産経新聞より(以下一部抜粋)

> アインシュタインが存在を予言した謎の波動「重力波」をとらえる大規模計画が日本で動き出す。空間のわずかなゆがみを地底の望遠鏡でキャッチし、原始宇 宙の神秘に迫る。物理学の歴史に残る大発見を目指して激しい国際競争が始まる。

 アインシュタインの一般相対性理論によると、重力は「時空のひずみ」を生む。トランポリンに重いボールを乗せると、重さで布が曲がるように、星の周りで は重力で空間がゆがみ、時間の進み方も遅くなる。

 星が回転運動をすると、空間のゆがみは「さざ波」のように周囲へ広がる。これが重力波だ。1916年の一般相対性理論で存在が予言されたが、直接の証拠 はまだ見つかっていない。

 重力波は、重い中性子星やブラックホールが激しく動いたときに強く出る。約137億年前の宇宙誕生時にも、巨大なエネルギーに伴う重力波が放出されてお り、その名残をとらえれば、現在の天文学では不可能な原始宇宙の姿を探ることができるのだ。

 重力波の検出は近代物理学の土台となった相対論の検証に加え、新たな天文学を切り開く大きな意味を持っている。

 文部科学省は6月、東大宇宙線研究所が提唱した重力波望遠鏡「LCGT」の建設にゴーサインを出した。ニュートリノ観測で知られる岐阜県・旧神岡鉱山の 地下にレーザー干渉計を設置し、2014年に初期観測が始まる。

 真空パイプを一辺が3キロのL字形に置き、2方向にレーザー光を同時発射し、鏡で反射して戻るまでの時間を継続的に測る。重力波が届くと空間がゆがみ、 片方の距離が長くなるので、戻る時間にずれが生じる。これを光の干渉現象で検出する仕組みだ。

 検出するゆがみの量は、わずか100億分の1メートルの1億分の1。地球と太陽の距離が原子1個分だけ伸びたことが分かるほどの驚異的な性能だ。振動や 温度変化が少ない地下に設置し、世界最高感度を実現する。

 ターゲットは地球から6億光年の範囲で、2つの中性子星が互いに高速回転するときに出る重力波。同研究所の黒田和明教授は「本格的な性能で観測すれば、 1年に数回は確実に検出できる。疑いの余地はない」と発見に自信をみせる。

 重力波は、その存在を間接的に証明した米国研究者が1993年にノーベル物理学賞を受賞。直接検出に成功すれば受賞は確実視されており、関係者の間では すでに候補者の名前が挙がっているほどだ。

 本格観測を見込む2016年は、相対論の発表から百年の節目。ライバルの米国と欧州も、このころ既存施設の感度を日本と同水準に引き上げる計画で、三つ どもえの競争が始まる。黒田教授は「少なくとも他国と同時、あわよくば一番乗りを目指す」と意気込む。

 現在の天文学は、宇宙誕生から約30万年間の様子を見ることはできない。原始宇宙は素粒子だらけで、当時の光は粒子に邪魔されて真っすぐ進めず、地球ま で届かないからだ。しかし、重力波はあらゆる物質を素通りしてくるので、「暗黒時代」の宇宙も映し出す。

 国立天文台の藤本真克教授によると、原始宇宙から来る重力波の強さを調べることで、宇宙が火の玉状態(ビッグバン)の直前に急膨張したとする「インフ レーション理論」を検証できる可能性がある。急膨張が終了してビッグバンが起きた時期が正確に分かれば、宇宙論の大きな前進だ。

 一方、重力波が相対論の予言よりも弱かった場合は「革命」が起きる。空間は3次元ではなく、実は人間には見えないミクロの「余剰次元」が存在する初の証 拠になるからだ。重力波の一部が余剰次元の空間にしみ出たと解釈でき、宇宙は最大11次元だとする「ブレーン(膜)宇宙理論」が現実味を帯びてくる。

 「そうなればノーベル賞がいくつあっても足りない大事件。予想もしない物理学や天文学が生まれるだろう」と藤本教授。人類の宇宙観は、重力波の発見で一 変するかもしれない。