Movie Walker より(以下一部抜粋)
>トロント映画祭で大絶賛を受け、アカデミー賞の呼び声も高いアレクサンダー・ペイン監督作『ザ・ディセンダンツ』(全米11月18日公開、日本2012年公開)がニューヨーク映画祭のクロージングを飾り、ファミリー映画らしく、共同で脚本も手がけたアレクサンダー監督、主演のジョージ・クルーニー、シェイリーン・ウッドリー、ロバート・フォスター、アマラ・ミラー、ボー・ブリッジス、ジュディ・グリア、マシュー・リラード、ニック・クラウスの9人が仲良く記者会見に登壇した。
【写真】ニューヨーク映画祭のクロージングを飾った『ザ・ディセンダンツ』
同作は、愛と許しという永遠のテーマを軸に、家族の再生を描いたドラマ。ハワイのオアフ島でリッチな生活を送っていたマット(ジョージ)は、妻が突然のボート事故で昏睡状態に陥り、余命がないことを知らされる。さらに長女のアレクサンドラ(シェイリーン)から妻が浮気をしていたことを知らされて衝撃を受けるが、その事件をきっかけに、自分と家族を見つめ直していくというストーリーだ。
プライベートでも「父親にはなれない!」と一生独身宣言をしているジョージが、映画の中で父親役を演じたことにメディアも大きな関心を寄せていたが、かねてからアレクサンダー監督がアカデミー賞脚色賞を受賞した『サイドウェイ』(04)に大きな衝撃を受けたと公言していたジョージは、「アレクサンダー監督の作品だよ。断るわけがないでしょ。それにハワイで撮影できるなんて、こんなに嬉しいことはないよ(笑)。脚本もテーマも素晴らしかったしね」と、新境地に挑んだ経緯を語った。
実際にはアレクサンダー監督から強烈なアピールを受けたようで、「原作を読んでとても魅了されたのですが、『マットが妻の死を愛人に伝えにいったところ』と、『浮気相手の妻が、病院までマットの妻に会いに行ったところ』の2点が特に気に入って、映画化したいと思いました。マット役は、ジョージを思い描いて脚本を書きました。2年前の9月に、トロントにいたジョージのところまで飛行機で会いに行って、出演をお願いした」そうで、マットはジョージが演じるべくして作られた人物だったようだ。
今作でアカデミー賞主演男優賞のノミネートが確実視されているジョージだが、彼らしい娘たちとの交流が実に見事に描かれている。トロントで行われたオーディションを勝ち抜き、難しい年頃の長女アレクサンドラ役を演じたシェイリーンと、次女のスコッティと演じたアマラとの息の合った演技について、どのように信頼関係を築いたのかを問われたジョージは、ただただふたりの才能を絶賛した。一方でアマラが、「特に難しいことはなかったわ。シェイリーンとは撮影中、本当の姉妹みたいに仲良くなったし、皆で週末もずっと一緒に過ごしたから自然にこうなったの」と答えると、すかさずジョージが、「僕は、週末は一緒じゃなかったからね!」と否定して、会場の笑いを誘った。
また、マットの妻の浮気相手の妻ジュリーを演じたジュディが、「アレクサンダー監督と仕事ができるなんて夢のようで緊張しました。ジョージとは、『スリー・キングス』(99)で初共演した時にセックスシーンを演じたことがあるので、それほどでもなかったです」と答えると、ジョージが「そうそう、のっけからクレイジーなセックスシーンを演じたんだよね!」と合いの手を入れた後、「子供たちは耳をふさいでいなさい」と、笑いながらコメントし、父親らしい子供たちへの配慮も忘れなかった。
『スクリーム』(96)でおなじみのマシューは、今作でマットの妻を寝取る二児の父親ブライアンを演じているが、「この世界で俳優業を続けていくというのは結構大変なので、しばらく映画の仕事がなったんです。それが久しぶりにこんな素晴らしい映画に出演するチャンスをもらって、感謝の気持ちで一杯です」としみじみした様子で語った。
長女アレクサンドラの恋人シドを演じたニックも、「こんなに楽しい現場で仕事をしたのは初めてだし、共演者の方たちからいろんなことを学ばせてもらいました」と語り、出演者全員がファミリーとして、ハワイという恵まれたのんびりした環境の中で意気投合、和気あいあいと撮影が行われたことが伝わってくる記者会見となった。
一人ではインタビューに応じなくなったジョージが現れるかもしれないという期待から各国からメディアが訪れたこの記者会見では、アレクサンダー監督に対して、「お洒落なジョージに(ジョージはその日もジーンズに黒の革ジャンで決めていた)マットが着ている(ダサい)アロハとかカーキー色のチノパンを履かせたのはとても驚きました」と一風変わった質問が飛び出した。
アレクサンダー監督は、「ハワイに行ったことはないですか? あれがハワイのスタンダードな服装なんです」と困った様子で答えると、ジョージは「僕はケンタッキーの(田舎)出身だから、カーキーのズボンにはそんなに抵抗がないし、色とか柄は違ってもケンタッキーではああいうのを着ていたよ(笑)」とフォロー。しかし、この服装こそが、まさにジョージが新境地を開いた一つの象徴のように思われる。
終始ご機嫌で笑ってばかりのジョージだったが、厳しい批評家たちが集まるニューヨークの記者からは出ないようなプライベートな質問(もし奥さんに浮気されたらどうしますか?)にはちょっと嫌気がさしたようで、最初は「その質問はマシューにした方が良いんじゃないの」とうまく交わしたが、記者が「質問に答えてないですよ」というと、「そんなことわからないよ!」と突っぱねる場面もあった。
しかし最後にジョージはこの映画について、「これは愛と許しがテーマなんです。妻が浮気をしたのは悪いけど、忙しさにかまけて妻を放っておいたマットも悪い。人間は誰でもミスをするけれど、なかなか人を許すことは難しい。僕も年を取って、大分そういう寛容な心が生まれてきていろんなことを許せるようになったんだ。だけど、スピード違反している奴は許せないよ」と最後まで会場の笑いを誘いつつも、50歳を迎えたジョージ本人の生き様を思わせるコメントで締めくくった。
撮影中に誰もが感じたというジョージの気配りは、この記者会見でも現れており、座る位置やメディアの関心が自分だけに向かないように、他の出演者に話を振るなどの配慮も。最後の撮影時には記者に向かって、「皆、後姿も撮りたいでしょ!」と出演全員を後ろに向かせる場面もあり、とてもアットホームで楽しい記者会見となった。