> 映画『殺し屋1』や『オーディション』などの個性的な作品から、映画『ゼブラーマン』や『ヤッターマン』などの大 作まで手掛けてきた三池崇史監督が、東日本大震災のために当初予定したアメリカでの映画『十三人の刺客』の宣伝をキャンセルしたため、Skypeで同作の インタビューに応じた。
オリジナルの映画『十三人の刺客』は日本映画の黄金期に製作されているが、監督自身にとってこの黄金期の作品の影響は大きいのだろうか。「オリジ ナルの作品は僕が3歳のときに製作されましたが、黄金期の映画を観る度に羨望の目になっていると思います。今の日本の映画界が持っていない魅力や力がそこ にあるんですよ。現在、我々が失っているものが、そこにはいっぱいある気がして、そこで僕はあえて彼らのような作品に挑戦してみたいという気持ちになるん です」と語る三池監督は、次回作で日本映画の黄金期に製作された映画『切腹』として世界に名をとどろかせた滝口康彦の「異聞浪人記」を『一命』としてリメ イクする。
では、今の日本映画界に足りないものは何だろうか。「志ですね。今の日本は、ヒットしたアニメやドラマがあったりして、それをテレビで人気のある タレントやグラビアアイドルでキャスティングしていて、それらの最後に位置しているのが映画なんです。映画になったら、特に新しいことをやるわけではな く、いわゆるその延長線上にあるんですよ。映画でムーブメントが途切れているんです。映画には、ここから始まるというものが、かつてはあった気がします。 当時は、役者やスタッフにもしっかりと投資をしていましたからね」と苦言を呈した。
死に場所を探している侍、島田新左衛生門役を演じた役所広司のキャスティングについては「昔から彼に魅力を感じていて、何度か出演をオファーした のですが、いろいろスケジュールの都合で仕事できずに、やっと今回実現した感じです。彼とは、今村昌平監督のもとで仕事をして、お互いが興味を持っていた 存在だったと思います。彼は僕が思っていた以上に素晴らしい役者でした」と念願がかなったことを喜んでいた。
稲垣吾郎が演じた松平斉韶(なりつぐ)について、実際の人物は隠居してから亡くなっていて、むしろ暴君ぶりは、斉韶の後を継いだ斉宣(なりこと) の方に見られるのではないかとの質問に「そこが少し謎なんですが、オリジナルの作品もなぜか斉韶(なりつぐ)が暴君の設定になっているんです。一代入れ替 わってしまっているんですよ。僕らもこれは変だな、斉韶(なりつぐ)さんには悪いと思ったのですが、おそらく名前の音感からそうしていたのかもしれません が、あえてオリジナルを尊重してこの映画でもそういう設定になったんです」と明かした。
稲垣吾郎の冷血な演技が光っていたが、即興的な部分はあったのか。「僕は最初に、稲垣さんに悪役の芝居をしないでくれと言ったんです。この役は観 客や周りから見て悪い奴で、本人は自分が正常で、むしろ何かをちゃんと見えている(先見性がある)と思っているんです。だから美しく、そこで平気で立って いてもらいたいと稲垣さんには伝えていました。やはり、どこか悪い奴なんだと少しでも意識してしまうと芝居にでてしまうし、不必要に伏し目がちになったり するので、余計なことはなしで演じてもらいました」と述べたように、この映画でいちばん印象に残ったのは、稲垣吾郎の芝居だった。
また、伊勢谷友介が演じた山の民は、映画『七人の侍』の三船敏郎さんが演じた役菊千代に似ているが、「強く意識したわけではないですけれど、後で 分析してみると黒澤明監督への意識は、自分が思っているよりも強いんだなぁと思いました。映画製作をしているときは、自分が一杯一杯で、かつての映画を取 り入れたりするような余裕があまりないんです。無我夢中にやっているため、潜在意識に眠っている何かが勝手にそうさせたのかもしれません」と笑いながら映 画を振り返った。
市村正親が演じた役は、かなり難しい役であるように思えることについても「日本人(ビジネスマン)が、よく立たされている立場に近いんです。普通の人なら逃げたりしますけれどね……」と笑って語った。
あれだけの俳優が死闘を繰り広げるセットの製作について「時代劇をやり慣れている京都のスタッフと、僕らがいつもやっている全く時代劇が初めての 人間たちが、お互いの良いところを吸収したり、それとは逆にぶつかったりしながら製作していました。だからキャストなども含め、一人ひとりが精一杯この映 画のために戦ってくれました」と締めた。
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