三池崇史監督の「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」(07)出演以来、チェン・カイコー監督作など、近年その活躍の舞台をアジア圏に広げていた安藤政信が、今年、石井克人監督の「スマグラー おまえの未来を運べ」で4年ぶりに邦画に出演する。鍛え抜いた肉体から繰り広げられるアクションシーン、そして海外経験で身に付けた中国語を生かし、無敵のチャイニーズマフィアを熱演する安藤が、久々の日本映画出演にかけた思いとは。
安藤政信「スマグラー」インタビュー
以前から石井監督の大ファンだったという。「もう、とにかく石井さんとやりたいっていう気持ちで、石井さんからのオファーだったらなんでもいい、とにかく石井さんありきでそれがすべての始まりでした」と出演の経緯を語る。「『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』以降、自分の演技や映画に対する趣向は、日本の観客には止まっていると思ったので、とにかく久々に自分が出る作品を見てくれた人に対しては、焼き付けたいという思いがすごくありました」。
安藤が演じるのは、ヌンチャクを武器に、相棒の“内臓”とともに非情な殺しの依頼を受ける、無敵のチャイニーズマフィア“背骨”。鍛え抜かれた身体から繰り広げられる、思わず息をのむ圧倒的なアクションシーンでは、撮影中にあばらの骨折も経験したという。
「筋肉を作るのって、3カ月くらい時間をかけなければいけないんですが、今回は撮影まで1カ月ほどと時間がなかったので、ゆっくり体を作ることはできなくて、とにかく腹筋や背筋のトレーニングを毎日400~500回やっていたんです。中国語のセリフの量も結構あったんで、それを全部1カ月でやるのは間に合わないんじゃないかって、もう苦しくて苦しくて、正直きつかったですね。極限だったんですけど、やり遂げられたのは、中国での経験が大きかったですね。中国の現場は、もっと大変だったんです……(笑)」
安藤にとって、海外での経験はどのようなものだったのだろうか?
「当然自分のマーケットを広げていきたいし、いろんな才能と出会いたいと思っているので、日本だけではなく、表現する場所はどんどん広げていきたいという思いはあります。チェン・カイコー監督とベルリンのコンペに行ったり、台湾の監督とベネチアのコンペに行ったことは、映画人としてのアピールだったり、マーケットとしてあんなにいい舞台に立てたのは、最高のことでした」と述懐する。
しかし、そんな得難い経験の中で、ひとりの日本人として感じることがあった。「(出品された映画祭で)中国人は中国人同士で喜んで、台湾人は台湾人同士で喜んでいるんです。自分ももちろんうれしいんだけれど、みんなとは違ううれしさで、どこかこう、少し穴があいているような感覚。そういう民族性とか、ちょっと超えられない壁にそこで直面しました。ずっと日本にいたらこういう風に考えないと思うんですけど、次は、日本映画で国際舞台に立って、世界の人に映画を受け入れてもらえたら、もっとうれしいだろうな」と言葉を選びながら明かした。
「全体を通して、背骨に対しては満足していて、自分が持っているスキルはちゃんと出せたと思います。久々に日本映画に戻ってきて見せる役として、こんないい役を用意してくれた石井さんにものすごく感謝しています」
「スマグラー おまえの未来を運べ」は10月22日から全国で公開。