いスクリーンで見てこそのギャグですから。

とはいえおもしろいシーンはまだまだてんこ盛りに用意されていますのでお楽しみに。
旧テレビシリーズを知らなくても楽しめる作品ですので、10月30日午後10時からの「スター・トレック」、どうぞお見逃しなく!