> ジョーは生きていた‐。世代を超えて読み継がれている故・梶原一騎氏(1987年没、享年50)原作のボクシング漫画「あしたのジョー」。来年2月には 41年ぶりに実写版映画が公開されるなど、今も話題は尽きない。原作者の実弟で作家の真樹日佐夫氏(70)は、リング上で“死んだ”と一般的に解釈されて きた主人公の矢吹丈がその後も生き続ける“幻のラストシーン”の存在をデイリースポーツに明かした。矢吹が『白い灰』となる結末の裏には、お蔵入りとなっ た梶原氏の原稿があった。
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 累計発行部数は2000万部以上。時代を超えたロングセラー作品には幻のラストシーンがあった。真樹氏は「全く違う内容だった」と証言する。

 「俺はちばさんに渡す前の梶原の原稿を読んでいた。最終回の白く燃え尽きるコマの前には、段平がジョーのそばに行って『お前は試合に負けてケンカに勝っ たんだ。そう思え』とリングで語りかける場面が書かれていた。そして時が流れ、ジョーはパンチドランカーとなっている盟友カーロス・リベラとともに療養所 の庭みたいな所にいて、日差しの中、2人して笑顔で戯れているシーンで終わっている」

 この案に猛反対したのが作画を担当した漫画家・ちばてつや氏(71)だった。真樹氏は電話口で火花を散らせた両者のバトルに立ち会っていた。

 「梶原が自分の原稿を電話で伝えると、ちばさんは『これだけ長く15回戦の試合を描いてきたのに、いくら何でも段平の“ケンカに勝った”はないでしょ う』と反論し、ケンカになった。梶原は『じゃあ、勝手にしろ!!』とかんしゃくを起こし、ちばさんは『やらせてもらいます!』と電話を切った。それで、あ の結末になった。ちばさんが正解だったとは思うんだけれども、それは結果論。梶原の頭の中ではジョーを死なすつもりは毛頭なかったんだよ」

 白黒をつけずに複数の解釈を可能とした『ちば版』のラストは作品を不朽の名作に昇華させた。だが、真樹氏は兄の死後も、その遺志をくんで続編を模索してきた。
 「梶原は続編を想定したラストを書いた。ちばさんも“死んだ”とは描いていない。“白い灰”はあくまで比喩(ひゆ)。15年ほど前、俺は映画会社から頼まれた続編のシノプシス(粗筋)を書いたことがある」

 真樹氏は、そのシノプシスを披露した。

 「メンドーサは王座防衛後、自身のパンチに恐怖を感じ、ベルトを返上して引退するが、ジョーは追いかけて再戦を要求。療養所の庭のような所で決着をつけるべく戦う。ジョーの原点である少年院でのボクシングに回帰して‐」

 『真樹版ジョー』はお蔵入りとなったが、現在も続編を模索する動きがある。それは主人公の生死を超えた次元で、作品そのものが無限大の可能性を秘めて“生きている”という証しである。