一見して、全く正反対のタイプに見える2人。そしておそらく、俳優としてのタイプも同じではないだろう。あえて言葉にするなら、市原隼人が凄まじいまでの “熱量”をもって役に挑みかかり、役を自分のものにしていくとするなら、高良健吾は“鋭”。冷徹に役柄に入り込み、作品ごとに別人のような表情を見せてく れる…とまあ、こちらの勝手な想像なのだが…。そんな2人が共演したのが高校のボクシング部を舞台にした青春映画『ボックス!』 。やんちゃで向こう見 ずな天才・カブ(市原さん)と彼に憧れてグローブを手にした努力家で優等生のユウキ(高良さん)。映画の公開を直前に控え、2人に話を聞く機会を得た。若 き2つの才能はいま、どこに向かって疾走しているのか――?
カブとユウキという正反対の2人の存在にリアルなファイト、などなど映画の見どこ
ろを挙げればキリがないが、何より印象的なのは、敗戦を重ねることで2人に訪れる変化。特にカブは誰もが“天才”と認める才能を持ちつつも、よく負けるの
だ。そこが魅力…という、こちらのこの言葉が終わらぬうちに、市原さんは堰を切ったように語り始めた。
市原:自分にはこれ
しかない、と思ったものでドン底に落とされて…。そこで「さあどうする?」ってなったときに傍らにユウキがいてくれる。それに最後の方で、もうひとり、大
事な人がすごく素敵な言葉を掛けてくれるところがあるんです。
作品やカブの存在が“愛おしい”という言葉がぴったりの表情で語る市原さ
ん。カブというキャラクターをどのように捉えたのか?
市原:ボクシングの中で生きているカブが少し切なくも見えて…。笑っ
てる表情からさえも切なさを感じて、やんちゃだけど愛くるしくて、何となく共感できました。「おれにはこれしかない」っていうところがね。自分と重なると
ころですか? 寂しがり屋の単独行動好きなところ(笑)? 不器用だからこそ、余計に頑張る姿が印象的です。
一方の高良さんは「最初に脚本を読んで、一番共感したのはカブだったんです。好きになっちゃったんで
すよ」と明かす。その上で、ユウキに対する思いをこう語る。
高良:自分の中で、ユウキを好きになったのがロッカールームで
「やっぱり僕はNo.2です。カブちゃんがNo.1です」と言うところ。2人とも、最初は受け入れられないんですよ、勝敗や恥やコンプレックスを。でも、
徐々にそれを受け入れ、乗り越えて…この言葉に行き着く。ユウキの言う1番とか2番ってのはカブとユウキの2人だけの世界でのことなんですよ。そこで
「あぁ、ユウキは本当にカブが好きなんだな」って感じて、すごくユウキを好きになって入っていけたんです。
さらに高良さんは「隼人さんがカブを演じているからこそ、そう感じられたと思う」と語り、現場での市
原さんの存在感について憧れの眼差しでこう語る。
高良:隼人さんが現場に安心感を与えてくれるんです。最近、隼人さんや松
田翔太くん(※6月公開の『ケンタと
ジュンとカヨちゃんの国』
で共演)と一緒にいて感じるのは、何か背負っているものがあるな、ということ。そう、“責任感”なんて、生きていく上で
多くの人はできることなら背負いたくないって思ってるけど、2人は責任感とかそういうのを越えている。2人の話に、僕は圧倒されてしまうことがあります。
市
原さんはそんな高良さんのストレートな褒め言葉に少し照れくさそうにしつつも、そんな生き方をこう説明する。
市原:全部、
自分のせいにしたくなるんですよね。何かあったとき「あいつがこうだったから、おれもこうなっちゃったんだ」では成長しない。だから全部自分のせいにし
て、自分が変わればあいつも変わるかもしれない。そしたら互いにもっと上に行けるじゃないか、と思うんです。
そう語る市原さんからはポジティブな熱が強く感じられる。とはいえ当然、俳優を続けていく中で不安や 苦悩を抱え、壁にぶつかったりすることもあるのでは? そしてそうした思いをどのようにふり切り、乗り越えてここまできたのか?
市 原:恐怖はありますね。演じていて、本当の自分が分からなくなっちゃうんじゃないか、と。違う感情を持って、違う人間になるわけで、スイッチの切 り替えが下手なので(苦笑)、自分が分からなくなることはあります。それは正直、怖いです。でも、そういうもの全部ひっくるめて好きなんでしょうね (笑)、役者という仕事が。『これだけだ』って思えて、真っ直ぐに熱くなれることって芝居しかないんです。
さら に高良さんは、この作品を通じて得たもの、自身の中での成長や変化について、こう言葉を続ける。
高良:いつも自分が出た作 品を観て「あぁ、もうこの芝居はできないな」って少し寂しく思うんです。いまはもう、そのときの感情の自分ではありえないから。いま『ボックス!』 を観たら、もっと違う 芝居ができるけど、映画に映っているものはあのときしかできない。それは成長であるかもしれないですが、たとえ下手でも寂しく感じますね。
で は今後、どんな作品に携わり、どんな役柄を演じてみたいか? そう尋ねると、まず高良さんが口を開いた。
高良:今年は、自 分で『あっ、怖いな』と思うことをしてるんですよ。『怖いな、できるかな?』って。そう思いつつ、いまはそうやって恐怖心を持ちながら、全部やってやるっ て気持ちです。
市原:僕は多重人格の役をやってみたいです。いろいろと仕込んで、役者として楽しめそうだな、と。最初にや らせてもらった『リリイ・シュシュのすべて』のようなある種、繊細な作品、役柄をもう一度やってみたい気持ちですかね。
高良:そ れなら、僕は“ギャル男”の役とかやってみたいです。ギャル男のチャラい感じってすごく不思議で独特じゃないですか! 見てて面白いし。
市 原:健吾のギャル男、見たい(笑)!
…意外な答えが出てきたが、多重人格者であれギャル男であれ、やるとなったらとことんまで突 き詰めて、観る者を引き込んでいってくれることは間違いなさそう。まずは、拳に青春をかける2人の姿を目に焼き付けてほしい。