> 今までも数々の名優たちによって映像化されてきた『座頭市』シリーズは、日本映画の代表作と言っても過言ではない。同シリーズ完結編となる『座頭市 THE LAST』で最後の“市”を演じた香取慎吾にオススメの名場面や撮影中の心境などを直撃してみた。
■「今回は、ほとんどが、現場で沸き上がってきた感情でできてた」
――DVDの特典になる阪本順治監督との対談に立ち会わせていただいたんですが、お話を聞いていて、話題になった全ての場面を、繰り返し観たくなりまし た。それほど、1カット1カットが丁寧に、濃密に作られていたんだな、と。作り手の真摯な思いがひしひしと伝わってきました。
香取 オススメ場面ベスト5を選ぶ作業で、僕も初めて、『座頭市 THE LAST』のDVDを送ったり戻したりしながら観たんですけど、すごくおもしろかったです。キャンペーン中全国を回ったときも、「ここが見どころです!」 みたいなことはアピールしてたのに、最初の印象とは違った、もっとおもしろいところが見えてきて。
――阪本監督は、香取さんの演技を、あらためて絶賛していましたね。倍賞千恵子さん演じるミツに、香取さん演じる市が、「すいやせん」と3回言う場面では、「同じ言葉なのに、違う意味を持たせていることに驚いた」と。
香取 監督やみなさんが思っている以上に、僕、しゃべってるんですよ、頭の中でブツブツと。何しろ、ずっと目を瞑ってたんで、逆に、いろんなものが見えて くることもあって。相手の心が揺れたり、動揺したりするのが、声色ですぐわかる。だから、それを受けて、いろんなことをしゃべってました。その結果、口か ら出た「すいやせん」なんです。だから、何に対して謝ってるかが、一回一回違うんです。
――台本にない言葉を、ひとりで絶え間なく喋っていたんですね。
香取 目を瞑ると、当たり前なんですけど、目の前が真っ暗になりますよね。そうすると、音にすごく敏感になるんです。風が吹けば、身体の隅々でそれを感じ ることができたし……。だから、今回のお芝居は、ほとんどが、現場で沸き上がってきた感情でできてたんじゃないのかな。今はもう、そのときどきで何を喋っ てたのか、全然覚えてないですからね。ただ、音に敏感になるっていうのは不自由な面もあって、たとえばスタッフさんの防寒着が擦れてカシャカシャいう音が 気になって、お芝居に集中できないこともありました。
――香取さんは、オススメ場面に、まず、桜の下で妻のタネ(石原さとみ)を待つシーンをあげています。
香取 あれは……、市が、彼女のことが大好きだっていうことを表しているシーンですよね。好きすぎて、最初のところでニヤッて笑うんだけど、そのあとすぐ に客観的になって、“何をやってるんだ俺!”と恥ずかしくなる……。そんな“想い”が映るシーンって、他にひとつもないんですよ。あの場面だけは、当時と 今では時代も違えば、状況も違うけれど、渋谷のセンター街とか歩いている男のコと気持ちが、共通する部分があるんじゃないかと思います。自分に向かってく るときの彼女の足音が聞こえて、見えないけれど、頭の上を、青い空がいっぱいに広がっていることもわかる。この映画で唯一、幸福感が描かれた場面ですよ ね。
――対照的に、原田芳雄さん演じる玄吉とのシーンでは、原田さんの不気味さが、すごく怖かった、と。
香取 原田さんは、怖かったですね(苦笑)。さっきも言った通り、市は、相手の心の動きを探りながらでないと、前に進めないんですけど、玄吉は、その肝心 の心の動きがまったく読めなくて。「まぁいいか」とか言われるんですけど、そのときも「この人、何笑ってんだ」って、ただ怖かったっていう……。
■「集団での動きみたいなものは、全部SMAPで学んでます」
――ラストシーンでは、カメラがあったことを覚えていないほど、「ひとりであること」を感じていたそうですが。
香取 はい、不思議とそんな感じでした。ただ、それとは逆で、初日のシーンのときは、空が青く広がっていて、まわりに大勢のスタッフさんや共演者の方がい る中で、自分が、市としてそこにいるような感覚を覚えたんです。僕、いつも自分が何をやっているのか、あんまりわからないまま生きていることが多いんです けど(笑)、あのときは、“これから自分は市を生きるんだ”みたいな実感がありましたね。
――先ほど、阪本監督も、「そこにいた人をそのまま撮っていたという感じだった」とおっしゃっていましたが、最初のシーンで、“市として、そこにいる実 感”を覚えて、最後のシーンで“ひとり”になったという体験は、まさに香取さんが座頭市を“演じた”のではなく“生きた”こととシンクロしているんでしょ うね。
香取 そういう体験ができたことは、やっぱり、阪本監督とご一緒させてもらったからこそだと思います。僕、今までも何回か、映画をやらせてもらったんです けど、ある期間を座頭市として生きたことで、初めて、「これからも映画をやっていきたい」っていう感情が、たくさん沸いてきたんです。阪本監督と出会っ て、映画というものへの愛情が、すごく深まりました。そういう新たな始まりになったというか……。
――阪本監督は、香取さんの身体能力の高さにも驚いていましたが、たとえば殺陣に、SMAPとしての活動が、役立っていると思いますか?
