>映画『Love Letter』『スワロウテイル』の岩井俊二監督の新作映画『ニューヨーク、アイラブユー』の主演オーランド・ブルームの配役は、本人からの申し出だった ことが岩井監督への単独インタビューで明らかになった。同作は、ニューヨークを舞台に、アメリカ、フランス、ドイツ、インド、中国、日本から集まった最も 創造力に富んだ10人の多彩な監督たちが、それぞれ意外性のあるストーリーを紡ぎ、11人目の監督が有機的につないでいくラブアンサンブル・ムービーだ。
岩井監督の手掛けたアッパー・ウエスト・サイド編は、映画監督からサントラの依頼を受けた音楽家・デイヴィッド(オーランド・ブルーム)とカミー ユ(クリスティナ・リッチ)を主人公にしたラブストーリー。当初の脚本はビートルズをモチーフにしアーティストの苦悩を描くコメディーだったそうだ。だか らこそ主演候補にはクエンティン・タランティーノやマイケル・ムーアといった映画監督経験者を想定。ところがスケジュールの都合で出演がかなわなかったこ とから配役は難航。岩井監督はキャスティング・プロデューサーから「知っている名前をすべて書いて」と促されたこともあったと振り返る。
その後、脚本は改稿を重ね、ビートルズのみならずドストエフスキーといった芸術家の逸話を挿入した内容になった。すると、ある日1本の国際電話 が。普段は冷静なプロデューサーが電話口で興奮しているのがわかるほど! それもそのはず、岩井の脚本を読んだオーランド・ブルームが「出演したい」と申 し(名乗り)出たというビッグ・ニュースなのだから。製作陣の喜びは計り知れず、かつ(プロデューサーから)「絶対にノーと言うな」と釘を刺されたとい う。実は「最近の人はどうも(=オーランド・ブルームを存じ上げず)」だった岩井監督。早速、彼の主演映画『エリザベスタウン』を鑑賞し、その確かな演技 力に魅了され、結実した組み合わせだった。
各編は約7分だが、どの撮影も各2日間の縛りつき。その分、事前の打ち合わせは綿密にした。岩井監督は「オーランドはたった2日間しか演じない役 柄なのに、入れ込みようがすごい」と第一線で活躍する俳優の役づくりに感心しきり。撮影前にオーランドから岩井監督に対し、数回電話で面会が申し込まれ、 演じ方やセリフの言い方を話し合ったことも話してくれた。オーランド・ブルームが、岩井美学にどのようになじんでいるのか、完成が気になるところだ。
珠玉のストーリーがダイナミックに連なっていく作品は、岩井、ナタリー・ポートマン、スカーレット・ヨハンソンら複数の監督による作品ではあって もオムニバスではない。むしろ、ロバート・アルトマン監督の映画『ショート・カッツ』やポール・トーマス・アンダーソン監督の映画『マグノリア』、ポー ル・ハギス監督の映画『クラッシュ』といった群像劇の手法に近い。また、愛というテーマの共通性からニューヨーク限定版『ラブ・アクチュアリー』とも呼べ そうだ。多様性の街ニューヨークにふさわしいユニークな新スタイルといえる。
映画『ニューヨーク、アイラブユー』は、2月27日よりTOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国公開