<三谷幸喜>「挑戦の末、手ごたえあり」 生誕50周年企画「ろくでなし啄木」を語る WOWOWで放送

まんたんウェブ より(以下一部抜粋)

藤原竜也さんが歌人の石川啄木を演じ、今年1~2月に上演された三谷幸喜さん作・演出の舞台「ろくでなし啄木」が、WOWOWで4日放送される。歌集「一 握の砂」で知られる27歳で早世した啄木の素朴な文学青年像と、その一方で語られている乱れた男女関係や金銭にルーズな一面などを描いたエロティック・サ スペンスで、啄木に翻弄(ほんろう)される友人・テツを藤原さんとは舞台初共演となる歌舞伎俳優の中村勘太郎さんが、啄木の元恋人・トミを舞台初挑戦の吹 石一恵さんが演じた。

【写真特集】三谷幸喜 : 藤原竜也×中村勘太郎×吹石一恵  生誕50周年企画の第1弾  WOWOWで放送

 同舞台は、11年に生誕50周年を迎える三谷さんが今年、舞台や小説など新作7作品を発表する「三谷幸喜大感謝祭」のトップを飾った作品で、WOWOW では2月24日に「天王洲 銀河劇場」(東京都品川区)で上演された舞台を収録。作・演出の三谷さんに公演期間中に話を聞いた。(毎日新聞デジタル)

 --稽古場の様子はどうでしたか。

 20代の人たちとやることが、こんなにも僕にとって刺激的なことなのか、新鮮なことなのかとすごく感じました。とにかくパワフルだし。台本は稽古をしな がら、10枚また10枚と少しずつ渡していったんです。例えば、新たなページをその日の最後に渡す。で、次の日の稽古に集まってくると、もう誰も台本を 持っていないんです。覚えてきているんです。そのシーンでやらなくてはいけないこと、言わなくてはいけないことを、藤原さんも中村さんも理解しているか ら、いきなり立つわけですよ。こんなにすぐ台本を持たずに立ち稽古をやってしまう2人っていうのは、どれだけの才能と集中力、体力なんだろうと驚いたし、 それを演劇とはそういうものなんだと思い込んでしまって、一生懸命についていった吹石さんも、本当に頑張ったと思いますね。

 --啄木は藤原さんをイメージされたんですか。

 石川啄木があの写真から醸し出すイメージと実態が全然違っているという二面性に興味を持って。誰にでも好かれる笑顔がまぶしい、そして早く亡くなってし まった不幸な天才歌人である一面と、女好きでばくちが好きで借金を抱えて、いろんな人をだましてきたダークな面を持つ啄木。両方が演じられる俳優さんは藤 原さんしかいないと思い、彼にぴったりな題材だなというところからですね。

 --今回脚本家として、面白いものを書こうという感じで書いたわけではないとお聞きしましたが。

 僕はずっとコメディーを作ってきて、今後も作り続けるつもりでいるし、自分は喜劇作家だと思っているんです。だけど、今回は僕の考えているコメディーと は違うもので。僕の考えるコメディーは、映画であれ、舞台であれ、とにかくせりふとかストーリーとかシチュエーションとか、もしくは小道具一つ一つにおけ るすべてのものが“笑うため”に作られているもの。今回は明らかにそうではないんですよね。笑わせるためではない要素がたくさんあるから。結果的には自分 が思っていたよりもちょっと多く笑いは存在しましたけど、それは俳優さんの資質というか、稽古しながら作っていったもので、そこに僕も想像しなかったよう な笑いが増えていきました。それでもやっぱりこれはコメディーではないし、僕も最初からそのつもりで書いていました。

 --なぜサスペンスという要素をいれようと思ったのですか。

 笑いはなくても、コメディーではなくても、やっぱり僕が作るものはエンターテインメントでなきゃいけないと思っているので。「お客様を楽しませる」とい うものの中で、一番効果的なものが笑いだと思うんです。だけど、そうじゃない、笑いがない部分で、何ができるかと考えたときに、それはサスペンスの要素で あったりとか、より深い人間ドラマの要素であったりとか笑い以外の要素をいつもより多く足していくということだと思ったんです。

 --今回の「ろくでなし啄木」が三谷さんの今年の50周年企画のこけら落としのような芝居ですが、全体を終えてみてどうでしたか。

 今年4本舞台をやるんですが、4本とも今までやったことないものにチャレンジするというテーマがありました。今回のチャレンジは、若い俳優たちとやると いうこともそうですし、今まで僕がやってきていない時間とか空間、しかも抽象的なセットの中での一瞬で場所を変えてしまうような演劇的な演出もある種、挑 戦でした。でも一番大きな挑戦は、コメディーじゃないもので、どれだけお客さんを引きつけることができるか、ということでした。そんなチャレンジの末に出 来上がった「ろくでなし啄木」だったんですけど、僕なりにすごく手応えがあり、挑戦してみてよかったと思っているし、また挑戦のしがいがあった作品だった と思います。

 *……WOWOWでは、生誕50周年企画「三谷幸喜大感謝祭」の第1弾舞台「ろくでなし啄木」を、4日午後6時15分からハイビジョンで放送予定。