サンドラ・ブロック インタビュー
「自然の流れに任せて、とにかく自分の人生を楽しもうと思ったの」
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より(以下一部抜粋)GG賞、放送映画批評家協会賞受賞など、賞レース前哨戦では圧倒的な強さをみせてきたサンドラ。果てしてオスカーは?
――この映画は実話を基にしたストーリーです。なぜ本作に出演したいと思ったのですか?
「最初はピンとくるものがなかったし、やりたくなかったの。だから頑なに断り続けていたんだけど、監督(ジョン・リー・ハンコック ) にしつこく説得されるうちに、彼には何らかの確信があって私を口説いているんだと思い始めたのよ。『このキャラクターや、それを君が演じるべき理由を説明 するのは無理だから、とにかくリー・アンに会ってくれ』と言われて、リー・アン本人に会ったものの、『どうして私じゃなきゃダメなの?』って、かえって疑 問が深まったわ。
でも姉といる時に偶然、監督からメールが届いて、それはリー・アンとのやりとりの中で彼女がとめどなく綴っている文章をつなぎ合わせたものだったん だけど、それを姉に読んで聞かせたところ、『それをあなたの書いたメールの横にコピペして、よく見てごらんなさいよ。あなたたちそっくりじゃない!』って 言われたの。そこで初めて、見えていなかった彼女との共通点の多さに気づいたのよ。それで、すごく不安だけれど、この役に挑戦してみようという気になった の」
――本作はテューイ一家の善行と、それに応えるマイケルとの心の交流を描いたストーリーですが、最も心を動かされたのはどんな点でしたか?
「まずは、原作が素晴らしかった。特に彼女のように人生のほとんどをフットボール選手のそばで過ごしたことがあるのに、フット ボールについてほとんど何も知らないし、気にしないというところかしら。最終的には、スポーツ選手であることの意味やコーチたちが教え子に注ぐ献身や、彼 らが子供たちを支え、励まし、刺激を与える姿に尊敬の念を覚えずにはいられなかったわ。
彼らがこんな素敵な経験をしたことに対して、スポーツ愛好家としても、同じようなことができたはずの境遇にいる者としても本気で嫉妬心を抱いたわ。 まさか自分がこの映画を作れるとは思わなかったけれど、そうでなかったとしても、この映画が感動的な理由は、実際にこんなことをした家族がいるという事実 があるからなの。しかも誰かが記事や本、映画を作るからやったのではなく、彼らは“これが私たちのやるべきこと。愛を与えて手を差し伸べるのよ”という本 能で行ったからよ。もちろん、あらゆる人が彼らに質問を浴びせたわ。善行をする人のことなんて誰も信じていないもの。今の私たちが暮らしているのはそんな 寂しい世界だわ。
でも彼らは気にもしなかった。ひたすら自分たちの道を歩んだの。そんな彼らの姿は自分を後押ししてくれるような気にさせてくれるの。だからどんな素 晴らしい女優がリー・アン・テューイを演じたとしても、なによりもこの作品は観る側を刺激する、そして自分たちには自分が思っている以上の能力があること を証明する実話でなければならなかったわ。今の世の中は善行を支持してくれるような世界じゃない。誰もが悪行のほうへと促すわ。新聞でもニュース記事でも そうなのよ」
――そのリー・アンのどういったところに惹かれましたか? 実在する人物であり、なおかつ決して有名とはいえない人物を基にしたキャラクターを演じるというのは難しかったと思いますが。
「リー・アンみたいにエネルギッシュな人なんてまずいないから、今回はとてもタフな挑戦だったわね。できるだけ本人に近づけようと意識したんだけど、とにかく恐かった。でもそれと同時に、この素晴らしい活力の溢れる女性に忠実でなければならないという義務も感じたの。
それに監督のジョンは、リー・アンという人がどんな人なのか私に説明できなかったの。でも自分で直接彼女に会ってみて分かったわ。『あなたが説明で きなかった理由がようやく分かったわ。リー・アンがとても独特(オリジナル)なせいね』って言ったの(笑)。とにかく彼らそして、彼らの子供たちとの間に は尊敬せずにはいられないほどの力強いエネルギーがあったわ」
――アメリカン・フットボールはよく観戦するのですか?
