「運命のボタン」公式サイト

あらすじについてはこの下で引用した記事の通りなんですが、ストーリーの進行に連れて次々に観客が思いもしなかった事態が起きて登場人物の運命がガラリと 違う方向に行ってしまうような展開の仕方が「LOST」に似てるなあと途中まで思っていました。何故「途中まで」かというと、「LOST」の最終シーズン を私はまだ見ていないのでその物語がどういう終焉を迎えるのかが分かっていないからです(そもそも「LOST」を御覧になってない方、申し訳ありませ ぬ)。

「LOST」もどう転ぶか分かりませんが、「運命のボタン」も全く予測がつかなかったですね。もう一つ別の映画に似ているとも思ったんですが、ここでその タイトルを出すとネタバレになりそうなのでやめておきます。でもまあ、紹介文なんかで原作者のリチャード・マシスンの映画化作品の例として「アイ・アム・ レジェンド」を出してくる理由は分かりましたね。同じマシスン原作には「ある日どこかで」があって、こちらは午前10時の映画祭(こちら )で現在人気の一本なんでこっちを出してもよかったような気もするんですけどね。ちょっと残念。

マシスンの原作、読んだことがあったかどうかすでに記憶がありませんが(マシスンは好きな作家だったけれど、当時その本が書店や図書館に並んでなければ読 めないわけで……それで結局「アイ・アム・レジェンド」の原作だって読まないままだったんだから)、しかしその作品が彼らしい短編だとするなら「運命のボ タン」は随分とストーリーが付け足されているはずだな、と思いました。短編としての「オチ」の部分は同じだとしても、そこに到るまでが恐らく脚本家も兼ね ている監督の創作なんだろうと。だから話が急に飛ぶというか、ある点からすっかり様相を変えてしまうのでしょう。とはいえストーリーとしては綺麗につな がっているので問題はありません。

映画の中のキャメロン・ディアスとジェームズ・マースデンは本当に美しい似合いのカップルで、二人の間に生まれた男の子もいかにも彼らの血を受け継いでま すといった感じの美少年で、実に理想的な家庭に見えます。

理想的に見える彼らですが、それぞれに心の傷を抱えていて、それ故、弱みを持たない人達よりも深い思いやりと優しさを備えているらしいという描写がすぐに あり、観客はそのシーンが現れるのがあまりに早いのでちょっとどぎまぎしちゃいます。この展開の早さ、思いがけなさ、過去の因縁のからみなんかが 「LOST」を思い出す所以ですね。それはさておき、とにかく彼らは善良で互いを心底思い合っている素晴らしい夫婦だということが早々に明らかになりま す。

キャメロンもジェームズもどこかに痛みの記憶を持つ人を好演していて、二人の深い演技には心を動かされます。美男美女のカップルなんて下手したら観客の総 スカンを食らいかねないのに、この二人がさりげなく心に抱えた深い傷を表現しているため、見ている側は反感ではなく同情を覚えてしまうのです。彼らが理想 的な職業についているように見えても、実際には苦しい立場にある事を示している点も大きいです。

だからこの映画を見た人達の記憶にはこの作品は尊くも美しい話として残るかもしれません。

でも、何か、妙なんですよね。

美しい話として終わらせることもできるけれど、その割には後味がよくない。

この後味の悪さはマシスンじゃないんですよね~~~。これは監督のものでしょう。

でも監督、このお話の夫婦は自分の両親がモデルだと公言しているんですよ。
ってことはこの夫婦の一人息子が子ども時代の監督にあたるはずで、確かにその息子にとってこのご両親はある意味最高に子ども思いってことになるでしょう が、その反面、どこか監督の中に両親に対する屈折した思いがあって、それが期せずして漏れてきているような、そんな妙な後味の悪さなんですよ。

それはなんというか……善良であることの罪とでも言ったらいいのでしょうか、善良で自己犠牲を厭わないからといって、それが最高に素晴らしい事だと手放し で褒め称えていいのかといった葛藤ですね。

今の日本で言うなら、オレオレ詐欺にあった被害者みたいなものですよ。子どものために良かれと信じてやった事が、結果的には大金をだまし取られて子どもに 残す財産まで失ってしまう、みたいな。

それって子どもの目から見たらどうなんでしょう?
自分のために大金を払った事を感謝すべきなのか、それとも騙されたという事実を叱責すべきなのか。
そういうアンビバレンツが未消化のまま、そのままぽんと置かれた感じの作品なんですよね、言ってみれば。

私は非難されるべきは騙した側だと思ってますので、その辺にどうやら後味の悪さを感じるみたいです。詐欺師というのは人の心の弱みにつけこむもので、その 「弱み」というのがオレオレ詐欺の場合は親の子に対する愛情でしょう。そういうものを利用して人の心や行動を操るのは最低の行為だと思うんですよね。

ま、その辺も「LOST」に似てるのかな? 
そういう意味では展開が読めなくて本当にスリリングでおもしろい映画ではあるのです。
「LOST」が好きな方ならぜひ御覧を!