「噂のモーガン夫妻」公式サイト

*ストーリーの下よりネタバレになります。未見の方はご注意下さい


ストーリーは以下の通り(
MovieWalker より)

メリル・モーガン(サラ・ジェシカ・パーカー)は、マンハッタンで数千億円の物件ばかりを扱う不動産会社の女社長。夫のポール・モーガン(ヒュー・グラン ト)は、全米屈指の敏腕弁護士。常にニューヨーク中の噂の的のモーガン夫妻。週刊誌の表紙を飾ることも珍しくない2人は人も羨む完璧な超セレブカップル だった。だが、そんな満ち足りた幸せな日々も、ポールの浮気が発覚して過去のものとなってしまう。冷め切ってしまった妻メリルの気持ちを、プレゼント攻撃 で何とか取り戻そうとするポール。その夜も、夜景の美しいレストランに妻を誘い、“夫婦カウンセリングに通おう”と関係の修復に懸命に努めていた。だが、 その帰り道、思わぬ事態が2人を襲う。殺人事件を目撃してしまったのだ。犯人に顔を見られた2人は、警察の“証人保護プログラム”により、身分を隠してワ イオミングへ向かうことになる。人間よりも牛や馬の方が多い田舎で2人きり。生まれながらのニューヨーカーから見ると、まるで異星人のような農村の住人た ち。彼らとの交流や、大自然との出会いの中で、2人の関係には変化が生まれてくる。(以下略)



こういうタイプの映画、昔からよくあります。
人口過多の都会での便利な生活しか知らない人間(男女を問わず)が何らかの事情で人口密度が劇的なまでに低い土地で暮らすはめになって、そこで野生&真の人間性に目覚めて本当の幸せをつかむ、みたいなストーリー。

筋立てのバリエーションは様々ですが、都会生活者の自然に対する無知ぶりというか生活力=サバイバル能力の無さをコミカルに見せるのがコメディとしてのメインの部分になるのが共通しています。基本的に、都会人が大げさに騒ぎ立てる事はその土地にとってはごく当たり前の常識であるといったギャップで笑いを取るので、そのギャップが大きければ大きい程、都会もんである主人公が大げさに驚けば驚くほどおもしろいという図式が成立するのです。


で、そうやって観客をゲラゲラ笑わせている内にしっかり心をつかんで最後はハートウォーミングにもっていければ作品としては成功、興行としては大もうけになるはずなんです。上手くいけばね。


ところがこの「噂のモーガン夫妻」ではそうは上手くいきませんでした。

興行的にも全米ではぱっとしなかったんですが、無理もないと思います。

だってね、古臭いんですよ、全体的に。

それこそ前世紀の作品かと思いましたよ。
まあ、これが前世紀につくられたんならサラ・ジェシカ・パーカーもヒュー・グラントもまだ若いからぴったりだったんでしょうが、残念ながらスクリーンの中でさえこのお二人はもはや若く見えず分別(ふんべつ)盛りの立派な大人に見えるんです。

それなのに、その大人として完成された姿にも関わらず、やってる事が子どもっぽすぎるのですよ、この二人は。


というか、2010年という現代においては脚本そのものに無理があるんですね。


この二人はニューヨークはマンハッタンでバリバリに成功しているセレブという設定なんですが、あまりに浮世離れしていて証人保護プログラム下に置かれているという自分の立場をまるっきり認識できてないのですわ。


殺人事件を目撃して、FBIが出てきて、証人保護プログラムに置かれて、何度も何度も自分達の命が危機にさらされている事を教えられて、見たこともない程田舎のワイオミングで暮らすことになって、それでも危機感一つ感じないでのほほんとしてるなんて、普通ありえないでしょ。それも、マンハッタンで、あの生き馬の目を抜くような土地で人を出し抜いてビジネスで成功してトップに立ってるような人間が、ですよ。状況を把握し的確な判断を下すのに慣れている人間が、何故自分が危険な状態にあることをきちんと認識できないのでしょうか。おかしいでしょ? 二人ともワイオミングでも自分の仕事では「できる」事をちゃんと見せているというのに。


