オリコン より(以下一部抜粋)  

今年1月にスタートし、“福山龍馬”がすっかり定着したNHK大河ドラマ『龍馬伝』。福山雅治演じる龍馬の容姿や、香川照之演じる岩崎弥太郎の貧困時代 での“汚れ具合”なども話題を呼んでおり、扮装に対するこだわりが随所に散りばめられている。全出演者の扮装を手掛ける人物デザイン監修の柘植伊佐夫氏 は、このほどインタビューに応じ、ポスター写真や4月以降放送の龍馬の着用している袴が「素材の風合やデザイン的な意図を考えて、結果的にデニムを使って います。僕らの間では『龍馬デニム』って呼んでいます。時代考証的にはありえないけど、デニム素材に“リアリティ”を感じたんです」と秘話を明かした。柘 植氏が同作で求める“リアリティ”とは何か、その思いを聞いてみた。

香川照之自身もヘコム“汚れ”扮装写真

 これまで、米アカデミー賞受賞作『おくりびと』や、嵐の櫻井翔主演映画『ヤッターマン』などのビジュアルにも携わってきた柘植氏。「今までにない大河を 見せるために新しい要素を入れたいと考えた時、幅広い仕事をしている柘植さんに、伝統的な枠にぶつかってもらいたかった」と、同作の鈴木圭プロデューサー は柘植氏の起用理由を語る。

 人物デザイン監修とは、扮装において必要なデザイン設計やカツラ、衣装、メイクなどの全デザインと、そのデザインプロダクションを統括するポジション。すなわち、柘植氏次第で、ドラマ『龍馬伝』の出来が左右されるといっても過言ではない。

 最も核となる重要人物・龍馬のデザインに柘植氏は「現存の立像が残っていて、龍馬に対するイメージが世間に染みついている。でも、その原型を裏切らず、『それはありだね』っていう感覚的なところに落とし込む必要があった」と、構想段階での心境を振り返る。

 それゆえに様式的なデザインや考えは避けたという柘植氏は「僕の役割は、役者と役柄を、着物や物によって“接着”すること。時代考証は大前提にあるとし つつも、それは表現するために役立てる1つに過ぎないと思うんです」。その大胆かつ柔和なスタイルが、鈴木チーフ・プロデューサーの狙いと合致する斬新な アイデアをもたらした。

 柘植氏は、自身の考える“リアリティ”とは「時代考証にのっとったり、写実そのもの」ではなく「例えばSF映画で宇宙人が出ても、その存在に本当さを感 じるような感覚に近いですね」と、自然さを表現することと強調。「特にエッジな部分においては、いかにリアルさを感じさせるか。そういうものをチョイスし て選んでいます」。

 試行錯誤の果てにたどり着いたこだわりの1つが“龍馬デニム”だ。 柘植氏は「司馬遼太郎先生が描いている、あるいは『仁』(TBS系)の中で描かれている既存の龍馬にはなっていないです」と、その出来栄えに自信をみなぎ らせる。「福山さんも“龍馬デニム”を気に入っていると思います」と口は滑らかだ。

 ちょっとした遊び心も盛り込んでいる。龍馬のイメージを練る過程で「希望の“希”」が浮かんだという柘植氏は「龍馬さんが首にかけている木札には、実は 裏設定があって。母親があげた木札ってことにしていて。木札の裏には“希”が書かれているんです」と、作品への思い入れと共に深いこだわりをうかがわせ る。

 服装以外にも「福山さんのパーマを緩くするなどして、常に空気感を大事にしています」と、細部にまで神経を研ぎ澄ませている柘植氏は「『龍馬伝』って情 報が高密度で、ストーリーもスピーディーなんですよね。だから、ぜひ録画して、それを止めるレベルで見てほしいですね」と勧める。 “龍馬デニム”をはじめ、まだまだあるという時代考証の枠をこえた扮装にも注目してみると、意外な発見があるかもしれない。

 なお、今月14日(日)午後8時放送の第11回『土佐沸騰』では、龍馬とAKB48・前田敦子演じる姪の坂本春猪の2人による三味線演奏シーンや、桜田門外の変を機に揺れ動く土佐藩の上士と下士の様子を描く。