産経新聞より(以下一部抜粋)

> ■役への準備10カ月 完全燃焼

 スーパースターには、好機を引き寄せる力、そして、結果を出す力がある。国民的アイドルグループ、SMAPの最年少メンバーもその一人。阪本順治監督か らラブコールを受け、「座頭市 THE LAST」の主役を演じた。

 「座頭市をやれると単純に喜びました」。勝新太郎の当たり役。周囲の反響で、徐々にプレッシャーを感じたものの、「自分の座頭市をするという気持ちで、 思い切りやりました。やり残したことはないです」。前向きな言葉、屈託のない笑顔を見ていると、明るい気持ちになる。

 目が不自由な流れ者の市が、神速の刀さばきで人を斬(き)る-。その偉大なシリーズは知っていたが、過去28作は見ておらず、監督の指示で第1作「座頭 市物語」を見た。「刀の動きが速くてスローで見ました。ときに刀が宙を切っても、勝さんの座頭市にはそれを言わせない気迫があった。素直に格好よかった」

 役への準備には、撮影前の一昨年6月から約10カ月を費やした。「これだけ時間をかけたのは初めて」という。殺陣師から「人を斬る者の心」を表現するこ とを学んだ。日本盲人会連合の人たちとは、アイマスクで目を隠し、鈴が入った球で卓球をして、耳で動きを察知する感覚をつかんだ。スポーツを通した交流に よって彼らと自然にうち解け、役への助言ももらった。

 印象的だったのは、走り方を聞いたとき。「怖いから走らない、と。でも僕のためにみんなで“もしも”を考えてくれた。杖を床に打つ暇はないから、杖を振 り回し、何でも叩いて走るかな、と言われて役に反映させました」

 完結編の今作は、市の生い立ちや愛も描かれている。愛する人への思いは強いが孤独な市と、自身が重なった。「やはり自分にも、どこか孤独な部分はありま すよ」。SMAPとして活動を始めたのは、小学生のとき。学校早退を余儀なくされることもあった。「スタジオで歌って踊るのは楽しい。でも、怒られたり収 録が長引くと、学校へ行きたいなと思う。その繰り返しでした」としみじみ。

 そんな彼を支えたのも、役柄同様、愛する人への思いだ。「周囲の人たちの愛を感じ、ここまでやってこれた。つらくても、周りの人たちを信じて突き進むし か、僕にはできないから」。幼いころからぶれない優しさが、人を惹(ひ)きつけるのかもしれない。

 多忙な日々も「ニュース番組が大好き。家で毎朝晩、見ています」。このバランスの良さで、座頭市、“こち亀”の両さん、孫悟空、ハットリくんと個性的な 役を次々とこなしてきた。「もっと、キャラクターものを突き詰めたい。いっそ、スパイダーマンはどうかな」。国民的キャラクター、ドラえもんを勧めると、 「やりたいです。顔を青く塗ってね」。リップサービスも欠かさない心優しきプロ。まるで座頭の市、そのものではないか。(文・橋本奈実)

【プロフィル】香取慎吾

 かとり・しんご 昭和52年、東京都出身。平成3年、SMAPでCDデビュー。歌手、俳優、司会など幅広い分野で活躍し、国民的人気を誇る。昨年、米 ニューヨークでミュージカル公演「TALK LIKE SINGING」を行った。映画は、「忍者ハットリくん ザ・ムービー」(16年)「西遊 記」(19年)「ザ・マジックアワー」(20年)などに出演。「座頭市 THE LAST」は、29日からTOHOシネマズ梅田ほかで公開。