米アラスカ州ノームで、多数の住民が行方不明となり、不眠症を訴える人々が増え続けることを不審に思った心理学者アビー・タイラー博士は、催眠療法 で彼らの不眠の理由を解明しようとする……。00年10月に起こった事件の65時間以上に及ぶ記録映像と再現ビデオで構成されたリアルな異色サスペンス 「THE 4TH KIND(フォース・カインド)」(オラトゥンデ・オスンサンミ監督)が18日、丸の内ピカデリー(東京都千代田区)ほか全国で公開さ れた。タイラー博士を演じた主演のミラ・ジョヴォヴィッチさんに聞いた。
--この映画に出演することになった経緯は?
まず脚本を受け取り、読んだときに、この題材にとても引かれたんです。それで当然、「記録映像を見せてもらえる?」と聞いた。とにかくものすごい 題材だと思ったので、その映像が本物かどうかを見たかったので、監督から記録映像を見せてもらったんだけど、もう本当に頭をガツンと殴られた感じだった。 私が見た量といったら……。見る前は猜疑(さいぎ)心いっぱいで、「こんなこと、ありえない」とか思ってた。でも、実際に見たら、あそこまで人が何かを信 じられるということに圧倒され、ショックを受け、怖くなった。あの人たちがした体験が何であれ、彼らにとってはその体験が信じられるものであったからこ そ、あんなに恐ろしく、劇的で暴力的な形で実際に肉体的に影響が出たんだと思う。私はすっかり動揺して、泣きながら「まさか! うそでしょ」と言うしかな かった。そしてもちろん、その後「この映画には出なければ。このストーリーは伝えなきゃ」と言った。とにかく、それまで経験したことのないものだったし、 自分に理解できない物事に対する見方が完全に変わった。私が実際に見たのはものすごい量の映像だった。
--この映画では、記録映像と再現映像が融合されており、題材を表現する上で興味深い手法をとっていますが、この新しいスタイルをどう思われますか?
オラトゥンデ監督は、このストーリーを映画的に語るという意味で、とても見事な手腕を発揮したと思う。私たちにとって、登場人物を記録映像以外の 部分で見せることがとても重要だった。だって、もし記録映像だけを見たら、その中での彼らは見られるけど、普段の彼らのことが分からないでしょう? あん なに恐ろしい出来事の中だけで彼らを見た人は、彼らを何かの事件の犠牲者のように思い、彼らと自分を切り離してしまうかもしれない。私たちは、そうではな くて、観客が彼らの立場に身を置いて考えられるように、彼らを生身の人間として見せたかった。彼らはごく普通の人たちで、“変な人”たちじゃない。彼らは 警官だったり、医者だったり、弁護士だったり……私たちの誰もが知り合いでもおかしくない。だから私たちは、あの恐ろしい体験以外のときの彼らも観客に 知っておいてほしかった。
--あなたが記録映像から受けた印象には、この(記録と再現の)二重の構成になっている映画において観客に伝えようとした新鮮さのようなものがありましたか。
この記録映像はとても強烈で恐ろしい。公表を許可してもらえなかったので、残念ながら全部を見せることはできなかったけれど、それを実際に見るこ とができ、しかも、俳優として、記録映像以外の彼らを演じられたことによって、この映画が観客にとって感情移入ができるものになったと思う。私たちは記録 映像の中だけの人物としてではなく、1人の人間として彼らを見せることでこのストーリーを伝えたかったの。なぜなら、観客が彼らの立場に身を置き、それま での考え方にこだわらずに、自分の理解を超えた何かに対してオープンな気持ちになるためには、記録映像と再現映像の組み合わせという構成しかなかったと思 う。
--タイラー博士を演じる上で、どんなアプローチをしましたか? 博士そっくりに演じようとしたのか、あなたなりの博士を作ろうとしたのか。
残念ながら、タイラー博士と実際に会うことはできなかった。彼女は私たちがこのストーリーを伝えることを望んだけれど、誰にも会いたがらなかっ た。私だけでなく、他の出演者たちも、自分が演じた人物には会えなかった。だから、私たちは記録映像からできるだけのことを感じ取り、彼らになりきろうと したんです。彼らの体験、彼らの声をじっくり聴くことで、彼らの本質をとらえようとしました。私は俳優として、あんな目に遭ったこの女性に対する思いやり と共感を自分の中に見いだそうとした。私も人の親なので、わが子を失った母親の気持ちはよく分かる。そうして本質をとらえることで知らない部分を埋めてい き、私は全力を尽くして彼女という人物を誠実に描こうとしたのです。
--この映画にかかわる前は、「フォース・カインド(第4種接近遭遇)」という言葉を知っていました?
この手のことはあまりよく知らなかった。SF映画やテレビの特別番組なんかは見たことがあるけれど、そういうのってだいたい滑稽(こっけい)だっ たりして、私はこういうことにはとてもうたぐり深い方なのです。でも、この記録映像を見たとき、それはそれまでの自分の経験をすべて超えたものだったし、 とても衝撃的で恐ろしかった。今でもまだ、夜、一人で家にはいられないので、友達に泊まりに来てもらってます。信じるということが、この映画に登場する人 たちのように、文字通りに肉体上の変化となって表れるということは、あまりにも恐ろしすぎて、何かを信じすぎること自体が怖くなる。人間の心理というもの が、どう働くか、どの時点で心が壊れてしまうのか、どこが限界なのか、そういうことは決して分からないから。あの人たちが肉体的にどうなったか、あれは物 理法則に反してると思うしか説明のしようがないけれど、私は人生であれほど恐ろしいものはほとんど見たことがない。これからきっと、同じような体験をした 人たちがどんどん現れると思う。
--これは、セットで撮影される通常の映画ではありませんが、監督との作業はいかがでしたか?
オラトゥンデ(監督)は、私がこれまでに仕事をした人の中でも最も知的で、聡明な人の一人。このプロジェクトにずっとかかわってきたし、追いかけ てきた人なので、ビジョンが明確で、ものすごく情熱を抱いていた。何年もの間、とことん調べ、映像を集め、どんどん掘り下げていった。彼はどの俳優から何 を引き出せばいいか、どうやって引き出すか、俳優たちとどう接すればいいか、ということをはっきり分かっていた。というのも、彼はこの記録映像のすべてを 知り尽くしていて、自分が見たものをどう再現すればいいかを正確に把握していた。
--この映画を待ち望んでいる日本のファンにメッセージを。
この映画のメッセージは、世の中には理解不可能な現象が実際はたくさんあり、それを頭から否定してはいけない場合もある、ということを皆さんに理解してほしいということ。実際に、否定できない目に見える形で人生を変えるような出来事が人々に起こっているのだから。