映画の決めぜりふといえば、そりゃやっぱりシュワちゃんターミネーターの「アイル・ビー・バック("I'll be back.")」でしょう。これには痺れましたわよ。いつか来るとは思っていたがそんなに早いとは思わなかった、と緊迫したシーンなのにセリフのおかしさでつい笑ってしまう「ターミネーター」屈指の名場面ですからね、あれは♪
さてその「また戻ってくる」という言葉通り「ターミネーター2」も作られたわけですが、その中で重要なファクターとして登場するのが「サイバーダイン社」でした。劇中ではこの会社が開発した「スカイネット」がいずれ自我に目覚め人類を滅ぼす決意を固める事になっているのね。いわば人類にとって不倶戴天の敵を生み出す母体です。
未来における機械対人類の戦いを、「スカイネット」そのものがこの世に存在しなかった事で終わりにしたいサラとジョン・コナーが今度は味方として送り込まれたターミネーターとサイバーダイン社に乗り込んで、将来の「スカイネット」を生み出す技術を全て爆破したはずだったのが20世紀の終わり頃。
しかしサイバーダイン社は激動の20世紀を生き延びて、21世紀の今、ここ日本は茨城県のつくば市で研究を続けていたんですね! しかも今度はターミネーターに乗り込まれても人間が互角に戦えるようにパワードスーツの研究をしてるのです!! ひ~、こわいっっ!!!
ひゃ~~、これを装着したら宇宙刑事にだってなれちゃいそう?!
こっ、ここここ、ここがサイバーダイン社の入り口なの?!
あれ? よく見たら「サイバーダイン スタジオ」って書いてありますね。
しかも何かこう、人がとても中に入ってみたくなるような魅力的な入り口になってません? サラ・コナーだったら何かの罠かと警戒するぐらい実に開けっぴろげというか。こんな所で人間を誘い込んで、どうしようっていうんでしょう?
実はここ、サイバーダイン社が自社の技術を広く世間に知って貰うために設けた体験用の施設なんですね。だから人をたくさん中に呼び込んでは、テクノロジーを身近に感じ取って貰おうとしてるというわけ。
そう。実はこれ、冗談や映画用のイベントじゃなくて、本当にあるんです。
それも特設ではなく、常設。
しかも入館料無料。
大丈夫、中に入っても捕まって人体実験されたりしないから(ちょっと期待したんだけどな)。
サイバーダインの本社は秋葉原から出発したつくばエクスプレス(TX)がつくば駅に到着する数分前ぐらいに線路沿いにあるのが目に入りますが、このサイバーダインスタジオはつくば駅の一つ手前の研究学園駅のすぐ側にある大規模ショッピングセンター、イーアスつくば内にあります(公式サイト)(スタジオ案内)。
秋葉原からTXに乗っちゃえば1時間もしない内にこのサイバーダインスタジオで近未来体験ができちゃうのですよ。研究学園って名前の駅に降り立つだけでも自分の頭がよくなったような気がしてきちゃう♪ まさにつくばは未来都市、SFファンにはたまらない魅力のシティです。
さて、この現実にあるサイバーダインスタジオ、中に入ればターミネータは勿論、アイアンマンからエヴァンゲリオンに到る等身大のフィギュアやら、特撮ファン泣いて喜ぶ映画やドラマの一大パノラマなんて展示もあるのですが、最大の呼び物はロボットスーツHALの実演でございます。
ロボットスーツHAL、ロボット刑事Kでも「2001年宇宙の旅」に搭載されたコンピューターでもございません。一種のパワードスーツですが「機動戦士ガンダム」や「スターシップトゥルーパーズ」の用に操縦者が完全に中に乗り込むというタイプとは違います。操縦ではなく、エネルギーをバッテリーから貰って人体の力をパワーアップするという点では「アイアンマン」のスーツが近いでしょうか。
「ターミネーター」の監督、ジェームズ・キャメロンが「エイリアン2」の中でリプリーに操作させたパワーローダーも人体の動きを強化するような仕組みという点ではHALに近いですが、でも実は一番近いのは「アバター」や、或いは「サロゲート」だったりします。
ロボットスーツHALは人間が操縦するのでも人間の動きを強化するのでもなく、人間の脳から送られる電気信号を読み取って独自に動くのですよ。