香取 それはもう、絶対あると思います! 僕はスポーツも得意じゃないし、集団での動きみたいなものは、全部SMAPで学んでますから。それに、殺陣って、振り付けと似ているところもありますよね。
『座頭市 THE LAST』をキッカケに、映画に対する想いが高まったという香取。ひとまわり成長した“新たな香取慎吾”が見られる日は近いかもしれない。なお、当インタビューはエンタテインメント情報誌オリ★スタ12/20号(12月10日発売)に掲載中。
■「今回は、ほとんどが、現場で沸き上がってきた感情でできてた」
――DVDの特典になる阪本順治監督との対談に立ち会わせていただいたんですが、お話を聞いていて、話題になった全ての場面を、繰り返し観たくなりまし た。それほど、1カット1カットが丁寧に、濃密に作られていたんだな、と。作り手の真摯な思いがひしひしと伝わってきました。
香取 オススメ場面ベスト5を選ぶ作業で、僕も初めて、『座頭市 THE LAST』のDVDを送ったり戻したりしながら観たんですけど、すごくおもしろかったです。キャンペーン中全国を回ったときも、「ここが見どころです!」 みたいなことはアピールしてたのに、最初の印象とは違った、もっとおもしろいところが見えてきて。
――阪本監督は、香取さんの演技を、あらためて絶賛していましたね。倍賞千恵子さん演じるミツに、香取さん演じる市が、「すいやせん」と3回言う場面では、「同じ言葉なのに、違う意味を持たせていることに驚いた」と。
香取 監督やみなさんが思っている以上に、僕、しゃべってるんですよ、頭の中でブツブツと。何しろ、ずっと目を瞑ってたんで、逆に、いろんなものが見えて くることもあって。相手の心が揺れたり、動揺したりするのが、声色ですぐわかる。だから、それを受けて、いろんなことをしゃべってました。その結果、口か ら出た「すいやせん」なんです。だから、何に対して謝ってるかが、一回一回違うんです。
――台本にない言葉を、ひとりで絶え間なく喋っていたんですね。
香取 目を瞑ると、当たり前なんですけど、目の前が真っ暗になりますよね。そうすると、音にすごく敏感になるんです。風が吹けば、身体の隅々でそれを感じ ることができたし……。だから、今回のお芝居は、ほとんどが、現場で沸き上がってきた感情でできてたんじゃないのかな。今はもう、そのときどきで何を喋っ てたのか、全然覚えてないですからね。ただ、音に敏感になるっていうのは不自由な面もあって、たとえばスタッフさんの防寒着が擦れてカシャカシャいう音が 気になって、お芝居に集中できないこともありました。
――香取さんは、オススメ場面に、まず、桜の下で妻のタネ(石原さとみ)を待つシーンをあげています。
香取 あれは……、市が、彼女のことが大好きだっていうことを表しているシーンですよね。好きすぎて、最初のところでニヤッて笑うんだけど、そのあとすぐ に客観的になって、“何をやってるんだ俺!”と恥ずかしくなる……。そんな“想い”が映るシーンって、他にひとつもないんですよ。あの場面だけは、当時と 今では時代も違えば、状況も違うけれど、渋谷のセンター街とか歩いている男のコと気持ちが、共通する部分があるんじゃないかと思います。自分に向かってく るときの彼女の足音が聞こえて、見えないけれど、頭の上を、青い空がいっぱいに広がっていることもわかる。この映画で唯一、幸福感が描かれた場面ですよ ね。
――対照的に、原田芳雄さん演じる玄吉とのシーンでは、原田さんの不気味さが、すごく怖かった、と。
香取 原田さんは、怖かったですね(苦笑)。さっきも言った通り、市は、相手の心の動きを探りながらでないと、前に進めないんですけど、玄吉は、その肝心 の心の動きがまったく読めなくて。「まぁいいか」とか言われるんですけど、そのときも「この人、何笑ってんだ」って、ただ怖かったっていう……。
■「集団での動きみたいなものは、全部SMAPで学んでます」
――ラストシーンでは、カメラがあったことを覚えていないほど、「ひとりであること」を感じていたそうですが。
香取 はい、不思議とそんな感じでした。ただ、それとは逆で、初日のシーンのときは、空が青く広がっていて、まわりに大勢のスタッフさんや共演者の方がい る中で、自分が、市としてそこにいるような感覚を覚えたんです。僕、いつも自分が何をやっているのか、あんまりわからないまま生きていることが多いんです けど(笑)、あのときは、“これから自分は市を生きるんだ”みたいな実感がありましたね。
――先ほど、阪本監督も、「そこにいた人をそのまま撮っていたという感じだった」とおっしゃっていましたが、最初のシーンで、“市として、そこにいる実 感”を覚えて、最後のシーンで“ひとり”になったという体験は、まさに香取さんが座頭市を“演じた”のではなく“生きた”こととシンクロしているんでしょ うね。
香取 そういう体験ができたことは、やっぱり、阪本監督とご一緒させてもらったからこそだと思います。僕、今までも何回か、映画をやらせてもらったんです けど、ある期間を座頭市として生きたことで、初めて、「これからも映画をやっていきたい」っていう感情が、たくさん沸いてきたんです。阪本監督と出会っ て、映画というものへの愛情が、すごく深まりました。そういう新たな始まりになったというか……。
――阪本監督は、香取さんの身体能力の高さにも驚いていましたが、たとえば殺陣に、SMAPとしての活動が、役立っていると思いますか?
香取 それはもう、絶対あると思います! 僕はスポーツも得意じゃないし、集団での動きみたいなものは、全部SMAPで学んでますから。それに、殺陣って、振り付けと似ているところもありますよね。
『座頭市 THE LAST』をキッカケに、映画に対する想いが高まったという香取。ひとまわり成長した“新たな香取慎吾”が見られる日は近いかもしれない。なお、当インタビューはエンタテインメント情報誌オリ★スタ12/20号(12月10日発売)に掲載中。