>2月20日、第60回ベルリン国際映画祭のクロージングを飾る『おとうと』の会見が行われた。山田洋次監督、主演の吉永小百合らが、本作から日本映画の系譜にまで及ぶ質問にじっくり答えた。
市井の人々、家族をテーマにしてきた山田監督だが、意外にも、小津安二郎監督を目指したことはないという。「小津監督は僕が育った撮影所の大先 輩。でも、若いころは黒澤明みたいな広い世界を撮らなくてはと考えていました。それが、気がつくと家族を描き続けている。やはり僕の中には小津監督の影響 があると思います」、「本作製作前に小津作品を何本か見直したのですが、あらためて、すごい監督だと思いました」と偉大な先輩監督への敬意を表した。
再婚もせず、女手一つで薬局を切り盛りし、娘(蒼井優)と亡き夫の母親(加藤治子)の面倒までみながら、弟(笑福亭鶴瓶)の不始末の尻拭いまです る主人公吟子を自我がないと言う海外女性記者もいた。それに対し、吟子の優しさに感銘を受けたという吉永が「自我がないとは全く思わないんですね。私には 弟はいないのですが、もし、あんな弟がいたとして、吟子さんのように優しくできないかもしれません。吟子さんの生き方は私にとっては憧れで、この役を引き 受けさせていただきました」とコメントすると、山田監督も「日本の全ての女性がみんな吟子さんのようには優しくないかもしれない、むしろ、そうでない女性 が多いかもしれません。僕自身も身内に対して、悪いことをしたなと思うこともある。この映画を見て、ちょっと優しくしようと思っていただけたら、観客とそ こでつながっていける」と援護した。
50年前の市川崑監督の映画と同名のタイトルをつけた本作製作のきっかけの1つが、『母べえ』での本映画祭参加中に受けた市川監督の訃報だったと いう。その本映画祭の記念すべき第60回で、市川監督に捧げた本作でクロージングを飾ること、市川監督も受賞しているベルリナーレ・カメラを受賞すること に縁を感じているという山田監督だった。
会見後には吉永にサインをもらい大喜びの海外男性記者の姿も。海外にまでサユリストがいたようだ。