ま、「アバター」や「サロゲート」では脳波でそれぞれの分身を動かす事になっていたのに対し、HALは筋電位を測定して動くという点が違うんですけどね。
今回、つくばスタイル開催の“つくばエクスプレス沿線地域 ブロガー見学ツアー”に参加したおかげで、ワタクシ、HALの実演つきガイドツアーのみならず、自分自身でHALの操作を体験するという滅多にない機会に恵まれてしまいました♪ (関係者の皆様に深く感謝いたします)
ご存じない方も多いでしょうが、ワタクシ一時期右脚が少々麻痺して動かないという状態に陥っていたことがあります。
麻痺というのは脚を動かそうと思っているのに動いてないという状況です。
私の場合は完全な麻痺ではないのと、左脚や体の他の部分は動かせたのとで、右脚が実は動いてないという事に気づくのにかなり時間がかかりました。その間ずっと最近随分歩きづらいなあとは思っていましたが。
本人は歩こうと思い、歩いているつもりでいるのに、歩けていなかった。
歩けないというのは、人間にとって本当に不自由で不愉快な状況です。
その不自由で不愉快な状況を打破してくれる存在こそHALなのですよ。
白い外骨格の様に見えるのがロボットスーツHAL福祉用。
黄色いのは残念ながら活躍しません。
HALによって滑らかに歩いてみせるモデル氏。
ロボットスーツHAL福祉用は下肢に障害を持つ人や脚力が弱くなった人達の歩行をサポートしてくれる、本当に希望の光のような存在なのです。
一度でも自由に歩けなくなったら、それがどんなに素晴らしい事かよく分かりますよ。再び自分の二本の脚で自由に歩けるものなら大抵のものと引き替えにしても惜しくない! と心の底から思いいますからね(さすがに「命に替えても」とは私は思わなかったので)。
幸いにして私の麻痺は数ヶ月で治り、今はほとんど普通の生活を送っていますが、でもいつまた動かなくなるかもしれないという恐れは常にあります。
だからね、私は以前から機会があればこのHALを自分で試してみたいとずっと思っていたんです。
本当にそんなに軽く、自分の脚のように動かすことができるのか。
それは自分で確かめてみない限り、絶対分からないものじゃないですか。理論上で理解するのと体験するのには雲泥の差がありますよ。
実際、モデル氏による歩行実演を見ても、それがHALの力によるものなのかどうかは見ている側には判別不能なのです。なにしろあまりにも動作が滑らかですから。
というわけで今回のHALの動作原理体験には真っ先に手を挙げたのでございます。手を挙げると同時にいつでもセンサーつけてくれと言わんばかりに右の袖をまくりあげて腕むき出しにしたりしてね。残念ながら必要だったのは左腕だったので、右袖はおろして左袖を上げ直すというお粗末でしたが。
はい、これは動作原理体験ですのでHALを脚に装着するのではなく、腕にセンサーを貼って肘関節の曲げ伸ばしによって起こる筋肉の収縮の生体電位信号を検出しコンピューターで解析し、それをHALに伝えてHALの関節が曲げ伸ばしされるようにするものなのですね。
HALがすごいのは脳からの伝達信号をいち早く検出することにより、人体の筋肉が動き出すよりも一瞬早くロボットを動かすのが可能な点なのだとか。
これですね、最初に腕を伸ばしたところと曲げたところそれぞれで測定した筋電位を元にしつつ、その後収縮運動を何度か重ねる内にコンピューターが学習してよりスムーズに動くようになっていくみたいですね。
私が見た限りでは、自分よりもHALが一瞬早く動いてるかどうかというのは分かりませんでした。一瞬というのは恐らくコンマ以下にさらに0がつくぐらいの秒数でしょうから(つまり0.0何秒ね)私の動体視力では見て取れないです。でも動作音(大変静かです)を聞いているとその開始が次第に早くなってくるような印象を受けたので。
私の腕とHALの動作原理体験用モデルとの間はコードでつながれていて、それは当然私自身が脚に信号を伝える神経よりは長いわけですから、実際の動作は私が動いてからHALが動いてるという様に見えました。
しかし大事なのは私が肘を曲げ伸ばしするとそれと同時にHALが関節を曲げ伸ばししているということですよ。誰かがよそでHALをリモコンか何かで制御してるわけじゃないんです。私とHALの動きは完全に連動してるんです!
