私「ランゴ」を見た時思ったんです、ジョニー・デップの天分って、神話や民話におけるトリックスター的才能にあるんだなって。それが最も生かされているキャラクターがジャック・スパロウであり、ランゴなのですよ。舌先三寸で神をも欺くけれど、美女の誘惑にはからきし弱い。彼が何かを始めると周囲の人間は巻き込まれてそれこそひどい目にあわされるけれど、でも最終的に彼のおかげで世の中はちょっぴり良い方向に転がり始める。

バービンスキー監督もジョニー・デップに出会う前は自分が本当は何を撮りたいのか気づいてなかったんだと思います。彼はスラップスティック的にものを破壊するシーンを撮るのが好きだったけれど、本当に壊したかったのは世界そのものなんですよ、きっと。一つの枠組みとしての世界、自分の周りにあって境界を決めて囲い込んでくるものね。ジョニーと組むことによって「パイレーツ」では「ディズニー映画」という枠を壊したことで、自分のやりたかったことがわかったんじゃないかな? トリックスターというのは、安定した世界に変異・変化を与える存在だから、バービンスキー監督にとってはまさにジョニーはエクスカリバーみたいな魔法の剣なんだと思います。

ジョニー・デップのジャック・スパロウって、やっぱり偉大なんだと思いましたわ。本来映画の一脇役にすぎなかったはずなのに、今やその名を知らぬものとてないキャラクターとして存在を確立しましたからね。最近の日本の映画で言うなら「リング」の「貞子」です。

ランゴはジョニーの見かけの美しさを全部はぎとって、そのトリックスターとしての本質のみ抽出したようなキャラでした。でも、カメレオンはその体表の色を変えることで、ジョニーの美しさ同様に見ている者を幻惑することができるのですよ。ジョニーがトリックスターであるためには、実はその他者を魅了する美貌こそが必要なんだわと思ったりして。