Movie Walker より(以下一部抜粋)
>儚げな魅力で1990年代にはアイドル的人気を博した女優・裕木奈江。近年では、クリント・イーストウッド監督『硫黄島からの手紙』(06)、デヴィッド・リンチ監督『インランド・エンパイア』(07)と、ハリウッドを拠点にワールドワイドに活躍している。最新作は、アイスランド初のホラー映画『レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカー』(公開中)だ。世界中に広がった反捕鯨運動により、捕鯨禁止で失業した一家が、ホエール・ウォッチングに訪れる観光客に逆ギレ。船上が大虐殺の舞台と化す、何ともブラックユーモアにあふれたホラー映画だ。
【写真】「目で見ただけで痛さを感じるような、非日常を味わえるのがホラーの魅力」と語る裕木奈江
裕木は、金持ちの夫婦にこき使われる日本人メイドのエンドウ役を怪演! 自身「今までのキャリアの中でも最も不思議な役」と言うエンドウの魅力から、海外での奮闘までを語ってもらった。
役柄の印象を聞くと、「エンドウは小さくて弱そうなんだけど、みるみるうちに凶悪になっていく。アジア人って、ホラー映画では大抵、最初の方で死ぬでしょう? だけどエンドウは、サバイバル能力がある極悪人(笑)。是非演じてみたいと思いましたね」と、生き生きと述懐してくれた。
役作りの参考は、“腐女子”だったという。「演じた当時は、まだその言葉を知らなかったんですけど、“腐女子”が当てはまるのかな。頭が良くて、自分の趣味の世界を持っているオタク系。ネイルに行ったりするよりも、『テコンドー習っています』とか言うタイプ(笑)。彼女はストレスで自分の手を噛んでしまうくらい、自分の人生が嫌。劇中ではあまりわからないですが、歯にマニキュアを塗って、ヘビースモーカーであるか、健康状態が悪い設定にしているんです」。ストレスをため込んだエンドウの爆発力に注目だ。
傑作ホラー『悪魔のいけにえ』(74)で、チェーンソーを振り回す殺人鬼・レザーフェイス役を演じたガンナー・ハンセンが登場することでも話題の本作。「ガンナーさんとは、ホテルが隣の部屋だったのですが、見た目もサンタクロースのようで、本当に良い人で。隣からチェーンソーの音がしてくることもありませんでしたし(笑)。『寒いでしょう。紅茶は好き?』って聞かれて、袋一杯に紅茶をくれました。レザーフェイス・フェイバリットの紅茶。エンドウにはそのスピリットが入ったのかもしれませんね」。
レザーフェイスとの共演やハリウッドでの巨匠との仕事など、実感はいかがなものだろう。「本流があって、“役者”という方向は一緒だけれど、運命のバイパスに入っているなって。しかも、多くの人が入り込まないような色々なバイパスに、自分が主体的にというよりも、どんぶらこっこと流れてきたような感じがしているんです」。
海外での生活に話が及ぶと、「役を得るまでは、オーディションなど大変ではあります。でも、自分が“開いた”ような感じはしますね。言動とか人に対する態度も、日本にいる時は、女優なんだからちゃんとしなきゃって、よそよそしかったと思う。アメリカだと、空気を読んだり、遠慮し合うということはないので、自分を足したり引いたりせずに、できることはできる、できないことはできないと言って、間違ったら早めに謝っちゃう(笑)。自分に正直でいられるのは楽ですね」と、新天地で起きた変化を明かしてくれた。
単身乗り出した彼女の船は、今度はどこへ向かうのか。「40歳になったとか、区切りになると不安になることはありますよ。でも、先も見えないけれど、やっぱり映画が好きなんですね。自分を閉めてしまわずに、色々なことを楽しんでやっていきたい。今回もエンドウのような面白い役をいただいて! やっていて面白い役は元気になりますから」。
何ともすがすがしい笑顔に、充実ぶりがうかがえた。ホラー映画の屋台骨を支え、どんな波でも乗り越えて行きそうな彼女から、ますます目が離せない!