これは体験してみないと分からないです。いつ、思いつきで肘を伸ばそうが、HALはそれについてくる。これは相手の動きを見てから操作したのでは絶対追いつかない早さです。まあ、私の動きは鈍いので、武道やゲームの達人だったら「ふっ、お前の動きは見切った」とか言って私より早くHALをリモコン操作できるかもしれませんが、こんな所でそれをやっても全く意味はないので。
さらにすごいのはここからで、HALは私の脳からの「動くぞ」という信号を受け取らない限り、動かないのですね。私があっちを向いている隙にHALにつながっている左腕をモデル氏がつかんで関節を曲げたり伸ばしたりしてみせたのですが、HALそのものは全然動かなかったそうです。
そうです、というのは、私が見た瞬間、動いている腕を認知した脳が腕に「動くぞ」という信号を送ったらしく、その時だけ関節が曲がってしまったから。つまり私自身は自分の腕が他人によって動かされている間HALは動いてないというのを見てはいないのです。後から聞いたら確かにそうだったということで。でもその時その場で私を見て説明をきいていたツアーの皆さんの反応は確かにそうでしたので間違いないでしょう。
それにも増してすごかったのは、さっきと逆に私が「動くぞ」と思っているのにその動きを外部の圧力によって止められた時。私の腕は動かなくてもHALの関節は曲がっているのですよ。
最初はモデル氏が私の左腕を押さえていたのですが、次に私自身が左腕は曲げようとしながらそこに右腕を置くことで左腕の運動を邪魔してみました。すると、それでも左腕につながっているHALの関節はしっかり曲がるのですね!
ということは、筋肉に動く力がなくなっていても脳からの「動くぞ」という信号が伝わるならHALは動かすことができるということです。
これによりロボットスーツHAL福祉用が下肢に障害を持つ人や脚力の弱くなった人を対象にしたものであることが深く理解できました。そしてそれは私自身が将来再び右脚が不自由になったとしても、HALさえあれば楽に歩くことができるという確信でもあります。
すでにこのHALは様々な介護施設へのリースやレンタルという形で実用化が進んでいます。
筋力の低下で歩く喜びを失った方々がHALを使うことでそれを取り戻せたらどんなに嬉しいだろうと思います。
残念ながら走る機能はついてないんだそうですけどね、このHAL君。
でも下半身が勝手に走り出して「ウォレスとグルミット」の「ペンギンに気をつけろ」みたいになったらヤですから、歩くだけで丁度いいのかも。
もっとも「ウォレスとグルミット」に出てきたリモコン操作で動くテクノズボンと違い、ロボットスーツHAL福祉用は装着している本人が本気で歩こうとしない限りは動きませんから、暴走したくてもできないんです。
頭の中で「さあ、歩こう」と思っても本気で歩きだそうとしない限り体は動きませんよね?
逆に、例えば「トイレに行かなきゃ」と差し迫って思った時は「歩こう」と言葉で思わなくても脚が勝手にトイレに向かって歩き出します。
HALはこの実際に筋肉が収縮する際に起きる電位を検出するわけですから、頭で「HALよ動け」と思ったりそう言葉で唱えたりしても、それだけではピクリとも動かないのです。
HALは人間の「自分の力で移動したい」という欲求をかなえるもの。まさしく人間の手足となってその人を支える、究極の自立支援装置なのです。
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