この二人の生きていたニューヨークはきっとパラレルワールドで、同時テロを経験していないNYなのでしょう。それとたぶん、リーマンショックも。


そのくらい時代とズレてるんです、「噂のモーガン夫妻」は。

古き良き時代のアメリカが何の危機もないまま幸せに現代まできてたとしたら、きっとこの映画はゲラゲラ笑えるものになったのでしょう。

時代というのは何も最先端の電子機器でばかり測られるものではないのです。モーガン夫妻がケータイやPCを使いこなしていたとしても、彼らのまとっている空気に「現代」が感じられなければそれは古臭いものになる。


私は実際にニューヨークに行った事はありませんが、テレビドラマの「CSI NY」や映画「ニューヨーク、アイラブユー」から感じられる「現代」に欠かせないのは「早さ」なんです。常に時代の最先端を行くために数々の情報を収集しそれが必要なものかどうかを瞬時に見分ける判断力、「現在」の状況に即時に対応して身を処する臨機応変さ、そういう決断の早さがあの街で生き延び生き残るために必要とされている能力なんですよね。


それは別にニューヨークには限らないわけで、たとえば「第9地区」ではヨハネスブルクが舞台ですが、そこでも主人公は決断の早さでどんづまり見たいな状況を必死でサバイバルして生き抜いていく。この映画のおもしろさは彼の決断の早さが生むスピード感そのものだともいえます。


この「状況把握の的確さ」や「決断の早さ」の魅力は映画でいえば「ボーン・アイデンティティ」がその嚆矢で、「ボーン」以前と以降では本当にスピード感が全然違ってるんですよね。


ところが「モーガン夫妻」にはそれらがまるでない。

いつまで~も自分達の都会での生活の甘い夢を見ていて、命が危険にさらされているという状況が把握できないまま、破綻した結婚生活の原因を相手に求めているんです。それどころじゃないでしょ、と見ているこっちがイライラする。

このご夫婦の結婚生活が破綻した真の理由は浮気の他にもあって、その辺の男女の思いのすれ違いというのがどうやらこの作品のテーマらしいのですが、でもね、それをサラ・ジェシカ・パーカーとヒュー・グラントでやるというキャスティングがあまりにもあざとすぎるのですわ。何が何でも子どもを欲しがる妻と、幾つになっても父親になる決心のつかない夫という役にはね、適役を通り越して御本人達が透けて見えてしらけてしまいます。それ、演技といえないでしょ、みたいな感じ。プロである俳優の彼らには悪いんですけど、見る方はどうしてもそう思えてしまうんですよ。


結局このアテ書きみたいな脚本とキャスティングに加えて現代感覚のなさが全ての失敗の元だったのではないでしょうか。


同じような、都会生活者が人口密度の極端に少ない土地に行って~という話で大ヒットした映画もあるんですから、ストーリーそのものが古臭くなったわけではないのです。


ちなみに大ヒットした方は、サンドラ・ブロック主演の「あなたは私のムコになる」(
公式サイト )ね。
これも都会でバリバリ働いていたサンドラがよんどころない事情によってアラスカに行くハメになって……というストーリーなのですが、サンドラの臨機応変っぷりが見事で爆笑できるのですよ。とにかく即座に状況を判断して、その場で自分に求められてる事を何が何でもやってしまうサンドラのヒロインぶりが超おかしい。そして最後にはちゃんとハートウォーミングでロマンチックな結末をむかえるわけで……♪ ラストは古典的でも展開が現代的だからOKなのですわ。


おかしかったのは「あなたは私のムコになる」ではアラスカでサンドラを出迎えてたメアリー・スティンバーゲンが「噂のモーガン夫妻」ではワイオミングでサラとヒューを出迎えてたこと! 都会を離れて田舎にいくと、そこにはメアリー・スティンバーゲンが待ち構えているのがお約束なのかと思って一人で笑ってました。両作品ともメアリーは最高の「保護者」役。彼女がいてくれると映画の奥行きが深まります♪


二つの作品を見比べるとメアリーの話している英語のアクセントが全然違うことが分かっておもしろいですよ♪ 




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