シネマトゥデイより(以下一部抜粋)

>上映中止騒動が勃発しているドキュメンタリー映画『ザ・コーヴ』の上映とシンポジウムが9日、東京・なかのZERO 小ホールで行われた。同作品は和歌山県太地町のイルカ漁を告発していることから「反日映画」として一部の右翼団体やから電話や街宣などによる抗議を受けて おり、この日も万が一に備えて警察官19人が警備にあたり、会場内ではシンポジウムでペットボトルが投げられることを警戒して自動販売機の使用を中止する 措置が取られた。

 その最中、「『ザ・コーヴ』はテロ集団シーシェパードによるプロパガンダ」と書いたビラを配布する反対派や、日の丸を掲げて抗議しようとした男性 に対して警察関係者が取り囲む物々しい一幕もあった。しかし550席の会場は瞬く間に満席となり、入りきれなかった観客のために急きょロビーにモニターを 出してシンポジウムの様子を流すなど、人々の関心の高さを伺わせた。


 今回のイベントは月刊誌「創」が主催で、篠田博之編集長をはじめ、作家で映画監督の森達也氏、映像ジャーナリスト・綿井健陽氏、カメラマン・ディ レクターの坂野正人氏、新右翼「一水会」顧問の鈴木邦男氏といったそうそうたる論客たちが登壇。本来は作品の内容はもちろん、隠し撮りという手法など多く の問題を提起していることから討論の場が設置された。しかし開催直前に上映中止騒動が起こったことから上映中止を反対する声明文が読まれたほか、急きょ、 映画のナビゲーターで来日中のリック・オバリー氏がゲストとして登場。


 オバリー氏は言論表現の自由を保障した日本国憲法第21条が書かれたボードを掲げながら「娯楽としてでもいいので、この映画を日本の観客に観てほ しい」と訴えた。 オバリー氏が日本国憲法を引き合いに出したことに刺激されたのか、森氏は「憲法21条をうたうというのは、国家に言論を弾圧させないと いうことなんです。でもこのような国民同士の弾圧については想定していないんですね。今回のような弾圧や自粛というのは憲法が入るべきモノじゃない。だか ら弾圧のレベルじゃない。とても粗末な話です。ただ僕は、上映中止を求める言論も保障あってもいい。しかしそれを暴力を付随する行為で言論を制するのであ れば違う。同時に、それで委縮してしまう表現する方の覚悟のなさも問われるべき。それでも、一部の活動家や劇場を批判して済む話じゃないですね。少なくと も日本社会の構造の中に歪曲したものがあるのだろうと。それくらいのモノを見つけないと、シンポジウムも含めてとても不毛で、なんで今さら表現の自由を訴 えなきゃいけないのだろうと。情けないです。それを僕も、みなさんも考えてほしい」と苦言を呈した。


 過激な発言で知られる鈴木氏も「映画を観た上で、間違いを指摘し、日本の伝統だというのなら堂々と議論すればいい。許せないのは、見せないで反日 映画と決めつけること。まぁ、自分も昔やってましたけどね(笑)。でもどうしても許せないのなら、1億人2000万人に映画を見せて『おれたちの主張が正 しいだろ』と言えばいいのに、そういう勇気もないんですね。せいぜい20~30人が反日映画と決めつけて、国民に映画を見せないなんて、それはかえって日 本国民をバカにしている。信じていないじゃないでしょうか。そういう行動そのものが反日的だと思います。違いますか!」と吠えると、会場から拍手が沸き起 こった。


 またイルカ問題に詳しい坂野氏からは、配給会社「アンプラグド」に対して、日本公開版にはイルカ漁関係者などの顔にモザイクがかけらていることに ついて「やりすぎの自主規制ではないか。少なくとも警察官にもモザイクをかけるなんて聞いたことがない」という疑問が投げかけられた。同社の加藤武史社長 は「正直、ボカシは入れたくなかった。でも太地町からも批判があったし、弁護士と検討して個人攻撃にならないように配慮しました。ただ、いまだにこれでよ かったのかと思うところがあります」と公開に漕ぎ着けるための苦肉の策であったことを明かした。


 シンポジウムは残念ながら、観客の入場に時間を要したことで約30分に短縮されてしまったのだが、篠田編集長はじめ『靖国 YASUKUNI』の 上映中止騒動であれだけ言論の自由について話し合ったのに、また同じ発言を繰り返さなければいけない無念さが言葉の端々にあふれていた。森氏にいたっては 「『靖国』の時にも言ったんですけど、劇場選定のミスですよね。だって(上映予定だったのは)『靖国』騒動の時と同じ。(話題性を)狙ってやったと思いま すよね。この後にイメージフォーラムとかポレポレ東中野で上映して大ヒットするんでしょ!? 10年前(自身の監督作の『A』と『A2』)もこの手法を やっていたら、今ごろカンヌ映画祭がどこかに行っていたかも」とボヤきはじめる始末。綿井氏も、劇場を反対派から守る究極の策として「鈴木さんが劇場に入 り口に(警備員として)立っていれば?」とジョークを飛ばし、鈴木氏も「必要であれば行きますよ!」と力強く答えて会場の笑いを誘っていた。


 「アンプラグド」によると都内での上映はまだ決定していないそうだが、篠田編集長は「劇場に抗議の電話をするのではなく、激励を送ってあげて欲し い。不安に思っているであろう彼らの力になるはず」と観客に呼びかけた。