「情けないことに、チアリーダーでありながら何を応援しているのかさっぱり分からなかったの。アメフット選手と付き合った時 も、彼のポジションや役割も分からず、単にユニフォーム姿に惹かれただけ。その後、この映画のマイケルと同じポジションのアメフット選手(TV司会者の ジェシー・ジェームズ)と結婚して、かなり詳しくなったけど、理解はしていなかったことにこの映画で気付かされた。家に帰って『アメフットの選手がどれだ け偉大なものか知らなかった』って夫に謝ったわ(笑)。肉体的にも精神的にも並外れた強靭さが求められるスポーツだと思い知ったの。あの筋肉、スピード、 技、タックルの猛烈さ……今では選手たち、そして大学で親代わりとなるコーチに深い尊敬を抱くようになったわ。
こんな風に、アメフットに興味がなかった人でも、この映画を観て興味をもつようになるかもしれないわね。感情面からこのスポーツに入っていけるも の。アメフットと聞くと、巨大なスタジアムを埋め尽くす顔をチームカラーで塗った人々にビール・ジョッキ片手の酔っ払い、ヘンテコなサインを掲げたファン たちっていうイメージが湧くし、私もそうだったけど、この映画でアメフット選手が他の多くとは違う、どれだけ秀でた、真に特別な存在だと認識して感動し、 すっかりこのスポーツが好きになったの。チアリーダーだった高校時代に戻って、心をこめて応援し直したいくらいよ」
――90年代からこれまでに数多くの作品に主演してますが、役選びはどのようにしているのですか?
「昔は単に楽しそうに見えて、意外性があって、満足できる仕事なら何でも飛びついていたけど、今ではどうしてもやりたいと思え るものだけを選んでいるわ。今ではもうこの方法でしか選べないわね。そのおかげで予期しなかったような楽しい充実感を味わうこともできるの。急いだり、躍 起になって探しまわったりすることのない今の状態はいい意味でとても充実しているわ」
――そんな風に決めたのはいつ頃でしたか?
「山積みになった脚本を目の前にして、1ページも開きたくないって思っている自分がいることに気づいたわ。今はその世界に入り たくないとね。それよりも自分自身を楽しみたかったの。自然の流れに任せて、とにかく自分の人生を楽しもうと思ったの。それにこれまでに満足できる仕事を してきたという認識もあったわ。懸命に前に突き進んで、仕事で埋まるはずのない隙間を埋めようとするかわりに、とにかく楽しみたかったのよ」
――あなたが出演したオスカー受賞作「クラッシュ 」も、今回の「しあわせの隠れ場所 」も低予算の映画です。こういう映画が受け入れられ、興行面でも成功したことに、希望を感じますか?
「予算は少ないけれど脚本がいいとき、そして監督も素晴らしいとき、俳優は自分のほうからやりたいと主張するものなの。ギャラ なんて関係なくね。そんなときは、最高の作品になることが多いのよ。今回のような映画は、メジャースタジオが大きなお金を投資してくれて、その代わりに 『どっぷり儲けてね』なんて言ってくることはないし、たくさんの人間が関わりすぎて、ありがちな形式にはめられることもない。やっぱり、小さなグループの 人間が愛と情熱をもってストーリーを語っているということが大きいわね。
だから、「クラッシュ 」のときも今回の映画も、作っている時、とても満足だった。誰にも見てもらえないかもしれない。けれど、作っている今、とても私は情熱を感じると思えた。その情熱が伝わったから、観客も2つの映画を愛してくれたんだと思う」
――オスカーまであと2週間です。今、緊張していますか?
「ノー、ノー、ノー。賞に関しては、誰も何も予測なんてできないのよ。誰にも分からないの。だから緊張してもはじまらない。私 はそのプロセスをただ楽しんでいるだけ。結果は関係ない。私はこのジャーニーを楽しみたいだけなの。当日は、どんなことだって起こりえる。思ったとおりに なんて、誰にとってもならないもの。だから楽しむだけにかぎるのよ。私は何も期待していない。私はハッピー。結果がどうなろうとも、私はそれに満足だわ」