ギズモード・ジャパン

>僕が今触ってるのは、濡れた、たんぱく質の板。



Who killed Cock Robin?



ボローニャソーセージを紙ぐらい薄ーくスライスしたみたいな感じですね。しなやかで、ヌルヌルします。ただし肉と違って、今日真ん中を切っても、明日には傷が治ってたりして。そうなのです、工場で培養した「生きた組織」なんです。

このペトリ皿で培養した生きた医薬品の商品名は「Apligraf(アプリグラフ)」といいます。僕が勝手に「meat band-aid(肉バンドエード)」と呼んだら製造元が嫌がってました。「これは生きてるんだよ」と、米オーガノジェネシス (Organogenesis)社のチーフメディカルオフィサー、ダミエン・ベイツ(Damien Bates)博士に訂正されちゃいましたよ。「肉は生きていないでしょ」

バンドエードだっていうのは誰も否定しなかったので、正確には「生きた、1500ドル(約13万4000円)のバンドエード」ですね、はい。

「Apligraf」は、牛のコラーゲン、ヒトの線維芽細胞とケラチノサイト幹細胞(新生児の割礼で切除したもの)のマトリクスで、これを慢性的傷口(特に糖尿病性の潰瘍みたいな重度の傷)に貼ると、そこから傷口の治癒・再生に必要な種を撒いてくれるんでございます。

昨日ご紹介したアタラ(Atala)博士と違って、オーガノジェネシス社は企業なので、概念実証(POC)で科学的進歩に向けたブティック・オーガン生成には関心がないんですね。組織製造をビジネスにした会社は、ここが初めてです。

アタラ博士たちの研究は、コピー可能なところまで研究を突き詰めていきますけど、オーガノジェネシスのような企業はフォード風の大量生産モデルに工程規模拡大を図っていく、というところも違いますかね。

博士はこの分野の将来をどう見てるんでしょう? アタラ博士と同じ質問をベイツ博士にもQ&Aでぶつけてみましょう。


【生きた組織を大量生産する人、追加写真】


Bates博士インタビュー
肉絆創膏は今どこまで進んでいるのか?

オーガノジェネシスは、生きた細胞ベースの製品の大量生産と商用化に成功した初の企業です。当社の主力製品「Apligraf(アプリグラフ)」は、アメ リカ食品医薬品局(FDA)から認可の下りた唯一の生きた細胞ベースの製品ですね。糖尿病性足部褥瘡(じょくそう)と静脈下腿潰瘍という2種類の慢性皮膚 潰瘍の治療に使われています。

Apligrafは増殖因子とサイトカインなどのたんぱく質を分泌し、治癒の確率と質に臨床的改善をもたらすと考えられています。オーガノジェネシスで は、当社の生体適合性のある細胞外コラーゲン基質を各種バイオ外科手術で活用してもらえるよう、ライセンス契約も結んでますよ。

当社製品には患者さんから25万件を超える申し込みがあり、世界中で既に使用されている数少ない再生医療製品のひとつとなってます。


5年後なにをしている?

当社プラットフォーム技術の次なる目標は口腔粘膜(歯茎など)の適所再生を誘発する、初の生きた細胞ベースの製品を提供すること。CelTxの研究を徹底 的に行ってきており、最近、大きな転機となる臨床試験を完了しました。あとは米FDAの認可が固まり次第、発売の運びになりますね。

当社では、次世代プラットフォーム技術の開発にも取り組んでおり、そこからいろんな可能性が拓けてくると思います。

オーガノジェネシスは、この先5年でロボット工学導入で製造工程の完全自動化を図り(この分野では初の試み)、今後も引き続き再生医療のパイオニアとして、この分野を切り拓いていきます。


10年後は?
治癒改善に使える細胞ベースの技術が、広く普及してると思いますね。様々な疾患の手当てで、「システムベース」の治療のアプローチという考え方が、既存の薬物ベースのアプローチに代わっているかもしれません。

どのタイプの症状に、どの細胞(あるいは細胞の組み合わせ)を使うと良いのか。 そちらの研究も進んでるでしょう。規制省庁(FDAなど)の細胞ベースの治療法の認可も合理化され、承認プロセスそのもの効率が上がるでしょう。

つまり、もっと細胞ベースの製品が市場に出回る、ということですね。平行して発見があれば、細胞ベースの製品に患者が引き起こす反応をどうしたら最適化で きるかを考える研究の参考になります。また、マトリックスだけの製品も最適化が進み、体の部位に元々備わった組織と完全に生体適合性のある基質として活用 できるようになるでしょう。


20年後は?
20年先、当社がどうなっているか、具体的に言い当てるのは難しいですね。ですが...細胞ベースの製品は、適所の組織を差別化できるようになってると思います。瘢痕形成をしないかたちで。

今は組織治療の確率を上げ、質を改善できますけど、将来はさらに、真の人体再生ポテンシャルの鍵を開けそうで開けないという、実にもどかしいほど近いとこ ろまで研究が進むんじゃないでしょうか。この新時代では、付属器官(指など)の完全再生の成功も夢じゃないかもしれませんよ。再生医療は非常に新しい分野 で、ほぼ毎日のようにワクワクする研究成果の発表があります。本当に新しいフロンティアであり、未来は無限に開けています。


―ダミアン・ベイツ(Damien Bates)博士の取材は、今年のTEDMED会場で行いました。


Mark Wilson(satomi)

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